第3話 何が出来るのか

 村は先端を尖らせた丸太の壁で囲われており、ルビーの家を含めても15軒程度しかない小さな村のようだ。


「随分と田舎だな」

「街まではそんなに遠くないからさ! 結構便利だよ? 馬車もあるし」

「馬車かぁ、どれくらいかかるんだ?」

「大体1時間くらいってところかな?」

「結構かかるな……」


 地面は土を踏み固めたような未舗装のもので、それぞれの家先には小さな畑が備え付けられている。

 異世界とは言っても、トマトやキャベツといった馴染みのあるものも多いようだ。


 大宮達の世界が地球、つまりアースというのであれば、この世界の名前はミテュールというらしい。

 人々の生活は江戸時代程度だろうか、少なくとも便利な機械は存在してはいないようではあるが、遠くの地方ではドワーフが蒸気機関を発明したりと、そう遠くない未来に元の世界と同じようになるかもしれないと思わせるところはあるようだ。


「でも、魔法の方が有力視されている……と」

「魔法が無かったらジンの世界みたいに科学が発展したんだろうなあ……そっちの方が良さそう」


 全ての人が魔法を使えるわけではないようだが、魔法をかけられた道具が存在する為、その差は日常生活を送る上では大きな差にはならないのだそうだ。

 それでも全く差が無いとは言えず、ルビーからすれば大宮が話した世界はかなり魅力的に思えたようだ。


「どうだろう、一概にいいとも言えないと思うんだよな」


 魔法が無かったとしても、結局のところどこかで差がつくものだ。


 現在、オークとゴブリンを中心としたラーケスという国と戦争状態にあり、ここにはまだ戦火は広がってはいないものの、少しずつ確実に押し込まれつつあるそうだ。

 その状況を打破する為の英雄召喚が各地で行われ、ルビーや俺が今いるこの国、カストールは打開を狙っているらしい。


 ルビーの身長は少なくとも大宮よりも低く、およそ150センチ前後ほどだろうか。

 太陽に照らされた少しクセのある赤い髪は肩ほどまであり、宝石のように光を反射している。


 村の門には跳ね橋がついており、壁を覆うようにして深い堀が掘られている。

 その堀には外壁と同じように先端の尖った丸太が空へと突き出ており、もしも落下すれば無事ではいられないように見える。


 門のすぐそばに小さな小屋があり、少し苔むしたカカシが立っていた。

 見晴らしのいい平原が広がり、風に吹かれた草が反射による光の波を作り出している。


「切り札って感じで召喚されたからには……強くあって欲しいところだけど」


 大宮はカカシから10メートル程のところに立って拳銃を握り締める。

 拳銃の中では一般的な9mm口径、反動が小さく扱いやすいと聞いたことがある。


 パァンッ!


 乾いた銃声が平原に響き渡る。

 カカシの胸には小さな穴が開いており、それを見た大宮は続けて引き金を引く。

 連続した銃声と共にカカシに小さな穴が開いていく。


 反動はかなり小さく、片手でも精度は流石に落ちるものの制御できない程では無い。


「凄いけど……地味だね」

「まあ、確かに派手さは無いな」


 所詮は小さな金属を高速で発射しているだけだ。口径が大きければ話は変わるだろうが、派手に弾け飛んだりといった事はない。

 しかし、高い連射力で、しかも力も殆ど入れずに体に穴を開けられると考えると少しはこの武器の強さがイメージしやすいかもしれない。


「ルビーさんも使ってみる?」

「いいの?」

「あぁ、これが安全装置で――」

「ありがと! それから、私の事はルビーでいいよ。さん付けなんかしなくてもさ」


 ルビーに使い方を教え、ルビーは両手でしっかりとグリップを握りカカシへと狙いを付ける。


「ひゃぁ!」


 銃声と共に彼女の手が右上へと跳ね上がる。

 放たれた弾丸はカカシの左肩へと命中し、貫通したようだ。


「イメージさえ出来ていれば他の人に渡す事も出来る……と」

「思っていたよりもすごい衝撃だね……」

「聞いた話と俺の中のイメージだけで言えば、ドワーフが同じようなもの作りそうだけどな。他にも試してみていい?」

「いいよ、でもあんまり無茶はしないでね?」


 大宮は拳銃のイメージをやめ、次は自分の中で一番派手な武器を思い浮かべる事にした。

 単発の威力を重視するとなれば、やはりロケットランチャーだろう。


「っ……」

「っと……」


 作り出そうとしたその瞬間、大宮とルビーを眩暈が襲った。

 イメージするのをやめればすぐにそれは治まったが、同じものを再挑戦するのはやめた方がいいだろう。


「私の力不足だなあ……」

「そうなのか?」

「召喚者の力って召喚士に依存するみたいでさ、もう少し軽めのでお願いできるかな」

「分かった」


 大宮が次に出そうと決めたのはショットガンだ。

 この銃の特徴と言えば散弾だろう。大きな口径の銃身から放たれる小さな粒は、拳銃のような点ではなく、面で攻撃すると言ってもいいだろう。


「これはいける……と」


 この銃は拳銃に比べると非常に大きい。

 肩に当てるためのストックに長い銃身、何より目につくのは銃身の下にあるフォアエンドと呼ばれるポンプアクションをする為のパーツだろう。


「これもさっきのと同じなの?」

「銃って意味ではな、撃つぞ?」


 ポンプアクションをし、大宮はカカシへと照準を合わせる。


 ドォンッ!


 先ほどよりも強い衝撃、そして重い銃声が平原に響き渡ったかと思えば、カカシの上半分は綺麗に吹き飛んでいた。


「すごい! 一撃必殺だね!」

「通じてくれるといいんだけどな、敵ってやつにさ」


 散弾は威力こそ高いが、粒が小さいために鎧を着ていたりすれば効果は激減してしまうだろう。

、ただし、欠点らしい欠点はそれと反動が大きい事くらいであり、柔らかい相手であれば十分採用できる選択肢の武器だろう。


 他にも色々試した結果、予備の弾薬や弾倉も作り出せる事が分かり、無限に銃を出せるわけでもないという事も判明した。

 検証が終わる頃には既に日は地平線に隠れようとしていた。

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