第11話 合コン①
「羽切君って、転校生なんだって?」
「うん、先週転校してきた」
合コンが始まった。
場所はカラオケボックス。
全員が学校帰りそのまま来ているので制服姿。
だから制服でどの子が他校かがわかる。
女子はうちの学校から5人。他校から7人。
うちの学校の女子で知っている人は、戸塚さんと鹿沼さん。
鹿沼さんは八木が朝にジャンピング土下座で参加を懇願し、渋々了承した形でここにきている。
戸塚さんは最初から参加メンバーに入っていたらしい。
男子はうちの学校からは4人。他校から8人。
男女ともに八木とその彼女である佐藤さんは幹事であるため、参加はせず、見守っているだけだ。
そうなると男女ともに11対11となる。
かなり大きなカラオケボックスの個室なのだが、24人が入るとさすがに少し狭く感じる。3時間この個室を借りているらしく、今は1組10分の自己紹介タイムで、男子が10分ごとに隣の席に移動して女子と話すというのをしている。
それだけでも100分。つまりは1時間40分消費する。
そのあとの1時間20分は完全な自由時間になるみたいだ。
男子の目当ては鹿沼さんなのだろう。鹿沼さんへのアピールが凄い。
俺の隣にいる女子も、男子と関係が持ちたくて参加しているのだろう。
そういう想いをを蔑ろにするのは失礼だと思う。
だから、極力積極的にかつ近すぎない距離で対応している。
「羽切君って、結構カッコいいよね」
「それはどうも」
「彼女とかいるの?」
「ハハ、彼女がいたらここには来ないでしょ」
「そうだった」
二人で軽く笑う。
「それにしても、鹿沼さんが参加してくるなんてね」
「俺も驚いてる」
「羽切君も鹿沼さん目当て?」
「いいや、今のところ目当てはいないよ」
「へー、珍しいね」
鹿沼さんが合コンに参加する事は、女子の中には嬉しくない人もいるのかもしれない。
正直そういう視点が欠けていた。
鹿沼さんが参加するとなると、男子の集まりがいいから女子にとっても良いことばかりだと思い込んでいた。
「じゃあ、私にもチャンスある?」
「もちろん」
「やった!」
そこから10分間お互いの事を話した。
恋愛話だったり、好きな食べ物は何かまで話題は様々だ。
そんな事を話していると、幹事の八木がベルを鳴らし10分タイム終了。
「あー、もう終わりかー。また後で」
「おう」
それだけ言い残し、俺は隣の女子に移った。
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8組まで終わり、さすがに疲れてきた。
次は戸塚さんで最後は鹿沼さん。
顔なじみのメンバーなので、ここからは軽くいける。
そう思い、戸塚さんの隣に座る。
「やっほ~、羽切君」
「や、やっほ」
戸塚さんは相変わらず元気だ。
普段から明るくて、ボディータッチも結構してくるが、今日は特に激しい。
他の男子にもこんな感じで、男としては嫌な感じはしないだろう。
戸塚さんはクンクンと犬のように鼻を鳴らしている。
鳴らしていると言っても音が出ているわけではなく、こっちの匂いを念入りに確かめているような様子。
そして一通り嗅ぎ終えたのか、通常の距離に戻る。
「あのさ」
「うん?」
戸塚さんは何やらニヤニヤしている。
そしてまた距離を詰め、俺の耳元で言った。
「羽切君って、景とどういう関係?」
「えっ?」
変な声が出た。
「ただのクラスメイトだけど……?」
「それは無いと思うなぁ~」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、匂いが一緒だもん」
なるほど、今日の朝まで鹿沼さんはうちに泊まっていた。
当然シャンプーとコンディショナーは同じものを使っている。
戸塚さんは鋭い嗅覚の持ち主みたいだ。
「……匂い?」
「多分シャンプーとコンディショナーの匂いが全く一緒」
「同じものを使ってるんだなきっと」
「でもさー、体の匂いと制服の匂いも一緒」
犬かこの人は。
