第3話
私は改めて姿見に映った自分の姿を良く観察する。
うん、ちょっと幼いけど小説の挿し絵にあったベアトリーチェそのものだ。小説の舞台は王立学園に入学する15歳の時なので、今の私はまだ10歳のはずだから幼くて当然だ。
しかしこの額に貼ってある絆創膏が気になる。王宮でのお茶会でなにがあった? ベアトリーチェが子供の頃の話って、小説の中ではサラッと書かれていただけだからなぁ。詳細は分かんないだよなぁ。
お茶会という名のお見合いの席で、公爵家という立場を利用してかなり強引にアレクサンドル様に迫ったらしい。その甲斐あってか、見事10歳で婚約を結んだということぐらいしか情報としてないんだよなぁ。
だけどその後、王立学園に入学して来たヒロインに、あっさりとアレクサンドル様を奪われることになる訳なんだけどね。
「お嬢様、お待たせ致しました。お茶請けとしてお嬢様の大好きなスコーンもご用意致しました」
「ありがとう、シンシア。ねぇ、この傷だけど一体なにがあったの? 私、お茶会の後から記憶が無いのよね」
「......」
「シンシア?」
「あ、失礼致しました。お嬢様は昨日、王宮でのお茶会に参加された際、アレクサンドル王子に殺到した令嬢方の将棋倒しに巻き込まれ、お怪我を負って気を失われたのでございます」
「そうだったのね...」
だから記憶が無いのか。それとその時の衝撃が引き金になって、前世の記憶を呼び覚ましたってことなのかな。
ん? でもこんな展開は小説になかったよな? あったら覚えてるし。
「えぇ、その後は大変でございましたよ? 旦那様は『この国一番の医者を呼べ!』と大騒ぎし、奥様はお嬢様のお顔の傷をご覧になった途端、ショックのあまり卒倒してしまいました。旦那様は先程までお嬢様に付きっきりでしたが、今は奥様に寄り添っておりますよ」
「そう...心配掛けたわね...」
後で様子を見に行った方がいいかな。心配掛けてゴメンって。でもベアトリーチェ的には両親なんだろうけど、私的には初対面の人達なんだよなぁ。上手くコミュニケーションが取れるかどうか正直不安だなぁ。
そう思いながら紅茶を一口飲んだ。
「うん!? この紅茶凄く美味しい!」
「お褒めに預り恐縮です」
「このスコーンも美味しい! シンシア、ありがとうね!」
「......」
「シンシア? どしたん?」
「...やっぱりお嬢様は変です...お嬢様が私如きにお礼を言うだなんて...それも二回も...これはやっぱり旦那様に...」
「わぁっ! 待って待って! まだ心の準備が...そうじゃなくて! もうちょっと落ち着いたら自分で行くから!」
これはまずメイドとの関係を真っ先に改善する必要があるかも知れないな...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます