不死殺しは不死者に生きることを望む

十五夜しらす

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 活気のあるコーヒーショップの店内。

 ショッピングセンター内でもあり、土曜日ということから、学生のみならず家族連れの姿も多い。

 そんな平和そのもののような空間で、相席で向かい合っている少女はとても重々しい口調で言う。


「私が不死者なんです」


 ――不死者。

 古くは江戸時代末期からその存在が知られている。

 文字通り『不死』。首を斬ろうが水に沈めようが死ぬことはない。

 どうして不死者という存在が生まれてしまうのか。それは現在でも公には不明となっているが、その人数は一人や二人ではない。何千人という不死者が日本に存在している。

 日本だけ。海外に移住した日本人が不死者だった例はあるが、外国人が不死者となった例はない。

 原因として、遺伝という線はほぼない。何故なら不死者となった者は繁殖できないからだ。むしろ、病気の一種と考えられている。先天的ではなく後天的に不死者となってしまう、ということだ。

 その証拠としては、不死者は老いることもない。大人は発症したその年齢のまま生き続けることになる。子供は大人の体まで成長するが、そこからは例に漏れず老いることがない。

 そして、当然かもしれないが一般人からしてみれば『普通の人間とは異なる存在』として忌み嫌われていた。それに、ごく稀だが不死者が突然正気を失って狂暴化する事例があるのも理由のひとつである。長年の不死者を使った研究結果では『脳に何らかの物質が大量に分泌されて正気を失っている』らしいのだが、その物質は一般的に存在しないものなので、ダークマターのように未知なる物質として扱われている。

 しかし、不死者とは言え、吸血鬼のように不死以外に特別な力があったりするわけではない。身体能力や知力は普通の人間。なので、正気を失って狂暴化しても警察が取り押さえてくれる。刃物や拳銃などの武器を手にした不死者の相手には特殊部隊が対処してくれていた。

 確かに一般人からして見れば脅威ではあるが、頻繁に世の平和を乱すほどの存在ではないということでもある。

 それでも、正気を失ったかの是非に問わず、罪を犯した不死者の扱いにはとても困ってしまう。

 何せ、死なないのだから。

 死刑にもできなければ、無期懲役でずっと牢屋に入れておくにも税金がかかる。普通の人間と変わらない欲求があり、法により人権が認められているので不死者と言えど食事を出さないわけにはいかない。なので、重い罪を犯した不死者たちをずっと管理するのは難しかった。

 そこで、時の政府は不死者を隔離するための『特別隔離地区』を設置した。そこでは移動が制限されるものの、ひとつの町として機能するほどの不死者が生活している。

 だが、不死者となった者が自首をするようにその隔離地区に入る場合もあるが、ほとんどの者は日常である外の世界で生活しているというのが現状だ。

『特別隔離地区』なんてご大層な名前だが、結局は牢屋の延長。外の世界で生きている方が圧倒的に居心地が良いのだから、人間でもある不死者にとって当然の選択であった。

〝隔離〟というのは人間としての自由を奪われるということだ。

 それを嫌った不死者は一般人にバレないよう工夫しつつその時代を生きている。

 しかし、不死という枷から〝解放〟する術は存在していた。

 すなわち、不死者が死ぬということ。『不死殺し』と呼ばれる人間によって葬られることによって成り立つ。

 一般人の安楽死が認められていない日本だが、不死者が死を望み不死殺しに殺されることは法で認められていた。

 長く生き過ぎて孤独となり死を望む者。

 特別隔離地区に入るぐらいならと死を望む者。

 もう現世を満喫したと死を望む者。

 理由は様々であり、まさに十人十色だ。


「だから」


 目の前の彼女が言葉を続けようとする。そして、彼女が何を言おうとしているのかわかっていた。

『不死殺し』である〝俺〟に向かって、自身が不死者と打ち明けるということは――、


「私を殺してください」


 まだ高校三年生だと言う彼女の決意は固かった。

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