異世界から帰還出来たので魔法やスキルで復讐を誓った……が、待っていたのは相も変わらず底辺陰キャ生活でした。

棘 瑞貴

プロローグ


 アスファルトの地面が焼ける懐かしい匂い。

 俺が意識を取り戻すきっかけをくれたのは、そんなあの異世界では感じられない、こちらの世界ならではの匂いだった。


 そう、俺は──


「帰ってきたぁぁーーーーー!!!」


 実に2年振りに現代の日本へと帰還したのだった。


 両腕を上げて目尻に涙を浮かべながら俺は往来の真ん中で叫ぶ。


「あのクソみたいな世界からようやく帰れた! 全く、何度死にかけた事やら……。異世界転生ってもっとチートスキルで無双するもんじゃねぇの!?あー!思い出したら腹立ってきた!!」


 あの異世界での憎らしい冒険の日々を吐き出していると、通行人の皆様が白い目でこちらを見ていた。

 しかし、そんなもの俺の眼中には入らない。


「クソ!クソ!!帰って来られたのは良いけど、なぁにが『あ、もう用済みなんで大丈夫です』だ!あの女神絶対復讐してやるからな……!!」


 思い出すのも嫌になるのに回想が止まらない。

 

 俺の叫びでお気づきだろうが、我が異世界転生はロクなもんじゃなかった。

 説明なんてしたくもないが、一つだけ言えるのは俺はもう二度と異世界になんて行かん。ただそれだけだ。


 地団駄を踏み、拳を握り締めて叫び続けていた俺だが、いつまでもそうしてはいられなかった。


 後ろから突然声を掛けられたのだ。

 ……職質とかじゃないからね。


「マスター、うるさいです」

「え……!?」


 背後から聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。

 それも当然だ。なぜなら声の主はついさっきまで一緒に居た──


「み、ミリヤ……?」

「はい、ミリヤです。マスターのミリヤですが何か?」


 飄々と答え、可愛く首を傾げる美少女──ミリヤ。

 彼女は俺があの異世界で雇っていた専属奴隷。

 貧弱なスキルしか与えられなかった俺が生きる為には、奴隷を雇って裏切らないと確証の得れる存在と冒険をするしかなかったのだ。


 当然だが彼女とはついさっき別れを済ませたばかりだ。

 無理矢理女神に帰還を言い渡されたせいで感動的な別れとは行かなかったがな。

 と、まぁそんな事はともかくだ。


「お、お前……なんでここに……!?」


 俺は目を丸くしてそう言った。口は開きっぱなしだ。

 だってそうだろう?こいつはあの異世界の住人。この場に居るはずのない存在だぞ。


 ミリヤは特に慌てた様子もなく告げる。


「女神様の魔法陣に飛び込んで来ました」

「は、はい!?」


 こ、こいつ転移の魔法陣に突っ込んできたのか!?


「なんで!?」

「──私はマスターの奴隷ですから」

「ちょ……!」


 人通りが多くないとは言え、ここは往来の真ん中。奴隷発言を聞いた通行人の皆様からのぎょっとした視線が痛い。首に隷属の首輪もしてるしなぁ!

 なにやら『なにあのカップル……』『そういうプレイ……?』なんて聞こえてくる始末だ。


「と、とりあえずうちに戻ろう。話はそれからだ……!」

「どこまでもお供しますよ、マスター」


 穏やかな微笑を浮かべてそう呟いたミリヤ。

 

 ……お前は出会った頃からほんとずるい奴だよ。そんな顔されたら無茶した事を怒れないじゃないか。


「……行くか」

「はい」


 あのクソ女神もさすがに気を遣ったのか、実家までは歩いて帰れる距離だった。

 俺はミリヤの腕を引っ張って炎天下の中を歩いた。

 冒険者としての装備を纏った俺と、奴隷としてメイド服を纏ったミリヤへ向けられる冷たい視線をくぐり抜けてな……。


「やっぱり気の利かない女神様だよ……」


 あの女神には復讐してやる。改めてそう心に誓う俺だった。

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