池田屋事件-1
沖田総司、正体が露見して池田屋に監禁される!
池田屋に籠もる長州志士たちは、古高俊太郎と沖田総司の人質交換を要求!
交換条件は厳しかった。今後池田屋を襲撃しないこと、当面長州志士の京での活動を黙認して捕縛や斬撃を中断すること、六角獄舎に送られている志士たちを釈放すること、等など。
いずれも、浪士集団の新選組が独断で「承知した」と決められるようなものではない。会津藩、それどころか幕府の承認を得なければならない。
しかし果たして承認されるかどうか、承認されるとしてもいったいどれほどの時間を浪費するか。
即時に沖田総司を取り戻すためには、会津藩に黙って、長州との間で「秘密協定」を結ぶしかない。
だが、そんなことをすれば、いずれ幕府方に発覚する。新選組は長州藩とグルになったと後に会津・幕府に追及されて、幕府の「敵」として認定されることになるだろう。旗本たちによって結成された「京都見廻組」が、新選組隊士を斬る未来が訪れる。
池田屋から送られてきた書状を受け取った壬生屯所は、蜂の子をつついたような騒ぎになっていた。
誰よりも収まらないのは、無論、副長土方歳三である。
「総司め! 案の定じゃねえかよ! いくら刀を持っていないからって、あっさり捕らわれやがって……! 交渉なんざやってられるか、これは長州の時間稼ぎだ! 長州藩から京に軍勢を入れるまでの間、俺たちを足止めさせる策だぜ。総司を剣で奪回する! 直ちに池田屋に乗り込むぞ!」
だから言っただろうが。あの馬鹿が。いつもいつも一人で暴走しやがって。歴史の運命なんてものはな、お前一人の力でどうにかできる代物じゃねえんだ。かえって事態が悪化してるじゃねえかよ。
土方は沖田総司(の中にいる町娘)にありったけの罵倒を喰らわせてやりたかったが、それよりもなによりも、こちらが古高俊太郎を拷問していただけに気が気でなかった。
もしも、気が荒い長州志士の連中が、総司になにかしたら……拷問を加えたら……まさか。桂小五郎がいるのならば、そんな非道な真似をあの娘にはやるまい。しかし、桂が不在なら?
「畜生。あいつら、全員ぶった斬ってやる。女子供を人質に取りやがって。武士のやることじゃねえ……!」
副長山南敬助が、静かに逆上する土方を制止した。
山南も(沖田くんが……)と衝撃を受けて青ざめていた。しかし、自分にできることは土方くんが暴走した時に切腹覚悟で諫めることだ、新選組の舵取りを誤らせないためにバランスを取ることだ、と山南は自分自身の立場を理解していた。
かつて山南は(総長とはいえ名誉職。新選組はもはや土方くんの組織になった。私の出番も居場所ももう、どこにもない)と空虚な思いに憑かれ、自らの去就に迷っていた。
だが女の子になった沖田総司から、自分自身の存在意義を教わったのだ。新選組副長として「情」を捨てなければならなくなった土方歳三を補佐するバランサー役に徹することで、自分は新選組のために働けるのだと。
そして、聡明な山南は、島原の芸姑・明里のもとに通い詰めて女性心理を学びながら、ひとつの推論に到達していた。
そのことを山南は今まで黙っていた。軽々しく明かしてはいけないことだから。だが、今、いよいよそのことを隊士たちに語る時が来たらしい。
「土方くん。沖田くんは、沖田くんであって沖田くんではありませんね。あなたはご存じだったのでしょう? だから、そんなにも激昂しているのです。彼が試衛館時代の少年沖田総司であれば、あなたはそこまで狼狽えない。最強の剣士沖田総司ならば手前の不始末のケリは手前でつけろ、一応手助けくらいはしてやるがな、で片付けるはずです。沖田くんを案じながらも、新選組副長としてもっと落ち着いているはずです」
「山南さん? なにを突然、言いだしやがる?」
「沖田くんがなぜ女性になったのか? 理由は病ではない。沖田くんと年の近い若い女性の魂が、沖田くんの身体の中に『入った』からでしょう。だから身体も女性に変化した。沖田くんの意識はあの鴨川での夜からずっと、その女性のものなのです。土方くんは彼女を守りたい。だから、それほど狼狽えている」
