ホワイト校則
サクライアキラ
本編
登校してきた教室は、既に騒がしかった。
私立の女子中学たるもの本来はこのように活気があって当たり前だけど、私からすると、もううるさい。そして、友達はまだ誰も来てない。友達と言っても、クラスの中だけの友達って感じ。夏休みの間は1回花火に行った程度で、それ以外では会ってもない。普段は放課後それぞれ別の部活とかに入っているので、帰りが同じになることもない。けど、ことこの教室の中だけは、仲良しグループ。もうかれこれ2年半にもなる。私たちの学校はクラス替えがない。だから、中学3年間一緒のクラスになる。ちなみに、中高一貫といえども、高校からは私たちよりはるかに頭の良い外部生が入学してくることもあって、さすがにクラスがバラバラになるらしい。少し寂しいなとも思う。周りを見ると、みんなスマホをしているので、とりあえず私もスマホを取り出し、Twitterでも見る。
そんな私に誰かが近づく気配がする。
「あかり、おはよう」
そう声を掛けてきたのは、近藤加奈だ。
「おはよう」
とりあえず、こう返しておけば問題ないと思う。加奈は昔からずっと制服のスカートの丈が異様に長い。全盛期のスケバンかと思うくらいに長い。と言っても、私はそもそもスケバンが何か知らないけども、私の家にみんなで来た時に、お母さんがボソッと「スケバン」と声に出したのを聞いて、検索すると、確かにスケバンだった。それ以来、ああいう制服でスカートの長い人はスケバンって言うんだと学んだ。加奈はスケバンを思わせる、むしろ長すぎて地面に着くんじゃないかというくらい長い。そんな加奈だが、中身はヤンキーとかではなく、むしろメガネもかけているような地味な子だから、私とも気が合う。とりあえず、加奈がスマホを出して話すのが嫌いだと困るので、念のためにスマホをカバンにこっそりひっこめる。
「もうさ、すごい久々だよね」
「すごい久々」
久々なのは当たり前だ。他のメンバーはたまに部活があったりして、学校ですれ違うこともあるけど、加奈は帰宅部だ。
「加奈が夏休み学校来てないからさ」
「まあ私帰宅部だからね、そら会わないよ。まず休みなのになんで学校行かなきゃいけないのって感じだから」
「わかる~」
正直、わからない。家にいて楽しいことなんてあるのだろうか。こういうところは正直一ミリも分かり合えないけども、それでも大事な友達だと私は思ってる。
「あかりは学校来てたんでしょ」
「まあ部活あるからね」
「いや~、すごいや」
「まあ家いても何もしないから」
「夏休みの部活、青春って感じするけどね」
私からしたら、家で何かすることがある加奈の方がよっぽど青春って感じするけどねと思ったけども、嫌味に聞こえるかもと思って、さすがに心に秘めておいた。
「でも、正直ちょっと安心した」
「何が?」
「加奈がいつも通りで」
「あっ、ごめんごめん。おめでとう!」
私、祝われることあったっけと思ったけど、よく考えると今日は私の誕生日だった。いつも2学期の始業式の日か、その前になるせいで、基本的に祝われることがない。それが悔しかったから、去年の誕生日から先、ひたすら私も誕生日のアピールずっとしてたんだった。覚えてくれてる加奈はやっぱり唯一無二の友達だ。
「誕生日でしょ、おめでとう、祝い忘れてたよね。ちゃんと覚えてるよ」
「あっ、ありがとう!そうなんだけど、違って…」
正直、アピールもしてたくらいだし、誕生日も結構大きいことだと思ってたけど、それ以上に私の中で気になっていることがあった。
「おはよう」
そんな中、やってきたのは、那須野華。服装を見てとりあえず驚く。華はいわゆるモデルのような格好だった。ハットをかぶって、上は黒のシャツで、上着をしっかり着ないで、両手首に巻き付けている。そして、スカートは黒で膝上くらいの丈の長さで、ベルトの真ん中のところにはハートがあしらわれている。思わず、加奈の方を見ながら、
