第1話 刈る者、摘む者
「ハッ!!!!!!」
6年前のあの日の夢を見て目が覚めた。
ジリリリとなり続ける目覚まし時計を止め、その時刻は朝8時を示している。今日の予定に遅刻するのが確定してしまったため憂鬱ながら家を出る準備をする。
俺は不視見 亮、真東京に住み、1年前から東真東京警察署の新人警察官をやっている。絶賛遅刻中である。今日は近頃、噂されてる謎の怪事件についての大事な会議があるため、大慌てで準備をしてすぐに会議をする場所へ向かった。
「すみません!!!寝坊してしまって遅れました!!!!」
「はっはっはっ!!君の素直なところは素晴らしいが、もう少し気をつけた方がいいぞ。他人に騙されないようにな」
そう署長が言うと、笑いが起こった。
厳しいところだと思っていたが、ここはかなり雰囲気が暖かく、やりやすい場所で他の署で務めている方からもよくここで働きたいという話を耳にする。
「さて、不視見君も来たことだ。本題に入ろう。近頃、立て続けに起きている様々な人が行方不明になる怪事件。これについて議論する」
真東京連続行方不明事件。週に1、2回、様々な時間、場所で行方不明者が出るという事件。これが約1ヶ月続いた。被害総人数はおよそ10人。共通点は全て屋内にいたはずの人物が行方不明になっていること。明確な共通点はそれだけだ。
「この件について、我々だけの調査では、真相にたどり着くことが極めて困難である。そのため、協力者を呼ぶことした。協力者の要求として、その者の話はなるべく拡散されないようにするため、この話は限られた人にのみ、後ほど個人通達をする。通達された人は明日から協力者と共に捜査等を行ってもらう。実績のある者だ。舐めてかからないように。以上。今回はこれで解散だ。各々仕事を進めたまえ」
やはり捜査は難航してるようだ。まぁどうせ新人の俺にはこの仕事は回って来ないでしょ。またろくなこともやらされずに終わるかぁ...。
と、思っていました。
その日の晩、僕のもとに送られた一通のメールには今回の事件に関わってほしいというものだった。
「っっっっっっっっっしゃあ!!!!!!」
遂に舞い降りてきた大きな仕事で、喜ばすにはいられなかった。明日からは忙しくなるなぁ。大変だなぁ。と、期待を膨らませて眠りについた。
翌日、会議室にて
「君には、今回協力者のもとへ行って今回の件について協力をしてもらうよう交渉をしてもらう」
会議室にいたのは僕と署長の2人だけ。つまり、今回の事件を任されたのは僕1人だけである。
「えっと......それだけですか?」
「いや、今回の事件全てに関わってもらう。こちらから連絡した限りだとあちらはかなり協力的だ。とんでもない失礼をしなきゃよっぽど取り消されることはないだろう。安心せい」
重圧がとんでもなかった。本当に1人にやらせることなのだろうか??人手は多い方がいいのでは??と思っていたところ、それを察した所長が
「いや、それが相手からの要望でね。君と話がしたいらしい。君以外が来た時は即効取り消しだ。と」
えぇぇぇぇぇぇ...。なんで僕をご指名なさったんでしょうか。怖すぎる。正直行きたくないが、仕事だし、事件は何としてでも解決したい。なので承ることにした。するしかなかった。
「ここか......」と、スマートフォンの地図を頼りに歩いてきたが、目の前に広がっているのはただの一戸建て。表札にはたしかに「狩屋」の文字が掘られている。
「ピーンポーン」 『はーい!』と、無邪気で可愛らしい声が聞こえてきた。とても探偵なんて職業を担えるとは思えない声だった。
「私、こういうものなんですけど...」
と、自分の警察手帳をカメラ越しに相手に見せる。
『わ!!けけけ警察さん!?!?ちょっと狩屋さんまたなにかしたの〜!?!?あ、ちょっと待っててくださ〜い』
数分経った後、玄関の扉が開き、ピンク髪の本当にこの一戸建てに住んでいるとは思えないほどの小さな可愛らしい女の子が出てきた。
「すみませ〜ん。お待たせしました〜。立ち話もなんなので、どうぞ中へお入りください」
「あ、ありがとうございます」
と、お言葉に甘えて彼女に案内され、広いリビングに入り、お茶をいただいた。
「初めまして、私、華咲手折と言います」
「私、東真東京警察署の不視見 亮と言います」
「あ、あの〜。警察の方なんですよね?」
「あ、はいそうですね」
と、いい切る前に彼女はスマートフォンから電話をかけ始めた。
3コールほどした後、相手が電話に出たようだ。
「もしもし!!狩屋さんまたなにかしました?!......はい。はい。えー?!私聞いてないですよ〜!!!ろくに会えないんですからちゃんと書き置きしといてくださいよ!!」
と、そこでハッと我に戻り、こちらに
「要件がある方が今、ご自宅にいらっしゃったので、お電話変わりますね!!...はい、どうぞです」
渡されたスマートフォンを耳元へ持っていき、初めて彼の声を、電話越しにではあるが、聞く。
「も、もしもし...」
