家の蔵から宇宙人のミイラが出てきた
秋田健次郎
宇宙人のミイラ
この蔵はぼくが生まれるよりもずっと前からここにあるのだと思うと不思議な気持ちになった。木製の扉は黒くくすんで木目は全く見えなくなっていた。錆の浮いた南京錠におもちゃのように小さなカギを差し込んで回すと、それは音もなく開いた。
蔵の中は、日が出ている時間でも薄暗かった。扉のついていない三面に棚が据え付けられていて、農具がいくつか立てかけられていた。棚には木箱がまばらに並んでいるが、どれも砂埃を被っていて少しでも動かすと塵が舞いそうだ。
蔵の中に一歩踏み入れると、すっと空気が変わったような気がした。古い木の臭いが充満していたが、嫌いではなかった。
体を回して、蔵の中を見回す。棚に並ぶ木箱はどれも同じような色と形だったが、一つだけ質感の違うものがあった。昔、何かのお祝いでもらった高級なハムが入っていた箱と似ている。
その箱はぼくが背伸びをしてやっと届くくらいの高さにあった。できるだけ塵が舞わないようにゆっくりと、その場に下ろす。箱の表面に文字はなく、指でなぞるとさらさらとしていた。
後ろを振り向いて、誰も見ていないことを確かめる。別に悪いことをしているわけではないけれど、鼓動が速くなるのを感じた。蓋をそっと持ち上げて横にずらす。そこには、奇妙な干物に似た何かが横たわっていた。箱の底には藁が敷いてある。
人の形をしていて、とても魚や昆虫とは思えない。顔にあたる部分には大きくて黒い眼玉がついていた。干からびてレーズンみたいになっているがおそらく眼球だ。胴体と四肢は萎びていて、干からびたミミズのようだった。
恐る恐る触ってみると、かさかさとした感触で軽く爪の先で叩いてみると、コツコツ音がするほど硬かった。ぼくは、この謎の物体の正体に心当たりがあった。
(これは、宇宙人のミイラだ!)
昔、テレビ番組か本か何かで宇宙人のイラストを見たことがある。そいつはちょうど、このミイラと同じように大きな目玉と細い手足をしていた。
そして、そのミイラの足元に付箋くらいの大きさの紙切れが挟まっていた。長い間ここに放置されたせいか、少し黄ばんでいる。なにより目を引かれたのがそこに書かれた「お父さん」という文字だ。
その文字を見た瞬間、ぼくは昂揚感を覚えた。
(ぼくの想像は当たっていたんだ!)
ぼくのお父さんは宇宙人で、つまりはぼくが宇宙人のこどもなのではないかと思い始めるに至ったきっかけは先週あった授業参観までさかのぼる。
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