それでも僕は少年愛男を憎むことはできない
すどう零
第1話 ある日僕の下半身を刺激した衝撃
僕ー今村良希ーは新婚一年目のサラリーマン、仕事は専門学校の講師。
僕には忌まわしい過去がある。
隠しておきたい、いや思い出したくもない過去。
しかし僕はその過去と向き合わなければならないときが訪れた。
いつまでも隠しておくと、僕のなかの魂が汚れ、そして腐ってしまう。
封印した過去の事実は、自分が望もうと望むまいと、いつかは封が開けられるときが訪れる筈である。
僕はもう覚悟を決め、腹を括らねばならない。
しかし、妻は理解してくれるだろうか。
実はそれがいちばん不安である。
LGBTの影響でゲイが容認されているところまではいっていないが、有名になりつつあった今こそ、公表すべきgood timingである。
僕は幼い頃は身体が弱いせいで、引っ込み思案で少々どもり気味であったが、その癖を治すために、父親は僕をジュリー事務所という有名プロダクションに入所させた。当時は、女性中心のプロダクションであり、男性は極めて少なかった。
僕は丸顔の童顔だったので、すぐ子役といっても脇役のバイブレーションとして、テレビに出演することができた。
父親は喜んでくれたが、それは僕の活躍というよりも、ジュリー事務所から手渡される給料の半分が、生活の足しになっているからだったに違いない。
芸能界はまさに未知の世界であり、半年後はどうなっているか、未来の道さえも閉ざされてしまうケースが余りにも多い。
僕の子役での活躍ぶりは、後輩にあっけなく奪われてしまった。
もう雑誌やネットに掲載されることもなくなっていた。
僕は小学校は早引きすることが多かったが、後れをとらないように、教科書だけは丸暗記のように読んでいた。
幸い台本を覚えるのには慣れていたので、暗記は苦にならなかった。
国語の授業のとき、担任はいつも僕に音読をさせていたが、わざと感情を余分に込めて読み、クラス中を笑いの渦に巻き込んでいた。
担任から「お笑いにもチャレンジしたらどうだ。M1グランプリ目指せ」
と言われたときは、手放しで喜ぶことはできなかったが、お笑いという選択肢もあるのかなと淡い希望を抱いたものである。
僕は父の勧めでジュリー事務所のオーディションを受けた。
もちろん合格といっても、その当時のジュリー事務所は郷ひろ〇が独立し、フォーリーブ〇も解散したので、台所は火の車状態だったので、とりあえず新しいアイドル発掘に必死になっていたに違いない。
僕は張り切っていた。初めて聞くマイクロジャクソンの音楽に切れのあるダンス。
僕は先輩たちに追いつけるように、ダンスの練習をした。
ジュリー氏は、授業料は気にしないでいいから、とりあえずレッスンにいらっしゃいと言ってくれたのが救いだったが、絡みつくような視線を僕に向けるのが、なんだか不安を感じていた。
でも、ジュリー氏は一般人とは違って、タレントを発掘し育てる芸能界の社長。
するどい視線で、僕のタレント性を観察しているに違いないと思っていた、というよりも無理にそう思おうと自分に言い聞かせていた。
僕の不安が的中するのは、それから一年後たったからだった。
レッスンは最初は土曜日だけだったが、テレビでジュリーJRが注目されるに従い、徐々にレッスン内容は厳しくなっていった。
学業優先というのは建前で、テレビ出演の前には、週三回以上ダンスのレッスンをしたり、漫才の真似をしたり、話題を振られるとウーとかアーとかとつまらずに、即座に面白いことが言えるように、常日頃から勉強することを強いられた。
クラスメートにはジュリーJRの活動をひた隠しに隠していた。
特別扱いされたり、スターのサインを求められたりするのが、うっとうしかったからである。
国語の朗読のとき、僕は教師から褒められた。
「君、キャストになりきってセリフを言っているね。もしかして演劇の勉強をしているの?」
するとクラスメートから声があがった。
「先週、V5のバックで踊っていたの、お前じゃないの。
まあ、二、三秒くらいしか映っていなかったけどさ」
もう隠すことはできない。
「はい、僕は今 ジュリー事務所のレッスン生です」
先生は僕をいたわるように言った。
「アイドルになれるのは、万人に一人。それよりも今は勉強を頑張りなさい。
高学歴の芸人が増えてきている一方だから」
僕は黙ってうなづいた。
しかし、バックダンサーとはいえ、仕事は徐々に増えていった。
母は心配そうにしていたが、父はアイドルになれるという希望を抱き、有頂天になっていた。
中学二年という勉強が端境期の僕にとっては、毎日が苦しかった。
徐々に授業中は居眠りをし、先生からも叱られ、クラスメートからも距離を置かれるようになっていった。
よほど要領のいい子は別として、ジュリーJRの子は皆、同じ悩みを抱えていたに違いない。
僕は、グラビアにも掲載されるようになった。
しかしそれと比例して、ジュリー氏のセクハラはひどくなっていった。
合宿所と呼ばれているマンションに呼ばれ、下半身を弄ばれる。
僕の性器をなでたり、しゃぶったりはするという受け身の行為であったが、さすがに僕からジュリー氏に能動的に行為を求めることはなかった。
ことが終わったあと、いつもジュリー氏は囁く。
「君はこれで、セクハラや婦女暴行などすることはない紳士になったんだ。
いわば紳士誕生、売れれば売れるほど誘惑があるが、この行為で君はそれを避けることができる。いわば一流芸能人になる通過儀式だよ。光栄に思いなさい。
大抵の芸能人は異性関係でダメになる。しかし、君はその危険性がなくなった」
僕はその言葉に、半分は疑念を抱くようになった。
確かに婦女暴行は犯罪に違いないが、ホモレイプも犯罪の一つではないか。
そう言い返すにも、相手は天下のジュリー社長である。
マスコミには、お人良しの憎めない人物で通っている。
ジュリー氏は僕の精液を飲んだ後、ベッドの上で土下座をし
「君のカルピスまがいを飲んだおかげで、僕も元気になれそうだ。
君は僕の精力剤。またお願いしますね」
土下座までされ、やさしく懇願されると僕も断りにくい。
それでなくても、僕は孤独な存在なのだ。
もしかして、ジュリー氏は加害者などではなく、本当はいい人なのかもしれないなどと錯覚してしまう、いやそう思いたかった。
そう思い込むことで、自分のみじめさにふたをしていた。
だから僕は、声をあげることはなかったのである。
日本では当時、おかまという言葉通り、ホモというのは罪のない男同士のじゃれ合い、ジョークの一種としてとられていた。
藤井隆のように、無名時代のタレントがおかまキャラでデビューする通り、ジョークの一種であるが、ジュリー氏もそう思っているのだろうか?
それとも、ジュリー氏は僕をおかまキャラに仕立て上げようとしているのだろうか?! 僕のなかに、謎が沸き上がってきたが、僕はそれを誰にも相談できずにいた。
だいたいレイプというのは、被害者が悪者扱い、マヌケ扱いされることもある。
二昔前なら、あなたにも隙があったのではないか、挙句の果てにあなたの方から誘惑したのではないかと言われるのがオチである。
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