第5話
だがヘンリーがどんなにクズだったとしても、エミリアとしてはゲームのシナリオ通りに攻略を進めるしかない。
じゃないと破滅するのはエミリアの方だから。このゲームの所謂トゥルーエンドでは、嫉妬に狂った悪役令嬢イライザはエミリアに対する度重なる虐めを、学園の卒業パーティーで糾弾され断罪される。
そして未来の国母を害そうとした罪により、イライザは断頭台の露と消える運命なのだ。
だが実は、この場面に辿り着くまでにヘンリーとエミリアは幾多の試練を乗り越える必要がある。
その一つが王位簒奪である。ゲームの中では国王、つまりヘンリーの父親がとんでもない愚王で、国民に対し度重なる重税を課していた。国民の不満は頂点に達していて、いつクーデターが起こっても不思議ではない状況だった。
そしてヘンリーの兄に当たる第一王子のアンソニー。こいつが父親に輪を掛けたロクデナシで、学業も剣術の腕もヘンリーに遠く及ばないことに嫉妬し、事あるごとにヘンリーを虐め抜いていた。
実はヘンリーは妾腹で、アンソニーは正妻の子なので異母兄弟となる。そのためヘンリーは幼い頃から迫害を受けていたのだ。
そんな状況を打破すべく、また国の窮状を救うべく、ヘンリーはイライザの公爵家にすり寄った。力を付けるためだ。
そしてイライザと婚約を結ぶことに成功した。公爵家が後ろ楯に付いたことで、アンソニーもおいそれと手を出すことが出来なくなった。
公爵家としても王族と繋がりが持てるメリットがあるので歓迎していた。つまり最初からヘンリーとイライザは政略目的の婚約だった訳だ。
やがて公爵家の力を借りてクーデターを成功させたヘンリーは、次にその公爵家を排除しに掛かった。公爵家はヘンリーを傀儡に仕立て上げ、裏から牛耳る気満々だったからだ。
その手始めとして娘のイライザを断罪し、その罪を一族郎党に被せる形で公爵家そのものを粛清することに成功する。
ここまでがトゥルーエンドで言う所のハッピーエンド、またはグッドエンディングと呼ばれるものだ。
だが当然、ハッピーエンドがあればバッドエンドもある。バッドエンドの場合、イライザを断罪する場面で逆にざまぁされてしまい、公爵家の私兵に取り囲まれてしまう。ヘンリーの企みは公爵家に看破されていたのだ。
その後、捕まったヘンリー共々エミリアの方が断頭台の露と消える運命になってしまうのだ。
冗談じゃない! そんなのゴメンだ! バッドエンドなんかになって堪るか! 絶対にイライザを処刑するんだ! 私の幸せのために!
エミリアは改めて心に誓った...のはいいんだが、ちょっと心配になって来ているのもまた事実だ。
なぜなら現在の国王、つまりヘンリーの父親は愚王でもなんでもない。寧ろ賢王として名高いほどだ。国民も不満なんて溜めていない。
そしてアンソニーは学業も剣術の腕もヘンリーより遥かに上だ。そして人格者として通っている。エミリアも一度だけ会ったことがあるが、間違ってもヘンリーを虐めたりするようなタイプには見えなかった。
この点もゲームとは全く違う。あれ? これってヘンリーがクーデターを起こして王位簒奪なんかしたら、あんなクズがこの国の王位に就いたりしたら...この国速攻潰れるんじゃね?
エミリアはそれだけが心配だった。
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