「ね、こういうこと」
「そうだった」
「なんのこと?」
華がとぼけるので、さすがに少し笑ってしまった。
「いやいや、その恰好でそれはないよ」
「ああ、これ?」
「それ以外にないでしょ」
「いいでしょ~」
華は、自身のコーデを見せびらかすかのように、手をひらひらとさせながら、一周回る。
さすがに引いたし、それも伝わってしまったと思う。「…そうだね」と答えるしかなかった。
「こんな帽子かぶってる人、現実に存在するんだ」
ちょっと加奈、やめなよと思ったけど、私も同じ感想だった。ファッションで帽子をかぶるという概念がまず存在しない。そういうところが私がおしゃれじゃないと言われるゆえんなのだろうとも思った。
「普通にいるでしょ、渋谷とかにもよくいるよ」
「いや、ここ渋谷じゃないし」
「一緒でしょ、渋谷にいる人も、全員が全員渋谷に住んでるわけじゃなくて、どこかから集まってるだけなんだから」
確かに正しいんだけど、なぜ学校で渋谷向きの格好をするのか、よくわからなかった。ここごりごりの田舎だよ。田舎というとあれか、まあ東京都だし。でも、学校の目の前、森みたいに木しか生えてないよ。その恰好は完全に浮いてるよ…。
そんなことを思ってると、また声がする。
「おはよう」
永田祥子だ。制服できっちりしている。とはいえ、気持ちスカートの丈が短い気がする。祥子はかるた部の部長をしていて、真面目だ。普段の授業態度も抜群に良いし、頭も良い。かるた部の部長なんて結構地味目なイメージがあるけど、少し前に映画も流行ったし、元々容姿端麗な見た目を地で行く祥子は、華と並んで男子から絶大な人気を誇っていた。男子人気って言っても、女子中学に男子なんているはずもなく、結局は男の先生がどんな目で見ているかで判断してる。その判断基準の中では、華と祥子はどの男の先生もなびいてる、厳密にはなびいてる気がするから、絶大な人気を誇ってると思う。実際かわいいと私も思うから、間違いないと思う。
「華、その恰好なんなの?」
祥子は開口一番、まずは聞く。そらそうだよね。
「何って、かわいくない?」
「ここ学校だよ、普通におかしいでしょ」
「いや、かわいいが正義だよ」
すごい、それ本当に言うんだね。かわいい人たちなら全て許されるって感じがして、私はあんまり好きじゃないな。
「読モの撮影でもあるの?」
「今日はないよ」
実は、華は読者モデルをやっている。読者モデルと言っても、結構な頻度で私がよく見る雑誌に載っていて、もうモデルと言ってもいいはずなのになぜか未だ読者モデルという扱いで、なんとなくかわいそうだなって思う。でも、今日撮影じゃないんだ。それなら普通の私服これなのかと思っちゃう。
「ていうか、3人ともなんで制服?」
鋭い。
「学校だから当たり前でしょ」
祥子はこう返す。
「まあ制服が楽だよね」
私はこう言ったけど、加奈は微妙な頷きしかしなかった。
華は何か言いかけようとするが、後ろから「ごきげんよう」という声がする。声からして、メルちゃんだ。このタイミングでごきげんようって、と思いながら、
「その挨拶」
「あ、そっか、ごめんごめん。おはよう」
「てか、どんな格好なの?それ」
祥子はやっぱり服装に突っ込む。いかにも社会の教科書でしか見ないような90年代のギャルのような恰好、肩出しの白いニットに、膝上が何センチ何だろうって思うほどスカートが短い。もはや私のとこだと見えてたりする…。それに金髪になっているけど、どう見ても髪の質感からしてウィッグだろうなとわかる。ドンキで買ったのかなていうほど安っぽくて笑っちゃう。
「いいっしょ~」
そう言いながら、メルちゃんは祥子の机に腰掛ける。腰掛けると、スカートの中がもうほぼ見えてしまうけど、よく考えたら女子中だし関係ない…か?
