言葉の星々
暮葉紅葉
遠くまで、やがて
高二の冬、初めて一人で旅をした。
特別観光がしたいわけではなく、ただ全く知らない海岸を歩きたくて、雑誌もネットも
あらかじめ書いておくと、この一人旅は
そんな思いを抱えつつ終点までぼんやりと電車に乗っていた。タタン、タタン、揺れる電車が自分をどこに連れていくのか、それだけを考えていると聞き慣れていた単調なアナウンスが子守唄のように思えた。絶え間ない「寒さ」は、足元にあたるヒーターの温もりがじんわりとほぐしていった。
登り始めた朝日の光がまだこの時には眩しくて、目をつむりながらその温もりだけを
暫くすると都市どころか住宅街の様子も無くなり、あたり一面は
しかし終点はやってくる。
千葉東端の
だから自分はあまりにその街について無知であった。だから電車に乗った時、「切符を切る」ということも明らかに不慣れで気恥ずかしさを抱いた。パチンと切符に穴を開けられ、渡された切符をぎこちなく受け取った。隣に座った老人がにやにやとこちらを見ていた。目を
数分すると目的の駅に着いた。一人で改札機のない駅を降りたのもこれが初めてのことだった。人の
海はただ豪快に笑っていた。
一面の砂浜にえくぼを残すように、ざあざあと笑っていた。まるで自分のことなんて見向きもしていなかった。けれど人間を
波打ち際でそぞろ歩いて、二時間ほどそうしていただろうか。
立ったり座ったり、時には笑う海に石を投げて肩を叩いたりした。心に思うことをメモ帳に書いたが、言葉がまとまらず二重線で消した。ふと息を吐くと、朝から何時間も電車に乗っていて、海に二時間もいることに気がついてどっと疲れが押し寄せた。
その時、遂に自分の旅は終わってしまった様に感じられた。それと同時に強烈な空腹感に襲われた。もうこれまで、と嘆いていてもやはり道は続いていくのだ。どうあっても世界は自分の思う通りになどならない、なるはずもない。ほら、海は今も笑っているじゃないか。
そう感じられた時、帰路に着く決心が湧いてきた。
もしこの時空腹を感じなければ、旅は今も続いていたかもしれない。
それでも元ある道に戻ると決めた。ふと気になってスマホの電源を入れると、知り合いからの通知が何件も来ていて、スケジュールアプリは来週の予定を数件知らせていた。一瞬、決心が揺らぎそうになるくらい気分が滅入ったが、溜息を吐く代わりに笑う海にもう一度力一杯に小石を投げ入れた。
変わらず海はざあざあと笑って、
海に背を向け、駅へと向かう。
耳に響く波の音が、自分のあらゆる言葉をのみこんで、砂浜に一つ貝を置いていくように、「もう一度」と残して消えた。
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