制服の匂いはともかく、体の匂いなんて汗とかでかき消されるから普通は気づかない。
「同じクリーニング屋に制服を出してるんだろ」
「リオンの中のクリーニング屋だね」
「そう」
「でも体の匂いは?」
「それはー」
それも同じボディーソープ使ってるからじゃないか?と言って大丈夫だろうか。
髪の匂いと体の匂いが全く一緒なのは、変なことを勘繰られても仕方がない。
違う言い訳がいいだろう。
「多分戸塚さんの鼻が間違ってるよ」
そっちの鼻が間違ってますよ、に変更した。
「嗅覚には自信があるんだよね~」
「俺、転校してきて6日目だぞ?」
「この土日で景と羽切君は相当親密な関係になったのかな~?」
「なわけあるか」
「ま、あまり邪魔しないようにするから安心してね」
「だから、違えって」
戸塚さんは楽しそうだった。
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最後の相手は鹿沼さん。
今更多くを語らなくても、お互いの事は割と知っている。
「合コンは順調?」
鹿沼さんが先に話しかけてきた。
「うーん、順調かどうかわからない」
「私も同じ」
俺と鹿沼さんは苦笑いした。
「でも、デートには誘われた」
「デ、デート!?」
どうやら鹿沼さんの合コンは順調みたいだ。
それにしてもいきなりデートに誘うとは、強心臓か?
「ちなみに、どいつ?」
「5番と7番の人」
「二人も!?」
俺達の胸には番号が付いたプレートが付いている。
俺は視線だけを動かし、5番と7番を交互に見る。
5番は線の細いイケイケな感じの雰囲気で、7番は控えめだが、筋肉があり引き締まっている。
「どっちも先輩だってさ」
この合コンには2年や3年も混ざっている。
恐らくイケイケ君は2年生で筋肉君は3年生だろう。
高校2年生や3年生という時期は、盛りまくる時期なのだろうか。
「それで、どうするの?」
「迷ってる」
「そっか」
鹿沼さんの顔を見ると迷っているというより、どうすればいいのかわからないという感じだった。
それに尋常じゃなく手が震えていて、それを俺から隠すかのように太ももの間に手を挟んでいる。
「ナル君はどう思う?」
「オイ」
突然の恋人キャラ。
「いいじゃん、小声でさ。ダメ?」
「しょうがないな」
「それで?」
「うーん」
鹿沼さんがデートか……。
何故だか胸のあたりがざわざわしている。
それが何なのかはわからないけど、結局のところ鹿沼さんが決断するべきだと思う。
「それは景が決めるべきだと思う」
「やっぱり、そうだよね……」
鹿沼さんは凄く不安そうな表情をしている。
「まぁ、今日一日様子見てから決めてもいいんじゃないか?」
「ナル君はそれでいいの?」
「どういう意味?」
「私が他の男子とデートに行ってもいいの?」
これは恋人キャラ。
なのに鹿沼さんは真剣な表情だ。
「それは……」
「それは?」
俺は態勢をずらし、鹿沼さんの瞳を正面から見つめる。
瞳の奥が動揺しているように見える。
「それは嫌だ」
そう言うと、瞳が大きく開かれた。
「そっか」
鹿沼さんは少し微笑んだ。
その瞬間、八木のベルが鳴った。
そんな鹿沼さんの一連の流れを見て、何となくわかった事がある。
彼女は自分で自分の事を決断できないんじゃないだろうか。
俺にもそういうところがある。
それは小さい時から親の言いなりだったことが影響しているんだと思う。
親がどこかに転勤しなくてはいけなくなったとき、ずっと拒否できず流されてきた。親の決断に従って生きてきたんだ。
多分彼女も同じ何だと思う。
彼女にとって男とデートに行くか行かないかは大きな決断。
本心は行きたくないから俺に恋人キャラを持ち出して、結論を俺に委ねた。
それも、わかりきった結論を。
そして強く懇願されると、拒否できないというのも似た者同士だ。
鹿沼さんと俺は、どこまで行っても“同類”なんだと感じた。
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