「髪の毛もどうしたの?」
「つーか、ノリっしょ」
「しゃべり方やばくない?」
「つーか、ノリっしょ」
「バリエーションなさすぎでしょ」
さすがの華も、しゃべり方にはツッコまずにいられなかったらしい。突然ギャル化してきたメルちゃんの姿に私たちは驚くばかりだった。
「いや、せっかくだからこういうのも良いかなと思って」
「普通に古い的な…?」
祥子の言葉に賛同しかできない。多分メルちゃんは歴史のところらへん確か詳しかったし、多分教科書とか見て、ギャルの姿勉強したんだろうな~と思う。確かに努力すごいと思うけど、どう考えてもいらない努力だよね。
「…、ダメか~」
「とりあえず、そのウィッグ外して自分の席に座ろうね」
「ウィッグ気づいてた?」
「さすがにわかるよ、普通に黒髪の方が可愛いと思った」
祥子優しいね。私だとドンキで買ったのって聞いちゃうところだった。
メルちゃんはウィッグを外して、自分の席につく。
「まさかでも制服で来る人いると思わなかった、さすがに驚いたというか…」
メルの話をさえぎるかのように、「おはよう」という声がする。私たちの仲良しグループは6人だ。ということで、こうなると、最後は愛こと岩滝愛しかいない。
「なるほど、そういうのもあるか~」
ここまで散々服装にツッコんできた祥子も、制服でなかった愛を見ても、納得したようだった。というのも、愛は、体操服のまま着たのだった。
「朝練の後着替えなくていいって最高だね」
「あのさ…、普通に不衛生じゃない?」
今度は華が気になったらしい。不衛生ってなんだろう、私は少し気になって、
「不衛生って?」
と聞いてみた。
「ちゃんとシーブリーズしたよ」
「そうなんだろうけど、そうじゃないというか」
ああ、そっか。汚いってことか。確かに汗かいてそうだしね。確かに昔小学校くらいのときに、体操服から制服に着替えなきゃいけないこと聞いたら、不衛生だからって言われた気もする。
「まあいいんじゃない」
メルはそう言いながら、愛の近くに行き、においをかぎに行く。
「うん、大丈夫大丈夫。全然くさくない」
「まあ良いのかな…、何でもいっか」
そこは引き下がるんだ。結局見た目やにおいとかなければほぼほぼ影響ないし、どうでも良いよね。やっぱり不衛生ってなんなんだろうって思っちゃうな。
「いや、むしろその華とメルの格好にびっくりしてるんだけど…」
愛、もうかれこれ3回目なの、そのツッコミ。
「いいでしょ~」
いいでしょ~のくだりも3回目、もういいよ。
「華に至っては、読モの主張激しすぎでしょ」
半分ディスってるよね、これ。読モアピールうざってもうほぼほぼ言っちゃってるよね。
「そんなつもりはないけど」
ほら、若干華キレてるじゃん。
「でも制服着てるのが一番意味不明」
その火花こっち来るんだ。
「本当そうだよね~、言ってやってよ」
メルちゃんまで加勢してくる。
「学校だよ、制服でしょ」
祥子がそう返すと、メルちゃんがこう言った。
「なら言うけど、知らない?今日からブラック校則廃止だよ。もう何着てきても良いんだよ」
突然クラスが一気に静まり返った気がした。少なくとも、私たちの間には沈黙が流れた。
今日は、私たち中学3年の2学期が始まる始業式の日。それだけじゃない。今日は、私たちが散々苦しめられてきた「ブラック校則」から解放された日でもある。ブラック校則なんていうのは流行って久しいが、私たちの学校も長らくその校則が受け継がれていた。それが今年の夏生徒総会にて廃止された。そして、校則がホワイトになった初日が今日だった。
「限度があるでしょ、まずメルあんたのそれはスカート短すぎてほぼ見えてる」
沈黙を破ったのは祥子だった。先服装ツッコむか…。一番の変化そこじゃないでしょ。
「だから自由なんだって。それにそもそも見せパンだし」
「それはそうだろうけど、なんというか、はしたない…」
祥子ってば、先生みたいなこと言うなぁと思った。私はいつも先生の言うことなんてほぼほぼ信じてはいないけども、こうして祥子が言うことを聞いている分には実は先生って正しいこと言ってるんじゃないかと思えてくる。
「でもかわいいが大事でしょ、メルたちはせっかく女の子なんだからかわいくしなきゃ、ねえ華?」
