第9話 出発


 図書館はあまり広くないが歴史書は結構ある。だが、その歴史は滅亡後のものであり、それ以前のものが無い。

「まいったな」

「おまたせ」

 グレーの長い髪の女、アビリジアだ。

「今来たところだ」

「常套文句ね」

 図書館を出てカフェに入る。


 調べた結果は複雑な心境にさせられた。


 人間の番号制度。ナノマシンのおかげで歳を取らなくなった人間は新しい人間が出来ないようにしていた。それでも苦しみ自殺する者が出てくると新しく人間を作る。

 人間の管理体制が出来上がってくると、それに反発する者が出てくる。秘密裏にそっとナノマシンの永続延命を無くした。

 これで人間は寿命を取り戻し、死ある者として生きて行くことになる。


「なるほどな、それで一度は絶滅寸前までいったのか」

「そうね。その名残がナノマシンプログラム、魔法ってことね」

「ナノマシンプログラムが魔法と呼ばれているのは知っているが本物の魔法は?」

「本物は無いじゃない」

 俺だけが魔法を使えるわけか。

「ただ、それをまた甦らそうとしている組織があるみたいよ」

「……」

「まるで神様にでもなった気でいるのかしら?人間が人間を超越するなんて」

 寿命がなくなればそれは人間とは呼ばない。

「貴方はこれを知ってどうするの?」

「…その組織を止める」

「そう、じゃあ此処じゃなくて北ね」

「北と言えばレイリア大陸か?」

「そうね」

 そいつらを止める。多分これが超越者であり、神にならない方法だ。

「それじゃあ借りは返したわよ」

「あぁ、ありがとうアビリジア」

「どういたしまして」

 カフェを出て行くアビリジアを見つめる。

 

 

 この世界の地図は大体頭に入っている。図書館にあったからだ。

 この世界には四つの大陸があり、今いる場所が大体地図の右下にあるディシディア大陸だ。レイリア大陸に渡るには北にある南北を繋ぐガラム大橋を渡るか、北西に有る港町から船で渡るしかない。ここでようやく乗り物が出てきた。

「確実に渡るならガラム大橋しかないか」

 まだ、解明されてないプログラムがあるはずだし、初期のデバイスがあるはずだ。

「えー、ユーヤ行っちゃうの?」

「まぁな、ここでやることもないし」

「私との関係を深めたいとか」

「アイリーンは好きだよ」

「きー!女の敵」

 女の敵ではないかな。

「さて、『雷獣』のみんなには助けられたからありがとう」

「どういたしまして」

「うぅーバカ!」

「私もデートしたかったなぁ」

「くくっ、刺されるなよ?」

「うるさいぞ、ホープ」

 笑いながらそれぞれと握手を交わしてハウスをあとにする。


「さてと、北の大陸でも目指すか」

 必要な物を買い揃えて行く。アイテムボックスがあるから大抵のものは準備が簡単だ。

 テントは張ってから収納した。出し入れも簡単だった。

 食糧も出来立てをとりあえずそのままアイテムボックスにいれる。時間を停止するようにしていつでも出来立てが食えるようにした。創造魔法様々だ。


 あとは足だがなければ作ればいいと思い、創造魔法で作ってしまった。悪路を予想してバイクにしてみた。魔生石が燃料だ。

 第五等級の魔生石が必要だったので狩りをして集めておいた。


「これでなんとか動けるな」

陸路で向かうつもりだから北に向かっていけばガラム大橋に着くはずだ。

“ブロロロロロ”

 慣らしで走ってみるが乗り心地は悪くないな。ウインカーなんかはいらないと思い外してある。


「さて出発するか」

 ガラム大橋までは街道が続いているので比較的楽に行けるはずだ。


 風を受けながら馬車を追い越して行く。

 ビックリされるが追い付かれることはない。時速三十キロ程度で走っている。


 夕方になりバイクをアイテムボックスにいれて歩いて今日の寝床を探す。探知で人数が多いところがあったからそこに行ってみる。

「近くでテントを張ってもいいでしょうか?」

「夜番に入るならいいぞ」

「分かりました」

 夜番に入るくらい別になんてことない。

「じゃあお前は最初の組な」

「分かりました、何人でやるんですか?」

「三人交代だ」

 九人か、商人っぽい人がいるし商隊なんだろうな。八人も護衛を付けてるのか。

「そっちのはじの方にテントを出しとけ、あと俺はリーダーのガィンだ」

 茶髪で短髪のガタイのいい人だ。

「ユーヤです。よろしく」

 はじの方にテントを出して夜番が来るまで飯を食べておく。


 夜番になるとガィンともう一人と俺の三人でテントを囲むように見張り、時間になるまで探知の魔法を使ってみる。

「ユーヤ交代だ」

「ありがとうございます」

「おう、あとは任せろ」

 クラフトという痩せた男と交代して寝ることにする。


「ユーヤ!起きろ!フォレストウルフだ」

 すぐに起きて剣を持つ。フォレストウルフの群れが取り囲んでいるようだ。だがさすが慣れたもんで八人はドンドン倒していて俺は二匹倒しただけだった。

「ユーヤも怪我はないな、一人旅してるのだからこれくらいは朝飯前か?」

「そんなことないですよ、皆さんの方が倒してますし」

「謙遜するな、対応も早かったしいい冒険者だ」

 ガィンは褒めてくれるが探っているような言葉遣いだな。

「後処理は大丈夫だから寝てくれて構わない」

「俺も手伝いましょうか?」

「そうか?じゃあお願いするよ」


 解体も手慣れたものだ。

「毛皮や肉はこっちに回してくれるか?」

「いいですよ、こっちも荷物になりますし、2匹しか倒してないですから」

「そうかありがとうな」

 商隊だから倒したものは商人のものになるんだろうな。


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