第6話 領主

 気が付いた時には、石造りの壁で囲われた広間へと彼らは移動していた。


「よく来た、召喚士と召喚者」


 若い男の声が部屋の中に響く。

 声がした方を見てみると、貴族のような恰好をした若い男が、豪勢な椅子に腰を掛けたまま大宮達を見ているのが目に映った。


「りょ、領主様!」

「こんなに若いのにか?」

「はは、まぁ色々あってね。気楽に接してくれて構わないさ」


 見たところ大宮と同い年か、少し上かといったところだろう。


「さて、君はルビーかな?」

「わ、私を知っているんですか?」

「まぁね、召喚の要請を送った人の事はある程度は把握しているつもりさ」


 領主の男は両ももに肘を乗せて手を組む。


「他の召喚者に聞いたが、どうやら君達の世界に混乱を招いてしまったようだね。謝罪する」

「強制的に契約を結ばせたわけだしな。で、帰れるのか?」


 領主は立ち上がり、大宮へと近付きながら困ったような表情を浮かべる。


「帰れない事はないんだけどね、でも分かっている方法には問題もあってね……それよりもまずは自己紹介をしよう。私はクリフォード・リーキーと言う、好きなように呼んでくれて構わないよ」

「俺は大宮仁だ」

「よろしくジン。さて、言い訳がましく聞こえるかもしれないが説明をしてもいいかな?」

「あぁ」


 どうやらクリフォード個人としてはこの異世界召喚という方法には反対しているようだ。

 しかし、国の重鎮達は異世界召喚の味を占めており、そう簡単にこの文化を失くす事は出来ないのが現状なのだそうだ。


「現状分かっている君たちを帰す方法ではどうしても召喚士の死が不可欠となっていてね。我々の国の戦力事情を考慮すると、それは非常に避けたいものなんだ」

「そうならない方法は無いのか?」

「今のところは、ね。でも探せばきっと見つかると私は思っているよ、君たちを召喚していいように使う発見は色々あるのだからね」


 クリフォードは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「どうにか領主にはなれたが、表立って召喚者の利となる研究はやはり出来なくてね」

「つまり……俺、いや、俺達は帰れないって思っておけって事か?」

「酷な事を言うけれども、そうだね。まぁ召喚士の意志や研究次第ってところではあるけれども」


 クリフォードは大宮の目を真っ直ぐと見る。

 その目からは彼なりの覚悟を感じ取ることが出来た。


「そうだ、ジンの仲間についての注意もしておかないとだね」

「注意?」

「あぁ。私の領地内で召喚されたのであれば多少の保険はかけてはいるが、君達の思想には触れないように魔法陣を組んであるのだけれども……」


 クリフォードは少し迷った後、言葉を続ける。


「他の領地、特に召喚者の力を我が物のように扱いたい地域では、最早召喚前とは別人と言えるような洗脳を組み込んでいたりもしてね」

「何だそれ……そんなのが認められてるのか?」

「流石にそこまでするのは反対って意見が多いのが幸いかな。でも、そういうのを組み込むのを義務化はされていないけど、禁止されていないっていうのが現状だ。基本的には何かしら変わっていると思っていいよ」

「つまり……一緒のヤツでも、もう別人だって思った方がいいって事かよ……」


 まるで改造人間だ、他のところから攫い、自分たちが使いやすいように洗脳する。

 感情的になりたくなる心をどうにか抑え込み、大宮は唾をのむ。


「君達を人間と見るか、異世界の怪物と見るか、ここが大きな差だろうね」


 未知のものに恐怖する。というのはどうやらこの世界でも共通しているようだ。


「さて、遅くなったけれども本題に入ろうか」

「俺のこれからの話、か」

「君だけじゃない。ルビーも含めた先の話さ」


 大宮達が前線へと送られるのはおよそ3か月後との事らしい。

 それまでの期間に能力の把握、戦闘の基礎訓練、それぞれが得意とする分野の特化訓練をしなければならないそうだ。


「訓練をいつ、どの程度するかはある程度自由に決めてもらって構わない。でもあまりにしなさ過ぎる場合はこちらで勝手に予定を組ませてもらう形になる」

「訓練の例ってあるか?」

「そうだね、基本的には冒険者がする討伐系の仕事と同じと思ってくれて構わない」


 そう言いつつクリフォードは一枚の紙を大宮へと渡す。

 そこには場所と標的が記されており、達成した際には標的の一部を証拠として持ち帰るのだそうだ。


「いかにもファンタジーって感じになってきたな……」

「ちなみに一人で行ってもいいし、他の召喚者を誘ってもいい」

「誘うって言ってもどこにいるのかも知らないんだけど」

「この後、君とルビーには私が管理している宿で生活してもらう。今集まっている召喚者も同じ宿にいるから、そこは問題ないと思う」

「ちなみに今、俺を入れて何人いるんだ?」

「5人だな。今後増えるかもしれないし、増えないかもしれないがね」


 他に聞く事は特に思い浮かばない。


「そうだ、領主様。ジンの着替えはありますか?」

「この後サイズだけ測らせてもらえればこちらで用意しよう。武器や防具も必要であれば、あまり高価なものは難しいが考慮しよう。勿論ルビー、君の分もだ」

「あ、ありがとうございます!」


 ルビーは目を輝かせて勢い良く頭を下げた。


「それでは、部屋への魔法陣を用意させるとしよう」

「またアレか……」

「苦手だったかな?」

「慣れれば問題は無いんだろうけどな」

「はは、では慣れておくといい」


 この後、領主の厚意で食事をし、再び魔法陣で移動した。

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