第10話
仕方なくエミリアはまず噴水に向かった。たった一人で。
学園の中庭にあるこの噴水は、生徒達の憩いの場として人気がある場所だ。晴れた日のお昼休みなどには、近くにあるベンチにお弁当を広げてランチを楽しんでいる生徒達も良く見かける。
だが今は放課後なので人っ子一人居ない。それでも叫べば誰かやって来てくれるだろう。そう期待してエミリアは頭から噴水に突っ込んだ。
「プハァッ! た、助けて~! だ、誰か助けて~! 噴水に投げ込まれたの~!」
シーン...
「お願いよ~! 私泳げないの~! このままじゃ溺れ死んじゃう~!」
シーン...×2
「誰か~! 誰か居ないの~!」
シーン...×3
「...なんで誰も来てくれないのよ!?...アホクサ...ダメだこりゃ...やってられんわ...」
結局、どんなに叫んでも誰も来てくれなかった。仕方なく諦めたエミリアは、やおら噴水の中で立ち上がった。噴水なんだからプールみたいに深い訳がなく、当然ながら足は付くのだった。間違っても溺れたりなんかしない。
「は、ハックション! ズビズビ...あぁもう! なんでこうなるのよ!」
季節は初夏とはいえ、まだ水泳をするには早過ぎる時期だ。エミリアは見事に風邪を引いて2日ほど病欠した。
◇◇◇
風邪が治って登校したエミリアは、放課後にまたしても一人で学園の名物である大階段に向かっていた。
この大階段は学園のダンスホールにある。夏休み前に開かれる学園主宰の舞踏会や、卒業式のダンスパーティーの舞台になる場所だ。
そんな華やかな舞台で大階段を使用できるのは、生徒会役員や王族といった学園のTOPに限られる。
綺羅びやかに着飾った彼ら彼女達がゆっくりと大階段を下りて来て、パーティーの開始を高らかに告げるのだ。
一種のステータスとも言えるこの場所は、全校生徒全ての憧れの場でもあると言える。
そんな大階段から突き落とされたとなれば、さすがに誰か駆け付けて来てくれるだろう。
だが一つ問題がある。エミリアは高所恐怖症なのだ。だから大階段のてっぺんから落ちるなんて到底無理。なので大階段の最後の段からひょいっと下りて、わざとらしく転がって見せた。
「た、助けて~! だ、誰か助けて~! 階段から突き落とされたの~!」
シーン...
「お願いよ~! 足を挫いちゃったわ~! 一人で歩けない~!」
シーン...×2
「誰か~! 誰か居ないの~!」
シーン...×3
「...またなの!? だからなんで誰も来てくれないのよ!?...アホクサ...ダメだこりゃ...やってられんわ...」
またしてもエミリアの目論見は脆くも崩れ去ったのだった。
ちなみにエミリアが噴水ダイブした日と、この階段落ちを偽装しようとした日、両日とも生徒会長から『その場所の近くには立ち寄らないように』と生徒達にお達しがあったことを、ボッチであるエミリアは知る由もなかった。
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