女神に望む

リンゴ売りの騎士

短編



「はろはろ~です。どうもこんにちわ女神ですよ~。さてー、いきなりですけど、貴方にお話があります」



「結婚してください」



「実はですね、こちらに貴方をお呼びしたのはある場所に行っていただきたく思ってのことだったんですよ~」



「好きです、付き合ってください」



「その世界は~、魔法と呼ばれる力が発達している世界でしてね、いわゆる「ふぁんたじー」な世界なんですよ~」



「一目ぼれしました。俺と一緒になって下さい」



「どうです~? 何だか楽しそうなところでしょ~? あ、チートとかももちろんあげちゃいますよ~? 俺つぇぇーできますよ?」



「ああ、貴方の好きなところは全部です。好きな所も嫌いな所も全部見せて下さい」



「楽しそうでしょ~? 女の子にモテモテですよ~? よっ!! 主人公!!」



「え? 子供? ……全く、気が早いですね。女神様の望むだけ僕は付き合いますよ」



「定番なのはやっぱり、時間や空間を自在に操れる能力とかですね~。あ、想像したものを創り出すなんて言うモノづくりの能力もありますね~」



「結婚して幸せかどうかですって? この質問に関しては千差万別、十人十色な答えがあるとは思いますけど、俺は……幸せですね。あなたのおかげで」



「実は種族とかも選べるんですよ~? エルフとかドワーフ、獣人や魔族なんてのもありですよ~? 一見して弱そうな種族になってからの無双というのも最近はあるみたいですね~?」



「身体が目当て? もちろん僕も男ですからね。興味ありですよ、そりゃあ。でも、なんていうかな……手を握って側にいてくれるだけでものすごく充実した気持ちになるんですよ。ああ、大好きだ」



「いっそのこと魔王とか一国の王にでもなって見ます~? 貴方だけの最強の軍団も夢じゃありませんよ~? 貴族という身分を貰って悠々自適に過ごすのもありですね~」



「君のおかげで、僕は幸せだ。君が幸せになること、笑っていること、楽しそうにしていることが何よりも嬉しい……大好きだ」






「………………私の話、聞いてました?」





「もちろん。君の話を聞き逃すなんてありえない」




「………………では、私が授ける能力は決まりました?」





「君を笑顔にする資格を僕に下さい」





「ああ、それなら簡単ですよ~。あなたが欲しいモノを言ってくださればすぐにでも笑顔になれますね~」




「ハハハ、全く……恥ずかしがりやさんですね。そういうとこ……大好きですよ」







「……フフフフ」



「アハハハハ」







「………………」



「………………」







「……あなた」




「なんでしょう? 女神様」







「ふざけないで真面目にやってくださいます? これ、一応あなたの人生を左右する選択ですよ?」



「なるほど、さっきまでのようにふんわり話していたのは相手に対して余計な心理的負担を掛けないためですね? 流石は女神様。なんと慈悲深い」





「……わかりませんよ? 大事な選択をそのように話すことでさも大事ではないように印象付けることが目的かもしれませんよ~?」



「ほう、そんな技術を使えるなんて……女神様は頭も良いんですね、ますます好きになりました」






「……もしかしたら女神でさえないかもしれませんよ~? わたしが何者であるか分からないうちは下手なことはしない方が良いですよ~?」



「たとえあなたが何者であっても、僕は貴方という存在そのものが大好きですから。気にするようなことは何もありません」






「………………」



「………………」






「……では、私は貴方のことが嫌いですと言ったらどうします?」




「……そりゃあ、もちろん」







「………………」



「心の底から残念ですよ。あなたの隣に立って、あなたを幸せにするのは僕でありたい……でも」






「…………」



「僕にそれが出来ないのであれば、僕は大人しく身を引きましょう。まあ出来れば、あなたの幸せを願うことは許して欲しいですけどね」






「……ふぅ~」



「一息入れます?」





「……もし私が極悪非道なことをあなたに命令したら、貴方はそれに従います?」




「いいえ? 全力で止めますよ?」






「私のお願いでもです?」



「勿論です。それは間違っていると、ちゃんと怒りますよ。言い争いもたくさんしましょう……それでも大好きなままです」






「たとえ私が世界中から嫌われていてもです?」



「ハハハ、例え話が大げさすぎですよ。どんな人からも好かれている人間がいないように、どんな人からも嫌われる人間もいませんよ……でも」





「でも?」



「もしそうなったとしても、僕は……僕だけは貴方の味方あり続けますし、貴方を大好きなままです」






「………………私、独占欲強いかもですよ? 嫉妬深くてめんどくさい女かもしれませんよ~?」




「僕にとっては最高です」





「………………重い女かもしれませんよ~? 一々連絡とってくるしつこい女かもしれませんよ~?」



「それが他でもない貴方だったのなら、構いませんよ」






「………………普通、こんな女、嫌じゃないです?」



「嫌じゃないですよ、全く」





「どうしてです?」



「大好きだから。ただそれだけ」





「……そうなると、チートとかは本当にありませんよ?」



「何一つ要りません。強いて言えば、貴方と出会えたことがチートですかね」





「……好きになっちゃいますよ? 貴方のこと」




「相思相愛ですね。最高だ」







「浮気とかしたら、許しませんよ?」



「しませんよ。僕の両手は、貴方を包むためにありますから」





「女神的な力も無く、ただの普通の人に……そして、いつかはおばあさんになってしまいますよ?」



「それだけ長く一緒に居られたのなら、僕にとっては誇りですね。あなたと幸せに過ごしてきたという証になるから」







「………………こんなの、断れないです」




「僕の全力の求婚です。結婚してください。貴方の側にいるのは僕でありたい。でも、選択権は貴方にあります。だから、僕はお願いをすることしかできません………あなたと共に歩む資格をあなたを愛する資格を……僕にください」







「………………好きになっちゃいました。貴方のこと」



「では、式場の予約をしましょう。僕も大好きですよ」







 互いに名前も知らなければ、素性も分からない。しかし、誰かを愛するというのは、相手のことを好きだという、ただそれだけのことなのかもしれない。




 条件があるから好きだというのは、好きなのは『その人』ではなく『その条件』なのだから。

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