「待てよ山南さん、こんな時に面倒なことを言いだすんじゃねえよ。もし仮にそうだとしても、だったらなんだっていうんだ?」
「彼女の意志を、志を尊重してあげたいと思うのです。彼女は、恐らく未来か、それに近い別世界から私たちの世界に来た漂着者のような特別な存在でしょう。彼女は新選組の未来を、われわれの運命を知っているのです。私自身、自分の未来の行動を言い当てられて驚きましたが、考えてみれば彼女のこれまでの行動はすべて、新選組が崩壊し破滅する運命を回避するためのものでした――そう考えれば、いろいろと腑に落ちるのです。ですから、新選組は池田屋を襲撃してはならないのです。討ち入れば、新選組は破滅の運命に陥るのです。お辛いでしょうがどうか耐えてください、土方さん」
土方のもとに押しかけていた試衛館以来の古参隊士たち――永倉新八、斎藤一、原田左之助、藤堂平助らは、「あっ」「言われてみれば」「まるでおいらたちの行く末を知っているかのようだった」「……総司……そうだったのですね」と全員が全員、山南の言葉によって真実に気づいていた。
身体だけではなくいきなり心までまるきりほんものの女の子になってしまった違和感も、「正解」がわかってしまえばすべて筋が通っている。その上で、試衛館古参レベルで新選組に詳しい理由も、まるで昔からほんものの沖田総司だったかのように振る舞える理由も。
死なないでください。新選組を辞めないでください。懸命にそう訴えてくる沖田総司の潤んだ瞳は――新選組、そして彼ら隊士たちの運命を知っていたからこその――。
「……そこまでわかっていて、山南さんは、俺に総司を見捨てろと言うのか? 冗談も程々にしやがれ! だから、あんたには秘密は明かせないんだよ。そうやって理屈をごちゃごちゃと捏ねて、いつだって事態をややこしくしやがる。俺は、行くぜ」
「ですが土方くんは沖田くんと、なにがあっても池田屋には乗り込まないと約束したではありませんか。彼女はたとえ試衛館のあの沖田総司ではなくとも、誠の武士です。武士と武士との約束を破ってはなりません」
「ああ、わかってらあ! 新選組は屯所で待機させる! 俺一人で行ってやるよ! なんだったら、新選組を脱退して素浪人になってもいいぜ。直談判しても長州の連中が総司を返さねえなら、俺があいつらを全員斬り殺してやらあ! 新選組副長としてではなく、多摩のバラガキ土方歳三としてな! そして俺が切腹して果てれば、新選組はお咎めなしだ。それで文句ぁねえだろう、山南さん?」
「ああ。あなたはそこまで、彼女のことを――やはり、到底私の及ぶところではない深い情愛です。しかし、いけません。『隊を脱する者は切腹』ですよ土方さん。あなたが定めた局中法度に、そう書いてあります」
「ちっ! ああ言えばこう言う。議論じゃ山南さんには叶わねえよ。だがな。会津藩公護衛任務の時には血相を変えて『総司を救いに行け』と怒鳴ったあんたが、どうして今回は逆のことを言うんだ!?」
「あの時は、あなたは私情で沖田くんを除隊させる策を弄して、沖田くんと斎藤くんを死地に落とし込んでしまっていることに気づいていなかった。だから、救出すべしと諫言したのです。今回も同じですよ。あなたが単身で池田屋に乗り込めば、膾のように切り刻まれます」
「俺ぁ喧嘩慣れしている、そこまで単純じゃねえよ。あいつと一緒にするな」
「いえ。恐らく、現在の池田屋には想定外の敵がいる。沖田くんの正体と、大いに揺れている日本の未来を知っている者が。そうとしか思えないのです、今回の事態は。それが誰かはわかりませんが。だから、彼女はあれほど注意していたのに捕縛されてしまった」
「想定外の敵だあ? いったい誰だよ、そいつは? 女を人質に取るような卑劣な野郎は、誰であろうが生かしてはおけねえよ!」
