第7話

「どうだい? 我が愚弟は相変わらずなのかな?」


 今、イライザはアンソニーの部屋でお茶している。


「えぇ、申し訳ございません...私の力不足で...」


「いやいや、イライザのせいじゃあないよ。甘やかして育ててしまった我々の落ち度だ。逆に申し訳なかった。あんなのをイライザに押し付けてしまって」


 アンソニーは我々と言ったが、ヘンリーとはたった一歳違いの兄弟だ。同じような教育を受けて来たはずなのだから、非を負うべきは教育をサボッたヘンリーのみのはずだ。アンソニーが謝る謂れはどこにもない。


「もったいないお言葉でございます...」


「イライザ、もうちょっとだけ辛抱してくれ。今、ヘンリーのヤツの悪行の数々を裏付けしているところだ。それが纏まれば婚約を円満に解消できるようになることだろう」


「はい、お待ちしております」


 そう、実はイライザはアンソニーに助けを求めていた。ヘンリーとの婚約を解消するために。最悪な未来を回避するために。こうして王宮でアンソニーと会う度にヘンリーの悪行を報告しているのだ。


「あぁ、僕も待ち遠しいよ。そうなれば晴れてイライザは僕のものになるんだから」


「えっ!? あ、アンソニー様!? そ、それはどういう...」


 イライザはビックリしてしどろもどろになってしまった。


「あぁ、ゴメンゴメン。ちょっとフライングだったかな。でも僕の気持ちは子供の頃からずっと変わらない。イライザ、君が好きだ。上手いことヘンリーと婚約を解消できた暁には、僕のお嫁さんになって欲しい」


「あ、アンソニー様ぁ...」


 イライザの目から涙がポロポロと零れ落ちた。ずっと叶わないと思っていた願いが叶った瞬間だった。アンソニーの方もイライザのことを慕ってくれていたのだ。

 

 まだアンソニーには婚約者が居ない。これは貴族として、王族として有り得ない遅さだった。普通は学園に通っている間に婚約するものだ。


 だがアンソニーはこうして学園を卒業した後も、依然として婚約者を決めなかった。周囲から薦められる縁談を全て断っていた。


 その理由がイライザの存在なんだと分かった今、イライザは頬を伝わる涙を拭いながら、


「不束者ですが、よろしくお願い致します...」


 と涙声で返事をした。


「ありがとうイライザ! いやぁ、良かった~! 緊張したよ~!」


 アンソニーが満面の笑みを浮かべ、ホッとしたような力が抜けたような感じでソファーに倒れ込んだ。


 イライザはその顔を眩しく見詰めながら、絶対にヘンリーとの婚約を解消する。エミリアの奸計にも負けたりしない。


 そう改めて固く心に誓ったのだった。


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