第一章 四宮彩花の色欲
「大学生活は人生の夏休みだ」と誰かが言っていたけど、私、四宮彩花は、その夏休みの中の春休みを満喫中なのだ。このバカンスは永遠に続くような気がしていた。
私は、一人暮らしの家でゾンビを倒すサバイバルゲームに興じていた。華の大学生である私が、こういった血生臭いゲームを始めたのも、大学で知り合った私の運命の人である藤井清吾くんが、このゲームにハマっていると聞いたからだ。私は清吾くんと仲良くなるために全く興味のないアウトドアサークルにも入った。
突然、スマートフォンに同じくアウトドアサークルに所属する岡部からの電話が入った。
「今からサークル活動をするから来てほしい!」と言われたが、私は断るための理由を考えた。なんせこの岡部という男は高校時代に私に三度も告白して、三度ともフラれたにも関わらず、まだ懲りずに連絡してくる執念深い異常者だからだ。
しかし、岡部から愛しの清吾くんも来ると聞いて、すぐに行くと返事をした。
私が、岡部にどこへ行けばいいか尋ねたところ、既に私のマンションの下に車を停めて清吾くんと待っているとのことであった。どうやら私が参加することは決定事項だったらしい。なんだか腹立たしい。
私が猛スピードで化粧をして外に出ると、マンションの駐車場に岡部の派手な赤い車が止まっていた。車の後部座席に乗るとき、助手席に乗る清吾くんに満面の笑みで挨拶をしたが、彼は私の顔をバックミラー越しに一瞥して会釈しただけであった。
私は、岡部にどこへ行くのかを尋ねたところ、彼は車を発進させながら、今日の探検計画について楽しそうに話し始めた。
どうやら岡部は、交番の警察官が何者かに刺殺された事件をテレビで見て、その近くの廃墟となった精神病院で肝試しをしたくなったとのことであった。その精神病院は、昔の火災で多くの犠牲者が出たとか、院長が放火して自らも焼け死んだとかの噂があり、オカルト好きな人たちにとっては有名な場所らしい。
岡部は今回の警察官殺害のニュースを心霊のしわざだと思っているようだ。私はバカな岡部と違って、心霊よりも犯人がまだ捕まってないことの方が怖かったが、清吾くんと一緒に過ごす時間が増えると思い岡部のプランに乗った。私が怖いから清吾くんに守ってほしいと言ったところ、彼は「はいはい」と呆れたように返事をした。岡部は「いやいや、俺が守るよ!」と冗談めかして言った。
30分程度、人気のない道を進んだところで、私たち3人は目的地の廃病院に着いた。廃病院に着いた時、清吾くんは寝てしまっていたみたいで岡部に緊張感がないと呆れられていた。
近くに街灯はなく、既に暗くなり始めていたため、廃病院は独特の気味悪さを放っていた。
今からこの廃病院に入るのかと思うと、幽霊を信じていない私でも少し身震いした。廃病院の周りには中に入れないように柵がしてあったが、岡部が強引に柵を外した。私たちは中に入り、廃病院の中を探索し始めた。
岡部ははじめこそ楽しそうだったが、だんだんと無口になった。私も緊張していたが、清吾くんが近くにいることで、少し安心してきた。こんな状況でも気だるそうに欠伸をする余裕が私を安心させたのだと思う。
しかし、その安心は長くは続かなかった。
病院の廊下のコーナーを曲がったところで、目の前の薄暗い廊下の奥からフードを被った謎の男がこちらに早足で歩いてきたからだ。私の口から漏れ出た悲鳴に反応して、男はさらに速度を上げて近づいてきた。私たちが逃げようと男に背を向けた瞬間、乾いた破裂音と共に何かが私の右ふくらはぎを掠めた。その直後に走った激痛で私はその場に倒れてしまった。
男は手に拳銃のようなものを持っていた。私が男に捕まる寸前、清吾くんが男を羽交い締めにした。私がどうしたらよいか分からずにいると、男は清吾くんの腕を振り解き、清吾くんの右目に自分の親指を突っ込んだ。清吾くんは悲痛の叫びを上げながら、その場に崩れ落ちてしまった。
次の瞬間、岡部が謎の男に突進した。岡部が突進で突き飛ばした男の腹部には、岡部がいつも持ち歩いていたサバイバルナイフが突き刺さっていた。謎の男はうずくまって動かなくなったが、清吾くんも倒れたまま気を失っていた。
私は恐怖と痛みで涙が止まらなかった。岡部は震える声で、「大丈夫だ、救急車を呼ぼう」と私を励ました。しかし、岡部がポケットから取り出した携帯電話は圏外であった。私の携帯電話も同じ状況であった。清吾くんの携帯電話は充電がなくなっていた。岡部は清吾くんを背負い、私は痛む足を引きずりながら車に向かうことになった。
歩いている最中、きっと私の日頃の行いが悪いからバチが当たったのだと思った。私は岡部の気持ちを軽く見てきたことを反省し、今後は彼に対してもっと優しくすると決心した。
しかし、私の恐怖体験はこれで終わりではなかったのだ。
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