君に出会えて、あなたに出会えて、幸せでした。

umi

第1話 出会いは突然に

 心地よい涼しげな風が吹く日。

 赤茶色で作られた大きな家の煙突から、白色はくしょくの煙が立ち込めている。

 今日は村長であるジョンの一人娘、エンジェルの誕生日だ。

 村人はジョンの家に集まり、エンジェルの誕生日パーティを盛大に開いていた。

 皆、エンジェルの17歳の誕生日を祝い、沢山の言葉を交わしている。

「エンジェル、お誕生日おめでとう!」

 そう言って母のマリアはエンジェルに赤いカーディガンを手渡した。

「わぁ!素敵なカーディガン!お母さん、ありがとう!」

 エンジェルが瞳を輝かせ、喜びを露わにするとマリアの顔も思わず綻んだ。


 次の日、エンジェルはお母さんに頼まれて、森に住むおばあちゃんの家までワインとパイを届けに行った。

 肩には昨日貰ったカーディガンがかかっている。

 一晩でエンジェルのお気に入りとなったのだ。


「おばあちゃん!久しぶり!」

 おばあちゃんがドアを開けるなりそう言ってエンジェルは抱きついた。

「おやおや、可愛らしい天使さんだこと。よく顔を見せておくれ」

 おばあちゃんは可愛らしい孫の顔を見ようとエンジェルの頬に手をあてた。 

 頬から感じるおばあちゃんの体温に、エンジェルは少しくすぐったい気持ちになった。

 そうして持ってきたパイを真ん中に2人で小さなお茶会を開いた。


 楽しい時間はあっという間で、気がつくと夕暮れ時になっていた。

「おばあちゃん、私そろそろ帰るね」

 エンジェルが5時になった時計を見上げるとおばあちゃんもつられて時計を見上げる。

「あら、大変。森は暗くなるのが早いから、急いでお帰り」

 「それとも泊まっていく?」と、おばあちゃんは心配そうにエンジェルに聞いた。

「そうしたいのは山々なんだけど、明日は学校だから家に帰らなきゃなの」

 少し名残り惜しそうにするエンジェルをおばあちゃんは外まで見送った。

「気をつけて帰るんだよ」

「うん、今日はありがとう。また、すぐ来るね!」

 そう言ってエンジェルはおばあちゃんの言葉を背に暗くなり始めた森の中へと歩を進めた。


 森は静まり返っていて、鬱蒼うっそうと生い茂る木々に威圧感を感じる。

 昼間は綺麗な焦茶色の枯れ枝も、今はシワ枯れた腕に見える。

 考えたくなくても余計な想像を膨らませてしまう。

 すると、数メートル先の草陰から突然、人が現れた。

「っ…」

 小さな悲鳴をあげそうになったエンジェルは思わず、口を手で押さえた。

 それもそのはず、よく見ると草陰から現れたのは人ではなく、動物の耳と尻尾を生やした人ならざる者だったからだ。

 その人ならざる者は、エンジェルに気づくとまた、草陰に隠れてしまった。

 エンジェルは驚きのあまり、暫くの間、呆気に取られていた。

 そして、我に返ると足早に家への道のりを急いだのであった。

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