黒衣の列
村上 二
第1話 その1
これは大学の先輩から、聞いた話です。先輩は、登山が趣味で大学卒業後もそれを続けていました。私は先輩と会うたびに、山での体験なんかを話してもらっているんです。これから話すのも、そんな中の一つです。
先輩は、とある山に一人で登ることを計画していたそうです。ソロ登山はあまり推奨されたものではないようですが、先輩は高校から大学までずっと部活やサークルで登山を続けており、それなりに経験はあったこと、その山も結構整備されており、危険度がさほど高くないこと、大学も出て、周りとの予定がなかなか合わないことなどからそのときは1人で行く事を選んだそうです。
登山のルートは、さほど険しくない予定でしたが、距離がそれなりにあるので、朝早いうちに出たそうです。
まだ薄暗い中、それなりに大きな荷物を背負って先輩は、歩き出しました。先輩くらいの年齢の方は周りにおらず、大体の方が先輩よりだいぶ年上だったようで、結局先輩が30分も歩く頃には、同じペースで進む方はいなくなりました。ひとり道を行くという感じになったそうです。
当時は、快晴でこそないものの、雨も降る様子はなく、まさに快適な陽気でした。当初の予定よりも、やや早いペースで進んでいたと先輩は話していました。
歩き始めてから1時間くらい経ってからでしょうか、先輩は道沿いの川の向こうに地味な黒い服を上からすっぽり着た2、3人の人がいるのを見かけました。その川は山の高いところにある割には、川幅も水量もあり、気軽に川を渡って対岸へ行けるような感じではありませんでした。
その黒服の方達は、川沿いを少し歩くと、また山の方へすぐ入っていってしまったそうです。
ただ、その方達の歩く速さが駆けているかのように早かったこと、そしてあまりにも真っ黒な服装だったので、何となく気になってしまったようです。
というのも登山服の多くはもしもの場合に備えて目立つものが多く、慣れた人ほどそういう目立つ色を選ぶはずですから、周囲に溶け込むような黒い服を選ぶのはまず考えがたい。しかし一方で、そう言った知識のない初心者なら、あれだけの速さで動くことは考えられない、そういうチグハグさが気になったみたいです。
しかも、さらに気になる点として、川の向こう側には整備された登山道はおそらくなかったという点です。ここは、先輩も確証はないですが、少なくとも先輩が歩いている地点から、川の反対側まで行くルートは、調べた範囲ではなく、また見える範囲で橋などもかかっていませんでした。
なので、大したことないと言えばそうなのかもしれませんが、非常に気がかりなことでもある、そういう光景を目撃したそうです。
そして、これをきっかけに、先輩は少しずつおかしなことが増えていったのだと話していました。
しばらく道を行くと、木立がアーチのようになっている箇所に差し掛かりました。かなり鬱蒼としていて、道の奥の方にトンネルの出口のように光が見えるような場所だったそうです。それ自体はどこにでもありそうな感じでしたが、下調べした時にはこのような木立があるという情報がなく、少し驚いたそうです。
その道を抜けると、天気が良くなったのか、陽射しがさしていたそうです。ただ、何となく空の色がオレンジがかっていて、気づかぬうちにかなり時間が経ってしまったのかと焦ったそうです。しかし、時計を見てもまだ午前中、これから陽が高くなる時間であり、どう考えても夕焼けではないはずです。もちろん、朝焼けでもありません。
木立から抜けて目が慣れていないのか、それともなんか調子が悪いのか、とにかくあまり気にしないように前進したそうですが、そのうち周りの植物も、紫がかっているように見えてきました。一部の植物がその色であれば納得するのですが、葉の形も日の当たり方も違う植物も一様に葉っぱが紫色をしており、いよいよ何か異常な感じが増してきたなと感じたそうです。
それでも、景色以外に異常な点がないことから先輩は進むことを選んだそうです。体調も決して悪い感じはしなかったそうです。
そんな中、先輩はとある集落にたどり着きました。
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