第5話 ニコルの場合
彼女の名はニコル。
本来は天使と見紛うようなプラチナブロンドの髪と、蜂蜜のような瞳が印象的な美少女であるが…
10歳という若さでありながら
生まれてからずっと病気で、
外にもほとんど出たことがない虚弱体質だ。
食も細く、ずっと寝たきりだったため、
顔は青白く、体は壊れそうなほど華奢であり、塞ぎ込みがちな性格でもあった。
家族はワトソン伯爵家の領主である父と、
その妻である母。そして3つ上の兄。
家族も、仕える侍従たちも皆、愛情深く優しい。
毎日、誰もが細やかに配慮をしてくれて
前向きな言葉をかけてくれる。
ただ、時々それが有難くもあり辛くもあった。
外の世界の話を聞く度に憧れが募る。
いつか元気になったら……と何度も思ったが
どうやらそれは叶いそうにないらしい。
「もう、つかれた。わたしがんばったよね。」
最近では、体力の限界を感じ始めていたので
それなりの覚悟はしていた。
不思議と恐怖心はなく、はやく皆の幸せを見届ける天使になりたいと思っていたほどだ。
心配なのは、父と母と兄の事。
自分がいなくなったらどれだけ悲しむだろう。
自分を宝物のように育ててくれた皆を思うと
心底辛くなった。
『ああ……もっと心も体も丈夫なら……
せめて家族が悲しまなくて済めば……』
明日になれば新年。
そんな日の早朝に娘の亡骸があれば
どれだけ絶望することか。
『神様、どうか。家族が悲しみに暮れることなく幸せに暮らせますように。』
ニコルは意識の限界が来るまで
家族の幸せを祈りつづけた。
―――ゴーン…ゴーン…
0:00を知らせる教会の鐘が聞こえた時、
彼女は涙をながしながら
眠るように静かに息を引き取った。
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