坂木秀明の習作

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 困ったことになった。

 三木本みきもと高校文芸部は、強豪校である。スポーツの強豪校ならば、まだ想像しやすい。実際、私は文芸部員ではあったが、活動にはほとんど参加していない。ただ、たまに新聞の全国紙が、わざわざ取材に来るということを知っているのみである。記事が、廊下に掲示されているので。

 どういう訳か、三木本高校では全生徒に部活加入の義務があるのだ。適当に出した入部届。二年に進級して、顧問が変わったらしい。教師は言った。部活に顔を出さないのは構わない。ただし、毎月、作品を提出するのならば。嫌なら、退部すれば良いとの話だった。私は、渋々、了承したのだった。毎月、コピーして作った冊子に作品を載せるとのことだったので、私はひとつお願いをした。

「筆名は、SSで」

 と言うのも、私の名前は「坂木秀明」と書いて、「さかき・しゅうめい」と読むからである。大抵の場合、「ひであき」と思い込んでいる。私も、いちいち訂正しない。まあ、それは良い。

 問題は、作品である。本ならば、呪いが成り立つほどにある。だからと言って、ほとんど創作したことがない。私は、恋人と友人に助けを求めた。

「なんと! 伝統ある三木本高校文芸部の部誌に、坂木の駄作が載るだなんて! とんだお笑い草ね!」

「駄作決定かよ…」

 今日も今日とて、天才美少女画家たる呉碧くれあおいは、大層、ご機嫌である。

「あ、僕、ファンタジーが読みたいな」

 美少女より美少女らしい、石矢世津奈いしやせつな

「ちょっと待って。ファンタジーとな?」

 ファンタジー? ファンタジーって何だ。そんなもの、うちにあったか?

「『遠野物語』?」

「ええ、うーん?」

「ちょっと、違わない?」

 大いに悩む、三人。ふいに、呉碧が立ち上がる。

「ファンタジーとは、世界の秘密を暴くものなのよ!」

「あ、ああー…。で?」

「それを考えるのが、お前の仕事だよ!」

 でしょうね。うん。

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