第3話

 橋基かなえは、クラスの中では有名なユーチューバーだったが、登録者はまだまだと いった所だ。


「みんなぁ、また登録者が増えたよ~」


「さすが、かなえちゃん」


 自慢気に話すかなえに、クラスメイトは羨望の眼差しを向けている。


「ふふん」


 腰に手を置き、鼻息の荒いかなえ。

 とても、狭い付き合いの中で、マウントをとっていた。


「あのコなら、相談にのってくれるかも」


 普段なら、自信マンマンな 女子には近寄らない多香緒だが、さぐりを入れてみることにしたのだ。


「ねぇ、あたしも ユーチューバーやりたい」


 いきなり話しかけて来た多香緒に、少々面食らったかなえであったが、


「イイよ、一緒にやろー。あなた、ピアノが得意ね」


 クラスの、みんなに隠していたピアノのことを、急に言われてビックリする多香緒。


「えっ、なんでそのことを知ってるの??」


 多香緒は、クラスメイトに家に来て欲しくなくて、極端に自分のことを語るのを、嫌がった。

 母親を、見せたくなかったのだ。


「昨日も、駅前のピアノを弾いてたじゃん」


 ニヤリと笑うかなえ。


「あっ 見てたんだ………」


 バツが悪そうに、下を向く多香緒。

 顔が、真っ赤になる。


「よかったよ。演奏も歌も」


 多香緒の肩を、つかむかなえ。


「ホントに?」


 ガッと、顔を上げる多香緒。


「うんホントに。ウチな、歌ってみたとか アップしてるけど、正直登録者が頭打ちなの。それで、楽器でテコ入れしようと思ってて、それで多香緒ちゃんの演奏を聞いて、すごいなって思ってて」


 かなえが、とうとうと話すのを聞いていた多香緒だったが、


「うれしい。あたしなんて、すごくはないけど」


 ホメられて、モジモジする多香緒。


「えっ すごいよ。ウチは、シンセサイザーとキーボードをプレゼントしてもらったけど、演奏しながら歌うのは無理だったわ」


 ところどころ、鼻につくことを言うかなえ。


「えっ、なんで?」


 うらやましいと思う多香緒。

 自分にも、そんな環境が欲しいと思ってしまう。


「演奏の方がアレなの………つまり、へたっぴなの」


 苦笑いする、かなえ。


「そ………そうなんだ」


 聞いたら、マズかったかと思う多香緒。


「あなたキーボード持ってる?」


 意にかいさず、多香緒に質問するかなえ。


「いや、持ってないよ。どうして??」


 ふいに出てきた言葉に、ビクッとなる多香緒。


「そうなんだ。それじゃあ、古い方あげる」


ニッコリ笑う かなえ。


「えっ、そんな。悪いよ」


 とてもイイ話だが、遠慮する多香緒。

 一瞬、母の形相がうかぶ。


「イイの。どうせ、家でホコリかぶってるから使って欲しいの。あのコたちも、その方が よろこぶわ」


 どうやら、相当放置しているらしい。

 それなら、もらうだけでも、もらっておこうと思う多香緒。


「うれしいな………ありがとう」


 かなえの、手の甲をつかむ多香緒。


「うん。有名人になって、コラボしよー」


 握りかえすかなえ。


「うん」


 そうして、学校帰りにかなえの家に行き、スマートフォンで、アカウント登録して、ユーチューバーとして歩み始める多香緒。


「いよいよ始まるのね」


 ワクワクする多香緒。


「よーし、ジャンジャンアップしていこう!!」


 なぜか多香緒よりも、ドキドキしているかなえ。


「うん」


 気迫に、押される多香緒。


「あっそうだ。このキーボードあげるよ」


 ホコリを、かぶった黄色いクロスを勢いよくはぎ取り、キーボードをあらわにするかなえ。


「こんな立派なの、イイの?」


 プロ仕様の、本格的なキーボードを目の当たりにして、少々身が固くなる多香緒。


「ああイイの。今、ベースを買ってもらったのを練習中なの。クラスのみんなには、まだ内緒よ」


 もうすでに、興味がないという雰囲気のかなえ。


「ベースかぁすごいね。うん、内緒にしとくけど、なんでベースにしたの??」


 ふと、素朴な疑問がわく多香緒。


「だって、歌を聞いて欲しいのよ。演奏がメインじゃないの」


「あっ、そういうこと………」


 なんとなく納得する多香緒。


「それより、ヘッドフォーンを持ってる??」


 キーボードの、差し込み口を指差すかなえ。


「たぶん、パパが持ってるよ」


 多香緒の父親も、音楽を聞く時は気をつかっている。


「なら、イイわね。今、ベースの練習で使ってるからさ。まぁ、2000円くらいで売ってるから買って使えばイイんじゃない??」


「うん そうだね………」


「うん? どうしたの??」


「大丈夫」

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