「もしもし、狩屋探偵事務所、狩屋です。警察の方であれば、捜査の協力ですよね?今、事務所の方にいますので、そちらへ向かっていただけるとありがたいです。不視見君、あなたとは直接会って話したいんです。事務所の住所はそこにいる手折から聞いてくださいね。それでは」
と、捲し立てるように言われそのままの流れで電話を切られてしまった。
「も〜、狩屋さんってそういう感じの人なんです。すっごい早口でこちらの有無を言わなせない感じ。謎の事件にしか興味が無いんです。どうにかならないものですかね〜」
と、手折さんは言った。この言動には彼女も手を焼いているようだ。
「あ、こちら事務所の住所になります。早く行かないと狩屋さん怒っちゃうかもです」
と、言われまるで会話の内容を聞かれていたかのように事務所の住所を渡され、そちらに向かった。
住所の示す場所に着いたが、目の前に広がるのはとてつもなく高いマンションだった。
「でけぇ......」
あまりの大きさに声が漏れた。心を決めて中に入る。システムは普通のマンションのように部屋番号を入力し、インターホンを鳴らす。
『空いてるから入りな』
と、再び手短に部屋へと招かれる。
「失礼しまーす」といいながら普通のマンションと同じような玄関に足を入れる。中は一般的なマンションやホテルよりも広く、3~4人は住めるほどの大きさだった。
「いらっしゃい。よく来てくれたね」
と、奥の方から明るい青年のような声が聞こえてきた。声のする方へ向かうと、一見高校生ぐらいに見えるような見た目の彼が、これから怪事件を解決に導いてくれるだろう協力者。狩屋 怪。自営している狩屋探偵事務所に所属。年齢は22歳。見た目から自分よりも若い可能性があると思ってはいたが、1個下なのか...。
「初めまして。東真東京警察署の不視見です」
と、いい切る前に彼はこちらへ走ってきて僕の手を取った。
「知ってるさ!もちろん!君とずっと話したかったんだ...!!さぁこちらへ来て。座って!」
と、勢いのままに連れられ、リビングの豪華なソファへと腰掛けた。
「知ってるかもしれないが、改めてご挨拶を。初めまして。私は狩屋探偵事務所の所長、狩屋怪です。こちら名刺です」
「あ、ありがとうございます」
「さて、早速本題に移りましょう。今回はいったいどんな事件を解決すればよろしいでしょうか?依頼主さん」
依頼主さんと言われたのは少し不安だが、一旦気にせず、事件の概要を一通り説明した。約1ヶ月で10人の行方不明者が出ていること。行方不明者は全員屋内で行方不明になっていること。手がかりがあまりに少ないこと。
「なるほど........事件現場の捜索は細かくしましたか?」
「はい。自分は捜索していないので詳しいことは分かりませんが、少なくともおかしなところは無かったそうですが」
顎に手を当てて狩屋さんは考えている。今の情報になにか引っかかることがあったのだろうか。
「すいません、現場に案内していただいても構いませんか?全ての現場へ。お願いします」
「え?なにか気になることが?」
「えぇ、最近起きてる怪事件はなんの変哲もない部分がヒントになってたりするので、少しでも自分の目で確かめておきたいんです」
なるほど。たしかに怪事件を専門にしている分、そういうのには目が肥えてたりするのだろう。狩屋さんと共に現場へ向かうことにした。
「こちらが最後の現場です」
ここ1ヶ月で行方不明者が出た現場を見つつ、第1発見者の方や行方不明者の親族の方からお話を聞いたりして、毎回何かを見つけたような反応をしていた狩屋さんだったが、何も言わずに次々と現場を見て周り、最後の現場の中へと足を運んだ。
「.....................やっぱりか」
「な、なにか手がかりがあったんですか?」
僕が狩屋さんへそう尋ねると彼は
「...とりあえず、1つハッキリと分かることは、
私達も危ないってことですかね」
「え.........」
突然僕の真上に謎の大きな口のようなものが出てきて、その口を開けて上から降りてきて
「っっ!!!!!」
丸呑みにされかけたところで狩屋さんが僕の身体を押して一緒に謎の口を僕ごと避けた。
「なんだ.........あれ....」
「まだ間に合います。一旦この家から出ましょう」
その声につられて、僕は狩屋さんと一緒にその家から出た。
「すごい物音がしましたがどうかしましたか?!」
と、この現場の家に住んでいた第1発見者、青井さん。
「とりあえずは大丈夫です。とりあえず青井さん。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか」
と、青井さんの了承を受け、様々なことを聞いた。
青井さんはこの地域では有名な花屋を経営しているらしい。良心的な価格設定のおかげで小さな子供が親への贈り物としてプレゼントとして花を買ったり、大人の方も来店していくほど人気のお店のようだ。
「先程、家の中に見られた青いバラ。あれはいったい何ですか?」
青いバラ......たしかにあったな。たしか...
