第3話 【高校生と困ってる人】

 ジムに行く日はまっすぐに寄り道もせず、一人で急いで帰っている。


 だがジムに行かない日はゆっくりしたものだった。

 後に予定が入ってる、入ってないという違いがあるのは当然。


 その理由を学校では誰かに言った事はなかった。


 それはこの二人も例外ではない。


 その日々の違いに近しい友人は不思議には思っている様子はある。

 けれども特には聞いてはこない。

 程よい距離感を保ってくれている。


 今日は和雲わく美和みわの三人で帰っていた。


「和雲くん、テスト勉強、捗ってる?」

「いつも通りだよ。美和もいつも通りかな?」

「そうなんだよね、数学とかやっぱり解らないの」


 うなだれるようにしている美和の頭を和雲は、よしよしと言った様子で撫でている。

 美和も嬉しそうだ。


「当てられるので他所よそでどうぞ」

「そんな事言って、彼女に頼られたら応えたくなるのは普通だよ」


 和雲からすればそうだろうけども。

 だからと言って、目の前で繰り広げられるのはどうなんだろう。


「美和の面倒みつつそれで成績上位なんだから、世の中は不公平だ」

「そういう朝比奈あさひなも成績悪くないでしょ」

「一人暮らしの条件だから、仕方ないんだよ」


 勉強自体は特別苦手では無いので手は抜いていない。

 しかしながら一人暮らしの条件に組み込まれている以上、何も感じないわけではない。


 これでも成績を維持できるか毎回ヒヤヒヤもので安心はしていない。


 もちろん、勉強に割いている時間が違うのは理解している。

 それにしても和雲の方が高得点なのは確かだ。

  

「美和はね、得意不得意がはっきりしてるから仕方ないね」

「もうね、数学の公式とか見てるとくらくらしてくるの」

 

 そう言って美和は本当に嫌そうに頭をぶんぶん横に振っている。

 いつもの事なのか和雲は慣れたもの。

 美和の頭を撫で続けた。


 三人で歩いていると荷物を地面に置き、動けなくなっている初老の女性が居た。


 今は一本道の歩道。

 しばらくはまっすぐ歩くのみ。

 途中の家ならば、この女性もそこまで苦労しないだろう。


 荷物を置いているからには、疲れているまたはどこか痛いのかもしれない。


 休んでいるだけならば良い。

 これが歩いている姿なら、問題もないだろう。


 女性は大きく息を吐き、硬く結ばれた口からとても余裕があるようには見えなかった。


 和雲達には悪いと思いながらもどうせこの一本道の先まで自分は歩く。


 困っている様子の女性に声を掛けるくらいいいだろう。


 差し支えなければ、荷物を持つ位の事は出来るかもと。

 

「あの……、大丈夫ですか?」

「いやなにねぇ、ちょっとお買い物しすぎちゃってちょっと休んでたのよぉ」


「お米入ってるんですか、自分達もちょうど向こうへ向かうので良かったら持ちましょうか?」

「あらあら、ありがとうねぇ、迷惑じゃなかったらお願いしちゃおうかしら」

「気にしないで下さい」


 歩調を合わせるようにゆっくり歩いた。

 その為どうしても前を歩く和雲や美和との間に少し距離が出来てしまった。


「お友達と帰っているのに、ごめんなさいねぇ」

「むしろ、あんな感じで二人の世界に入ってしまう事が良くあるので、助かります」


「若い人達なんだもの、お互いを大切にしているのは良い事だわ」

「はい、あの二人を見てるとそう思えます」


「あなたに良い人はいないの?」

「残念ながらいませんね」


 前を歩いていた和雲が、聞こえてるよと言いたそうな表情で振り返っている。


 いつもの事じゃないか。


 歩いていると分かれ道に差し当たり、二人とも待ってくれていた。


 和雲が気を使い声を掛けてくれる。


「重くないかい?」

「いや、これくらいなら大丈夫」


「ごめんなさいね、ここまでで大丈夫だわ。もう目の前なの」

「はい、では気を付けて下さい」

「ありがとうねぇ」


 そう言って荷物を渡すと女性は深々とお辞儀をし、荷物を持って行った。


 自分の家とは違う道だったのでちょうど良かったのだろう。

 もしわざわざ遠回りをしていたら、気にされてしまいそうだ。


 それにさっきよりも足取りはしっかりしてるし心配はなさそうだった。


「付き合わせて悪かったな」

「困ってる人に声を掛けたんだ、謝る事じゃないよ」


「そうそう、自然にそれが出来るのは良いことだよ」

「特別な事をしてるつもりないけど……」

朝比奈あさひなはそれで良いと思うよ」


 美和もそれに対して、大きくウンウンと頷いていた。


 良くは解らないが、何かしろという事もなくそれで良いと言われたのだ。

 それで良いのだろう。


 家の近くまで来たので、二人に挨拶をしてマンションへ入った。


 その時、栗色の髪の毛を腰まで伸ばした少女が見ていた事に優陽は気づいていなかった。

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