「私にも、誰かはわかりかねます、少なくともこの場にいる新選組隊士ではない」
「じゃあ、そんな疑心暗鬼を駆り立てるような推論を口にするんじゃねえよ!」
「私もそのつもりでしたが……落ち着いてください土方くん。あなたは、沖田くんのことになると頭が沸騰して、いつもの頭脳の切れが曇る。私情に心を支配されてしまうほどに、あなたは……そうか。あるいは池田屋の黒幕は、あなたを狙っているのかもしれません。だから他ならぬ沖田くんを人質にしたのでは」
「……それ以上グダグダ喋るな。俺ぁ真っ先にあんたを叩き斬っちまいそうだ、山南さん」
「土方さん。あなたは交渉ごとには向いていない。単身で池田屋に乗り込み交渉をやる役目は、理屈屋の私が適任者だと思うのです」
「いくらあんたが弁舌を得意としていても、池田屋に未来を知っている野郎がいるなら、新選組隊士が単身乗り込めば誰であろうが死ぬぜ?」
「はい。ですが仮に、私が斬られたとしても――私は恐らく試衛館古参組のうち、最初に死ぬ運命にある者です。沖田くんは、誰よりも真っ先に私を引き留めてきた。今思えば、最初に止めなければならない者が私だったからですよ」
総司のやつ、そんなことをしていやがったのか。俺にはざっくりとした未来しか言わなかったくせによ。知っていることを全部細かく俺に教えてくれりゃあ、一緒に知恵を絞って先回りして手を打てたものを、一人で暴走しやがって……と土方は天を仰いでいた。
「副長として日々の職務に追われるあなたに、負担をかけたくなかったのでしょう」
「とにかく、俺が行く。総司が別人だと知って隠していたのは、俺だ。俺がケジメをつける」
「いえ、私が参ります。私も、真相に薄々勘づいていたのに黙っていましたので。それに土方さん、あなたになにかあれば、彼女が哀しむ」
「あんたになにかあっても、あいつは哀しむよ。あいつはそういう馬鹿だ」
二人は激しく言葉を戦わせる。このままでは、勝敗が付かない。
「お前さんがた、いつまでも埒があかないよ。簡単なことじゃあないかね。総司を心配する者全員で、池田屋に乗り込めばいいじゃあないか。新選組は、多摩の百姓たちが作ったおんぼろ組織だけれども、誠の武士の集団なのだから。友を見捨てて、なにが武士かね」
その一言を発した者は、ずっと二人の論争を見守っていた井上源三郎だった。
今まで、自分の意見を発したことがない、試衛館最古参の老賢者めいた地味な男が、はじめて己の意見を新選組内で発した。
淡々と。感情を表に出すこともなく。散歩話でも語るかのように、飄々と。
「土方さん。山南さん。永倉さんたちも、お聞きなさい。池田屋に討ち入れば、新選組は長州の仇敵となって破滅する運命? だとしても、己自身には無関係なのにあれほどに新選組のために奔走してくれた年頃の娘さんを、見捨てていいものかね。己の命と、総司の命。どちらが己にとって大切なのか、皆さんがご自分で決めればよろしいことでしょう。そして、これが肝要なことですが、大事は決して一人では成し遂げられない。だからわれわれは、新選組を結成したんじゃあないですか。意見も合わない、性格も合わない、喧嘩も仲違いもする。それでも、仲間とともに戦わなければ、大きな志は遂げられないものですよ。それが人間ってやつですよ」
山南さんも土方さんも、相手の才能を認めているくせにお互いに相手に心を開かないから話がこじれる、意地を張り合っているんですよ。お前さん方はまだまだ若すぎるねと井上は微笑していた。
「私ぁ、たとえ総司の言うことを聞いていれば生き延びられるのだとしても、総司を救いに行きますよ。それで死んでも、なんの悔いもない。しかし、今ここであの娘さんを見捨てれば生涯の心残りだ。自分で自分を許せないでしょう。私は剣の腕はへっぽこですがね、池田屋に行きますよ」
「源さんが単身乗り込んだら返り討ちだぜ! 待て、源さん。俺も行く!」
「いえ。土方くんと近藤さんは、いけません。新選組の局長と副長だけは、なにがあっても動いてはならない時です。私が、源さんを守ります。そして沖田くんを」