「今どき、ファッションって教養だと思う。もう中学生なんだし、服を選ぶっていうのも教育の一つになるべきなんだと思うよ。普通にモデルやってる私はそんな制服みたいな逃げの姿勢じゃダメかなって」
華の言うことにも一理あるなって思った。ずっと女子しかいない学校に通って、お嬢様、でもないんだろうけど、ずっと制服で男子にも縁なく普通に過ごしてきたお母さんの服はダサい私から見ても、超ダサい。なんていうか、華の言葉を借りるならファッションの教養がない。そんなお母さんに育てられた私も当然のようにダサい。どうしてかなと思ったけど、そっか制服が悪いんだ。今わかった気がする。
「制服のどこが逃げよ」
そういう祥子は普段の服はちゃんとしているから、逃げではないんだろうな。
「どうせ服選ばなくて良いっていう理由で着てきてるんでしょ。みんなからダサいって言われるくらいなら制服にしといたほうが無難みたいな。逃げでしかないでしょ」
「いや、私学校は普通に制服で来るもんだと思ってるし。ねえ、あかり」
祥子、私に振らないで。ほら、あまりに図星過ぎて目そらしちゃったじゃん。
「あかり?」
「ごめん、あかり。まさかあかりがそんな安易な考えとは思わなかった…」
安易って言われるとさすがに悲しい。でも確かに、今日外出るとき、私服着ていくかめちゃくちゃ悩んで、ダサいって言われるの嫌だなって思って制服にしたんだよね。まさか制服にした結果、安易って言われるなんて思ってもなかったし。
「華、さすがにひどいよ、私もそんなつもりで校則ホワイトにしたわけじゃないから」
「メルはでも、自分が生徒会長っていう自覚いると思う。本当にさっきから言ってるけど、何の格好なの、それ」
そう、実はメルちゃんがこの学校の生徒会長。今は一昔前のギャルになってるし、名前は如月メル、どう考えても本人には言えないけどキラキラしてる名前だし、どう考えても生徒会長という響きにあってないなと思う。でも、そんなメルちゃんは実は成績が一番良いし、普段はきちっとした制服を着ていた。だからこそ、今日の変化にはみんな驚いた。
「ぶっちゃけ言っていい?ダサい」
とうとう華はメルちゃんに会心の一撃を加えてしまった。男の子の世界はあんまり知らないけど、女子の世界でダサいって言われるのは正直きつい。まあダサいって言葉がつい出ちゃうほどには、メルちゃんの格好はおかしいけど。
「みんなひどい…。メルだって、正直制服にしようとも思ったよ。でも、メルからブラックな校則変えようとか言って、せっかく服装も自由になったのに、私服じゃないっておかしいなって、悩んだらこんなことに…」
なんかかわいそうに思えてきた。
「プレッシャーに押しつぶされたんだ」
加奈もズバッと言うよね。
「かわいそうな会長よしよししてあげる」
愛はそう言って、メルのところに行って、頭をなでてあげている。愛ってやっぱ優しいな。
「愛、ごめん、やっぱりくさいかも」
さすがに笑っちゃうよね、これは。
「もう撫でてあげない」
愛はメルの髪をちょっとくしゃくしゃにして、自分の席に戻っていった。
「祥子は散々人のこと言うけど、愛のことは言わないよね」
華は言った。
「それは、普通に実用的だなって思ったし」
実用的ならいいよねと言う意味では私も同じだけど、それでいいのかなって思う気もする。
「いいでしょ~」
「いや、どうなの?運動したら着替えなよって普通に思うんだけど…」
華の言うことはわかるんだけど、いまいちなんかピンとこない。なんかこれこそブラック校則に書いてあることって気がする。なんとなく言いたいことはわかる気がするけど、よく考えたらなんでってやつ。でもおかしいけど、おかしいと言ってそれをなくして大丈夫なのかなっていうやつ。私、結構ブラック校則について今更わかってきた気がする。もうなくなったけど。
「いや、どうせ始業式終わったら部活だよ、着替える意味ないでしょ」
「それでも私はやっぱりみんなファッション楽しむべきだと思うんだけど」
正直華の言うことは、おしゃれ上級者にしかわからないと思う。私のような人にとって、私服を選ぶことがどれだけ苦痛かわかるのかな。もうこの際、全員統一された服か、なんなら裸で外出れるようにならないかなって思うくらいには、苦痛だよ。ファッションを楽しむべきってちょっと…。
「そういう華はさ、このコーデどんだけ金かかってるの?」
愛、そこ気になるの?