「遺伝子組み換えによって作られた特別な花、でしたっけ」
と、僕が思い出すより先に狩屋さんが話した。
そう思うとかなり貴重な花だったりするのだろうか。
「そうですよ。でも、最近は多く作れるようになって、たくさん販売できてるんです」
「そうですか......それはよかったです」
ん?なにか引っかかってるような反応のようだ。なにかあっただろうか。僕には分からなかった。
「ありがとうございます。また、後ほどこちらに訪問させていただくかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いします」
そう言い、探偵事務所へ戻った。
「あ!おかえりなさいませ〜!狩屋さん!」
手折さんが元気な声でお出迎えしてくれた。癒される。この人はこんなことを毎日してもらっているのか?羨ましくて仕方がないな。
「謎は解けた。手折、お前の出番だ。"例"の準備をしな」
例の準備???なんのことだろうか。というかそれより、「さっきの化け物なんなんですか?!僕死にかけませんでしたか?!それに謎は解けたって、いつの間に?!」
謎の大口に呑まれかけたあの瞬間を僕はハッキリと思い出す。
「あぁ、あれそんな感じだったんですね」
......え??
「私には見えて無いんですよ。その化け物」
えーと???僕だけに見えてたってこと???え?僕なんか特殊能力目覚めてる感じですか?
「私はうっすらぼやけてるぐらいにしか見えてません。だから、あなたが必要だったのです。不視見君」
「君にしか見えない。他の人では不可視のものが君には見える。そして、僕はそれを刈りとることができる」
は、はぁ......だから狩屋さんは
「そう、だから僕は、自称『刈る者』なんだよね」
ここで僕はとんでもないことに巻き込まれたことを実感した。現実離れしたものと戦わなくてはいけないのかもしれない。
「そして、謎の真相は犯人と一緒に解き明かさことにしよう。さ、手折!準備できたかい?!」
「はーい!!!でっきましたよー!」
「じゃあ行こうか」
と、言い狩屋さん、手折さん、僕の3人で再び青井さんのもとへ行くことに。
ピンポーン
『はーい。あ、狩屋さんですね。少しお待ちください』
少し経って、玄関のドアが開く。
「お待たせしました。どうかなさいましたか?狩屋さん」
「青井さん、一緒についてきていただけますか?今から行方不明事件の真相を解き明かします」
その言葉を聞いて、青井さんはもちろん、僕も驚いた。手折さんは案外落ち着いた様子だった。
「.........分かりました。」
青井さんの表情が...曇った??
「それじゃあいきますか。犯人さん」
え、犯人???青井さんが???一体どういうことだ??
「え、どういうことですか。僕が犯人なわけないじゃないですか。家族も死んでしまって、1人になったこの僕が?」
「まぁ、中に入ってゆっくりお話しましょう」
「先ずはどのようにして密室空間の屋内や、様々な様式の家で時間帯などがバラバラの行方不明事件が起きたのか。警察さんが唯一見つけられた共通点は屋内で起きた事件だと言うこと。
だが、もう1つ共通点はあったんだ。手折」
「はい!こちらです!」
と、元気にみせたのは4つの青いバラだった。
「全ての家に、青いバラが1輪だけ飾ってあった」
もしかして...!!
「そう、この青いバラこそ人々を行方不明にした原因だったって訳だ」
......とは言うものの、どのようにして行方不明になったんだ??
「不視見君、周りをよーく目を凝らして見てみな」
目を凝らして周りを...?なにかあるのか?
