空に輝く星の先で
海湖水
空に輝く星々よ
「君って宇宙人?」
目の前で少年がワタシに話しかけてきた。こんなことは初めてだ。この星に来てから正体がバレたことなんて一度もなかった。この星の教育機関に潜伏して生活をしていたのだが、このことに気付く者がいるとは。
「どうして?」
ワタシは聞き返した。この少年は、いつも自分の席に座って本を読んでいるようなやつだった。もちろん、この少年とかかわったことはほとんどない。気づく理由が知りたかった。
「まず、君の名前を誰も知らなかった。先生でさえもね。おかしいじゃない。普通は名前を誰かは知っているものだし、名前を知らないことを誰も気にしていないんだよ。まるでそれが『普通』だと言いたげだった。」
それについては、この都市の自分に関わった人間の意識改変を行ったはず。なぜこの少年は気づいたのだろう?まあ、気づいたところで記憶を消すだけだが。
「二つ目に君の見た目だよ。」
「見た目?」
なぜ見た目のことを指摘されたのだろう?人間とワタシ達の見た目はほとんど一緒だし、服装も念には念をいれて、この学校のものを手に入れた。意識改変の影響が少ない人間に気づかれる可能性を少しでも潰したかったからだ。だが、この少年には意識改変がなぜか行われていない。なにか気づくところがあったのだろうか?
「君の髪の色だよ。普通はこんな青色の髪の毛をしている人なんていない。」
「あっ!!」
なぜ気づかなかったのだ。簡単なことではないか。この星にこんな真っ青な髪の色をしている人間なんていない。つい顔の横から垂れている髪の毛を触りながらあわててワタシは聞き返した。
「いや、この星には髪を染めてる人もいるじゃん。なにもおかしくなんて」
「うちの学校髪染めちゃいけないんだよ。それに、『この星』って…。ねえ、隠すきある?」
なんてミスだ…。変に言い訳しようとしたのが仇となったか、ワタシの正体は簡単にバレてしまった。
「まあ、バレてもいいよ、正体なんて。君の記憶を消せばいい。それで一件落着だ。けど、ワタシの正体を見抜いた他の理由も聞いておきたいな。今後の参考になるかもしれないしねぇ。」
そう、ここで考えるべきは正体バレの再発防止だ。そのためには、やはり情報が必要だろう。
「いいよ、そのかわり一つ条件があるんだ。僕のいうことも一つ聞いてくれる?」
あまりにあっさりとした回答だった。こんなに簡単に教えてくれるのか?いやいや、きっと条件でヤバいことをさせてきたりするに違いない。しかし、ここで引くわけにはいかない。弱気な姿勢を見せたら付け込まれる。
「その『条件』によっては考えてあげる。」
「そんなに楽しい?この船を見るの。」
本当に理解できない。この少年がこれらを見て理解できるとは思わないし、なにが楽しいのかもよくわからない。やっぱり男の子って
「いやぁ、最ッ高!!こんな体験ができるなんて思っていなかった!!」
こころなしか、少年のテンションも高くなっているようだ。少しこのような姿を見るとうれしくなる。この星の人間は他の人間にものを与えることで幸せを感じるらしい。嬉しく思えるのは私がこの星の人間の真似をしているからだろうか。
見せている船はワタシがこの星に来るときに使用したものだ。ワタシの星の最新技術が詰め込まれているこの船は、ワタシの星の最高機密の一つ。
「この船の中で見たものは全て記憶から消させてもらう。いいよね?少しくらいは残してあげてもいいよ?」
少年はこちらを振り向くと笑いながらワタシに話しかけた。
「僕の記憶は消せないよ。」
なにを言っているのかが、はじめはわからなかった。記憶が消せないなんてことがあるわけがない。この星の科学技術で記憶を消すことを防ぐなんてできるはずがない。
「僕は未来人でさ、君に会いに来たんだよ。僕は未来で他星の歴史を調べてて、ちょうどこの船の構造がわからなかったんだ。だから、君が地球に来ていたこの時期に、タイムスリップしてきたってわけ。まさか記憶を消そうとしてくるとは思わなかったけど。」
「ちょっとまって、何言ってるの?」
ワタシが困惑していることには気を留めず、少年は話し続ける。
「記憶を消さないでくれない?僕にとって、いや、未来にとってこの情報はとても大切なものだ。だから、今この記憶を失うわけにはいかない。」
いや、何を言っているか理解できていないのに、勝手に話を進めないでほしい。そんなワタシのようすを見た少年は、船の出口へと歩きはじめながらワタシへとつぶやいた。
「本当は君にこの町に残ってほしいんだよね。まぁ、そんなことあるわけがないだろうけど。」
少年はそのまま帰っていった。ワタシは少年を追いかける気にはなれなかった。少年の記憶が消えなかったのも、未来から来たのだとすれば不自然ではない。
これからどうするべきか、ワタシは少し考えた。だが、そんなものが簡単に出てくるはずがない。
ワタシはそのまま街へと向かった。夜に食べるものを考えていなかったからだ。街はすでに夜空のように煌めいていた。
レストランに入るとすでに料理が用意されていた。これも意識改変の応用だ。
用意されていた肉料理を食らいながら、ワタシは少年の最後の言葉が気にかかっていた。
翌日、少年はもういなかった。当然と言えば当然である。彼の目的はワタシに接触することだったのだから。少年は教育機関では転校したということになっていた。
ワタシは、目的は違えど同じ「何かを調査する」という目的を持っていた存在、ある種の仲間意識を一日で抱かせた存在がいなくなったことに、少しショックを覚えていた。
ショックや仲間意識なんて、この星に来るまでは一度も感じたことがなかった。きづけばこの星の人間に近づき始め、この星の人間を愛していた。
「じゃあね、少年。」
ワタシは座る主が消えた机を見ながら一言呟いた。
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