第2話 親父、AIが作ったムフフなCGに初めて触れる

 2023年3月。ワシは目ん玉が飛び出そうになっていた。来月のクレジットカードの支払い金額がワシの月収をかるーく超えてきおったのだ。


 中学校入学のための制服代、2人分の通信教育の年間払い、どうしても買わなきゃいけなかったエアコン等々、一気に積もった費用が支払いになって襲い掛かろうとしていた。


 4月のカード支払いは合計35万3251円。


 高騰した光熱費、物価も上がっている。物価の優等生だったタマゴ君ですら税込み300円を超えたりして、絶賛反抗期になっていた。

 長女は中学生、長男も小学5年生になりモリモリご飯を食べるようになった。年々、必要な経費は上がっている。


 それに末っ子のあちゃ太は来年、幼稚園に行く。ウチの財政が、世の中の変化に置いていかれそうになっていた。ワイフなんか通帳を見てため息をついている。


 このままじゃマズい。支払いが追いつかなくなる。

 こちとらただの平社員。昇格する予定も昇給する予定もない。こりゃ仕事終わってからアルバイトでもするしかないのか。


 今は仕事を終え家に帰ったら子供たちと一緒の時間に夕飯を食べることができる。ただいま、おかえりと他愛のない挨拶をすることもできる。

 子供たちとのほんの小さなふれあいが、ワシにとって代えがたい幸せなのである。生活費のためにアルバイトをしたら、一緒に夕飯を食べるどころじゃない。布団で寝ている子供たちの顔を、深夜に拝むことしかできなくなる。それはものすごくイヤだった。


 だがカード払い35万円という現実は確実に迫ってくる。アルバイトは避けたいが、お金は必要だ。どーしよ。

 そんな中、友人がLINE通話の中で教えてくれたことがあった。


「AI絵、面白いっすよ」


 友人いわく、テキストを入力するだけでAIが絵を書いてくれるのだそうだ。まるでスマホのゲームでガチャを引いているときみたいに面白いとも言った。

 友人に言われた通りワシもやりつつ、そんなウソみたいなことがあるんか、と思った。


 絵を描くのが好きな人が何百時間、何千時間と描いた先にあるのがイラストレーターやマンガ家という職業だとワシは思っている。

 

 ワシなんか絵を描くのがニガテで、描こうと思ってこなかった人間なんよ。そんなほぼ絵を描くことをしてこなかったヤツが、キレイな絵を作るなんてそんな夢のような話、聞いたことがないわ。そんなね、世の中簡単にできているんじゃないんだよ。ワシにできるわけ…………できたわ。


 水辺で遊ぶ可愛い女の子の絵が、ものの一分も経たずに出来上がっていた。光が透き通って見える水、濡れたワンピースを着た女の子、飛び散る水滴、どれもイラストレーターが描いたようなクオリティだったのだ。


 その昔、原始人が偶然火に出会ったような感動を味わった。ウホー!


 絵なんて全く書いてこなかったワシが、キレイなキャラクターと、おまけに背景までしっかり描いてある色付きの絵が作れるのだ。これはすごい。すごすぎるぞとウホウホ心を踊らせた。原始人も火で炙った肉を食べたとき、こんな感覚になっていたに違いない。


 これ、お金になるんじゃないかと瞬間的に思った。ワシと同じように、目を¥マークにして輝かせた人もきっといるはずだ。


 友人に聞くと、AIが絵を作ってくれると騒ぎ始めたのは2022年からだそうだ。半年くらいの差なら、今から始めても追いつけるんじゃないか。


 ワシが火で炙った肉にかぶりついている原始人なら、AI絵を先に始めた人は文明開化が進んで、ナイフとフォークでステーキ食っているくらいの差しかないだろう。追いつける。このときはマジでそう思っていた。


「AI絵って、あっは~んやうっふ~んみたいなセリフが似合うレイディって作れる?」

「あぁ、それはですね――」


 友人に教えられるまま、AIに絵を描いてもらう。セクシーな美女もパソコンの画面の中に現れた。それはそれはえっちでセクシーな美女だった。

 これくらいえっちなら、CG集として販売できる。ワシは決意した。AIを使って、えっちなCG集を作ると。


 あんたねぇ、えっちなCG集なんか作って恥ずかしくはないかね? と言われたらワシは顔を真っ赤にすることだろう。だが。


「ぱぱぁ。ぐあんよーごはんだよー

 夕飯を元気に食べるあちゃ太の笑顔や、家族の生活費のためなら地べたを這い、泥水をすすってでもえっちなCG集を作ってやろうじゃないか。

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