そうやって周りを見回してみると、僕たちを取り囲むように5つの大きな花のようなものがあった。それらは1度ここに来た時に見た化け物と同じものだった。
「.........っっ!!!」なんだこれ、本当にこれは現実なのか??
「安心してください。現実です。そしてハッキリと見てくださいね。そのイメージは私たちにも伝わります。今から私が刈るので、少しだけ離れていてください。道を作ります。行きますよ」
と、僕たちが動き始めた瞬間、化け物たちが一斉に襲ってくる。それらを避けつつ出口へ走る。
狩屋さんを除く3人が家を後にした。
「さてと、彼がイメージを強く持っている間に終わらせないとですね。
ここまでの大物は久しぶりですね。では」
狩屋の右腕の周りから紫色のモヤが出始め、その手には大きな鎌が握られていた。
右目が薄暗く紫に輝く。それはただ化け物を見つめ『狩る』瞳。刹那、先程まで狩屋の目の前へと襲いかかってきた大きな口を開けた花の形をした化け物は無惨に切り刻まれていた。
「ふぅ〜。一先ずこっちは片付きましたね。あとは......手折。任せましたよ」
家を出てすぐ、手折さんが口を開ける
「青井さん。あなた能力者ですよね」
能力者。その存在はSNSや電子掲示板に様々な考察が書かれている。
青井さんが、その能力者?というより本当に存在するのか?
「......なんで分かるんだ」
「分かりますよ。だって、私も同じですから」
同じ?!手折さんも能力者ということなのか?!
「はっ、じゃあお前もこっち側ならおれをどうこうする理由なんて無いじゃないか!お前もあの事件を起こした人間と同じだ!クソみたいな人間だなぁ!」
「いや、私は違います」
「あぁ...??」
「私は、あなたのように人の命を奪う者ではありません」
手折の目がピンク色に輝く。そして青井に近づく。
「な、何する気だ......なんなんだ!!」
「あなたのあの力、四攻帝(しこうてい)の内の1人でしょう。なおさら許すことはできません」
1歩、また1歩と青井さんに近づく。その足は力強く、勝てるものが居ないと思わせるほどのオーラを感じる。
「あなたの力には、もうこれ以上他人を傷つけたりさせません」
青井の胸に手折の手が触れる。
「それじゃあ、あなたの力、摘ませていただきます」
手折が何かを青井から取ったと同時に家の方から物音がした。
「お、終わりましたかね〜。良かったです」
何が何だかわからないが、どうやらこの事件は終わったようだ。
物音がなった後、少し経ち、玄関のドアが開いた。
「お、そっちも終わったか」
「はい!終わりました!どうやら四攻帝の内の一人みたいでした。案外楽に取れましたけど」
どうやら強い集団の内の1人のようだ。彼はそれを楽々倒してしまったらしい。
「不視見君、もう1つ終わりの話だ。行方不明者とされていた人達は、行方不明になった訳ではなく、君が見てた化け物に食べられてしまった。すなわち死だ」
......薄々勘づいてはいた。突如消えた人達、普通の人ではわからない手がかり。救えなかった。
「君が背負う必要はない。過ぎてしまったことだ。能力者はまだまだ潜伏している。6年前のマグマブレイクもとてつもない能力を持った人間が起こした悲劇だ」
...........そうだったのか。マグマブレイクは人が起こしたものだったのか。人が一つの都市を壊滅寸前まで追い込むことが出来てしまうのか。
「僕は、こんな化け物たちに立ち向かわないといけないのか」
「.........別に無理強いはしない。ただ、君の力があれば圧倒的に早く能力の消去、そしてマグマブレイクの真相に近づける」
マグマブレイクの真相に...??
「僕たちが刈る者、摘む者と名乗るなら君は『視る者』だ。もちろんやるからには仕事としてこちらからもボーナスをあげるよ」
ボーナスまで...??通常の警察での給料に加えて?!?!
「悪い話じゃないんじゃないかな?」
「狩屋さん...あなたは上手い人ですね」
「んー、褒め言葉でいいんですよね?」
「当たり前じゃないですか。その話、乗りますよ」
こうして、狩屋探偵事務所の狩屋怪、華咲手折の2人に加え、この僕、不視見亮の3人で、解明困難な能力事件の解明。そしてマグマブレイクの真相を探る物語が幕を開けたとさ。これからどうなるかとても楽しみだね。今回はここまでだ。続きはまたいつか。
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