「山南さん。もう、土方さんを止めるのは諦めなさい。総司は、総司を名乗っているあの子は、心から新選組とわれらを愛している。だからこそ、土方さんは総司を決して見捨てられないんだ。男の生涯に一度の恋路を邪魔するのは、野暮というものですよ」
山南は、その井上の言葉を聞いて決断した。
新選組は滅びるのかもしれず、歴史は変えられないのかもしれない。未来を知ってこれを変えようとしてきた「沖田総司」による歴史介入を阻止するべく、なんらかの異常事態が池田屋に発生していて、池田屋事件は阻止できず、運命は結局定められたコースに収束するのかもしれない。
それでも――。
「わかりました、源さん。私が野暮だったようです。土方くん、もう私は止めません。ただ、池田屋に討ち入るということは、長州との全面戦争をはじめるということを意味します。たとえどんな結末が訪れても、恨みっこなしですよ。あと、ひとつだけ条件が。私も参加しますよ。こんな重大な時に、留守番役だけは御免です」
「……わかった。できれば後始末をつけるために屯所に残ってほしかったが、山南さんは止められないみてえだな。どうやらあんたはあんたで、総司を深く理解してあいつを思いやっているらしい。ただ、できる限り試衛館のみんなを俺の我が儘に巻き込みたくはないが……」
永倉新八が、「それは聞けんな。拙者も決断した。行こう」と意を決して立ち上がっていた。
「土方さん、あんただけの我が儘ではない。拙者も我が儘を通す。あんたと意見が合うことは珍しいがな。総司は――あの娘は、拙者に絶対に新選組を抜けないでほしい、一時の感情で近藤さんやあんたと喧嘩をして出て行かないでほしいと、拙者に忠告してくれていた。あれは、拙者の未来を知っていたからだったのだな。生涯、拙者は仲間たちと別れてしまったことを悔い続けることになる運命なのだろう。時期は違うが、どうやら今、『その時』が訪れたらしい」
斎藤一も、言葉少なに「自分も行く」と呟いていた。
「……土方さん。俺が加われば、きっと総司は死なない。俺は総司によれば、死なない男なのだそうだ。俺はとっくの昔に己の命など捨ててしまっているのに皮肉なものだが、どうやら生き運のようなものが、俺にはあるのだろう。あんたと総司を生きて再会させるために、この剣を振ろう。総司は……俺にとっても、生きる希望だ。新選組がたとえ歴史の流れの前に敗れ去って滅びようと、遥か未来にまで新選組は人々の心に残り、愛されることを、あいつ自身が身をもって教えてくれたのだから」
娘になった総司と妙に意気投合して一緒に遊んできた原田左之助。娘総司に恋をしてしまった藤堂平助。
言うまでもなく、二人も「おいらも参加するに決まってんだろ!」「わたくしも参ります!」と永倉と斎藤に賛同していた。
「昔から剽軽だったが、女になった総司はまたえらく面白い奴だなーとは思っていたけどよー、そっかー。そういうことだったのかー。それで、結婚するなら家族を守りなさい、っておいらを叱ってたんだなー。かあーっ。おいらってば、娘っ子にお説教喰らってたのかー。ガキだガキだと思ってたけれど、おいらが一番のガキだったんだなー! 待ってろ総司、絶対に助けてやっからよー!」
「……総司はどうやら、土方さんと相思相愛みたいですね。でも、片思いでもいいんです。総司は、わたくしのために泣いてくれましたから。なにが起きるのかは知らされていませんけれど、彼女は、わたくしが悲劇的な死を遂げる未来を知っていたのですね……藤堂家のご落胤として、いえ、新選組の仲間として、彼女を捨ててはおけません。わたくしの命と引き換えにしてでも、池田屋に魁致します! 土方さん。わたくしが道を開きますから、総司のもとへ駆けてください!」
お前ら、止めても無駄みてえだな、試衛館古参組はこれで壊滅かもな、と土方は頭をかきながら苦笑していた。総司め、あいつは天然のタラしだ、とも愚痴りたくなった。
