第9話

「リーナ! 起きてて大丈夫なのかい!?」


「こんな時に呑気に寝てなんていられないわよ! あぁ、リーチェ! なんて姿に! 可哀想に...さぞ痛かったでしょう?」


 そう言って絶世の美女が私を胸に抱いた。柔らか~♪ それにめっちゃ良い香りがする~♪ 私が男だったら至福もんだよ~♪


 って、そうじゃない! 今父親はなんて言った!? この女の人のことをリーナって呼んでなかったか!? ってことはこの人が今世での私の母ちゃん!?


 ゴメン、前世の母ちゃん...あんた完敗だよ...だってこの人どう見たって20代だもん! 加齢臭しないもん! 姉だって言っても信じて貰えそうなくらい若いもん!


「あ、あの...お、お母様!?」


「なあに? リーチェ?」


「ちょっと苦しいです...」


「あら、ゴメンなさいね! あなたが目を覚ましたのが嬉しかったもんだからつい!」


 フウ...やっと離れてくれた。


「リーナ、少し抑えなさい。リーチェはまだ目を覚ましたばっかりなんだから」


「それもそうね。リーチェ、なにか欲しいものはある? 喉渇いてない? お腹空いてない?」


「だ、大丈夫です...あ、あの...まだちょっと本調子じゃあないんで、少し休ませて欲しいんですが...」


 主に精神面がね...怒涛の展開でグッタリだよ...


「そうだな。話をするのは明日にしよう。今夜はグッスリと休みなさい。チュッ!」


「そうね。名残惜しいけどそうしましょうか。リーチェ、お休み。チュッ!」


 だからいちいちキスするの止めれ! ここはアメリカか!? あぁ、ホント心臓に悪い...



◇◇◇



 翌朝、まだ夜が明けきらない内に目が覚めた。昨日からずっと寝てたせいと、社畜根性が染み付いているせいで元々朝は早いんだけどね。


 まだこんな時間じゃシンシアも寝てるだろうし、他の使用人達も同様だろう。私はベッドから出て着替えをしようとクローゼットを探す。


 しかし広い部屋だな。扉がいくつもあって、どれが衣装部屋だが分かんないぞ。取り敢えず一つ一つ開けてみる。ここはバスルームか。ちょうど良い。顔を洗うか。


 ここはなんだ? あぁ、給湯室か。ちょうど良い。コーヒーあるかな? 朝はコーヒー飲まないと目が覚めないんだよね。


 そこらにある缶を片っ端から開けて行く。おっ! あったあった! 良し良し、ちゃんと豆は挽いてあるな。あとはサイフォンと...これかな? 挽いた豆を入れてと。


 あれ? お湯はどうやって出すんだ? このデッカい給湯器みたいなのでいいのかな? ボタンがあるぞ? 赤いボタンがそれっぽいな。ちょっと押してみるか。


 あ、その前にコーヒーカップを用意しないと。カップは...ティーカップでも構わないよね? 似たようなもんだし。さて赤いボタンをポチッとな。うん、お湯で間違いない。温度もちょうど良さそう。


 サイフォンにお湯を注いでと。さて、コーヒーが出来上がるまでに着替えを済ませますかね。


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