第二話a
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もうお馴染みとなってしまった薄暗い空間。ファロスディアに着いていい宿でいいベッドで就寝できたというのに休まる暇がない。体の方はちゃんと睡眠をとった時と同程度に回復してるけど、精神的には疲労が溜まる一方だ。
夜遊びも十日ほど続いているしそろそろ完全休暇が欲しい。これまではあの褐色ロリ魔王にそのことを言うと駄々をこねられて俺が折れるはめになっていた。しかし今日という今日はガツンと言ってやろう。
そう意気込んでいると、さっそく背後で気配を感じた。振り返るといつもの椅子に座っているグレアの姿があった。
だが、どこか様子がおかしい。いつもなら出てくると同時に高笑いしているのに。顔を俯かせていていつも以上に小さく見える。床に届かない足もぷらぷらさせていない。
「おい」
「…………」
呼びかけてみたが反応はない。こんなグレアを見るのは初めてで少し不安になってきた。
「どうした? 何かあったのか?」
「…………!」
さらに呼びかけると、グレアはバッと顔を上げた。それによって俺は眉根を寄せる。グレアの目は赤く腫れており、頬に涙を流した跡がたくさんあったからだ。そして鼻水を垂らしている。
「ずびっ……、ザグドぉおおおおおおおお!」
「うわっ⁉ そんなべたべたの状態で近づくな!」
「ズビビビビビッ!」
「…………」
椅子から飛び降りたグレアが駆け寄ってきて俺に抱きついたのも束の間、あろうことか俺の服で鼻をかみやがった。夢の中だけどこれ現実に引き継がれたりしないだろうな。
「うぐっ……、ひっく……」
「……どうしたんだ?」
グレアが俺から離れたので問いかけてみたが泣いてばかりである。落ち着くのを待った方が良さそうだ。とりあえず鼻水で汚された服を脱いでタオル代わりに手渡しておいた。
そうしてしばらくすると泣き疲れたのかグレアはとぼとぼと椅子に戻って行った。その際に涙と鼻水をたっぷり吸いこんだ服を投げ返された。
「今日……、会議があってな……」
やっとぽつりぽつりと話し始めてくれた。そういえば今日はグレアが話しかけてこないと思っていたけど、魔王として働いていたらしい。
「この前、お前の村に我の親衛隊を送っただろ……。そのことが我を良く思っとらん幹部共に知られて……。勝手に部隊を動かして、成果も上げれなかったというのはどういうことだ、と……。本当のことも言えず……、じいやが庇ってくれたがここぞとばかりに奴らの追及が激しくて……。被害はなかったから、なんとか流すことはできたが……」
まさかグレアから組織社会の闇を語られるとは。魔王というのは独裁者であって思うがままに魔物たちに命令を出していると思っていたがそうでもないらしい。
「先代魔王の父上が一年前に急死し、悲しみに暮れる間もなく我が担ぎ上げられ……。しかし弟のダルムが魔王にふさわしいと言う幹部もおり……。我の派閥とダルムの派閥に分かれてしまったが、我が不甲斐ないばかりに我を慕ってくれる者たちに苦労をかけるばかり……。発言力を持つ幹部の不審死も増えておるし、我は一体どうすれば……」
うわぁ。ドロドロだぁ。
そんな話をされても辺鄙な村でのほほんと暮らしていた俺が何か言えるはずもない。
「ま、まあそういうこともあるよ。それより今日はどのボードゲームで遊ぶんだ? いやー、昼間からずっとうずうずしていたから楽しみだぜ!」
「……そうか。では、今日はこれにしよう……」
わざとらしくはあるけどテンション高めに接してみたが、グレアの表情は暗いままだ。心ここにあらずといった様子である。
ゆっくりと一人で休まる時間が欲しいと思っていたが、いつも元気だった子がこんなに落ち込んでいるのを見るとそうも言っていられない。アドバイスをすることはできないけど、せめて気を紛らせてやりたいところだ。
――結局、俺が起きる時間になる頃には元気なグレアに戻っていた。しかし、根本的な悩みを解決できたわけではないので、これからはもう少し優しくしてやろうと思った。
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