そして。
部屋の奥にじっと座って目を閉じていた局長近藤勇が、「かっ」と目を見開いていた。
「話は終わったか? さあ、もう議論はいいだろう。結論はひとつしかないんだよ歳。沖田総司を見捨てる新選組なんて、そんなものはどこの世界にもあるものか。あいつがほんものの総司だろうが未来から来た娘だろうが、総司は総司さ。会津藩公を守るために逃げずに戦った、誠の武士だぜ。新選組がここで保身を選んであいつを見捨てたりすれば、俺たちはもう武士ではなくなる。芹沢さんに冥府で合わせる顔がねえよ」
かっちゃんは面倒臭がって話をほとんど聞き流していやがったな、と土方は舌打ちしたくなった。しかし、議論百出させておいて、意見がひとつにまとまった機会を捉えて有無を言わせず結論を出すあたり、やっぱり新選組の大将はこの人しかいねえ、とも思わされる。
これで存外、いちど落ち込んだら際限がないという欠点もあるが、近藤勇には底知れない器の大きさがある。そしてこの男だけが、「池田屋で負ける」とはかけらも考えていない。銃弾が飛び交う戦場ならいざ知らず、剣で戦えば必ず新選組が勝つ、そう信じている。
たとえ沖田総司の志を阻もうと暗躍しているもう一人の未来人が介在しているのだとしても、天然理心流の剣が必ずその者の野望を断つ、と。
「女一人が紛れることで野郎だけの組織が壊れるという話はよく聞くが、その点うちの総司は実にいい子だな。江戸の頃から喧嘩ばかりしていた試衛館組の心を、ひとつに纏めやがった。行くぞ歳、総司を連れ戻す! なに。後のことは後で考えりゃあいい。局長の俺が切腹すりゃあ済む話さ、わっはっは!」
たとえ、別人であろうとも。
「あの」沖田総司もまた、新選組のかけがえのない仲間であり。
そして、青春をともにした試衛館組の一員である。
誰も、この世界の外側で「侍死」をプレイしていた時期の彼女を知る者はいない。
だが、もう百周以上も、人生を、青春を「あの」沖田総司とともに生きてきたような、そんな気がしてならないのだ。
「お待ちください、討ち入りには軍師が不可欠というもの! この武田観柳斎も当然、池田屋に討ち入りますぞ! 沖田くんへの愛が真実であることを証明してご覧に入れましょう。こんどこそ、沖田くんの心をわしづかみにしてみせますぞ。人は愛のために生き、そして愛のために死ぬのです! ふははははは!」
「馬越三郎率いる衆道被害者組も、沖田さんを救うために命を捨てて戦います!」
「みんな、あれから沖田さんに猛稽古をつけてもらって、腕をあげました!」
「こんどは僕たちが沖田さんを救う時だー!」
武田、お前も参戦するのかよ。まだ総司を諦めてねえのかよ……とため息をつきながら、「一応古高俊太郎を連れていけ、総司が殺すな虐めるなとうるせえから、死なない程度の拷問に留めてある」と土方は武田観柳斎に告げていた。
「委細承知! 古高俊太郎は人質交換の切り札に使えますな、ふはははははは!」
「へっ。そこまで話が通じる相手じゃねえよ。どうやら、だんだん話の裏が見えてきた。おおかた俺を執拗に付け狙うあの黒頭巾野郎が、池田屋に潜り込んで介入しやがったんだろうよ。だとすりゃあ、桂小五郎にも池田屋の志士連中は制御できねえ。こいつは間違いなく斬り合いになるぜ――!」
「構わんさ歳。俺たちは泣く子も黙る新選組だ。花の一番組隊長を、剣で取り戻す。それでこそ俺たちらしいじゃあないか。わっはっは!」
「確かにあんたらしいがなあ。多摩のヤクザの抗争じゃねえんだぞ、かっちゃん」
「なぁに、似たようなものだ!」
新選組、出動。
目指すは――長州志士たちが沖田総司を捉えながら籠もる、池田屋。
屯所をほとんど空っぽにして、一騎当千の主力剣士全員が戦支度を調えて一心不乱に池田屋に直行するという、恐るべき行軍が開始されたのだった。
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