華「やっぱり気になる?実はさ、3万…」
それは無理。3万ってどういうこと。下手したら、私の服1週間分足しても達しないよ。さすがに、華以外全員驚き隠せないよね。
「中学生の着れる服じゃないでしょ」
愛、良いこと言うね。中学生が着て良い服じゃないのよ、もはや。着て良いとかもうなくなったけど。
「おしゃれにお金かけるって普通じゃん」
そうかもしれないけど、限度ってあるよね。まあ別にそんなルールないんだけど。
「でも、明日はまた別の服でしょ?」
思わず聞いちゃった。
「もちろん、同じ服着れないでしょ」
制服のときは、毎日同じ服着てたじゃん。同じ服着れるよ、ねぇ。
「金使いすぎ、なんか金持ち良いな~ってなっちゃうな」
愛、暗に華のこと、お金持ちうざいみたいなこと言ってるよね。でも、確かにこれお金持ちの家しかできないよね。私の家、お小遣い月に1万。お母さんもパートで、お父さんも休みの日にひたすらゲームしてるだけだし、給料聞いたことないけど、多分めっちゃ少ない。華の家は、お父さんが海外出張してるって言ってたし、お母さんも専業主婦で色々お菓子焼いてくれるって言ってた。全然違うよね。同じ学校にいても。
「でも安くてもできるコーデもあるし」
華、そう言うなら教えて。華の出てる雑誌の服全部高いよ。
「でも、読モ先生は着ないんでしょ」
読モ先生って、愛、もうそれは明らかにディスってるね。
「着るよ、たまに…。てか、読モはやめて。モデルでいいじゃん」
たまにしか着ないじゃん、結局。でもモデルでいいじゃんはわかる。読モって言い方やっぱりひどいよね。
「いい加減、そのモデルじゃないのにモデルって言うのやめた方が良いよ」
祥子、それはひどいよ。もう雑誌出たらモデルで良いよ、私はそう思う。
「そんな言い方ないでしょ」
さすがの華も泣きそうになってるじゃん。かわいそう。
「ごめん…。でもさ、散々色々言ったけど、一番謎なのは加奈だよ」
ここで、まさかの攻撃対象チェンジ。加奈悪いところあるっけ?
「何が?」
「いつまでその長いスカートしてるの?かわいくないでしょ」
長いスカートのことだよね、確かに謎。
「今の流行りというか、もう長らく短い方が人気あるよ」
華も攻撃対象から抜けたと思って、加勢するじゃん。
「私の趣味って知ってる?」
突然どうしたの?加奈はたまに脈絡もないこと言い出す。
「パソコンとか?」
祥子さ、もう加奈のことオタクとかだと思ってるよね。でも、実際加奈はオタクだけどさ、そういうことじゃなくて、なんとなく見下してる意味でのオタクだと思ってる感じがしてちょっと嫌だな。
「まあパソコン趣味なんだけど」
「正解じゃん」
「そうなんだけどさ、実はルールをなんでも破るのが好きなの」
は?全く意味わかんない。どういう趣味なの?それ趣味の欄に書けるやつなの?よっぽどパソコン趣味の方が良いよ。
「初耳!」
「校則って読んだことある?」
また、脈絡ないこと言うじゃん。
「そら、あるにはあるけど」
「そこにはさ、スカートの長さは長くすることを禁止されてるだけなんだよ。どれだけ短くしても別に校則には反してないの」
へぇ~、短くてもいいんだ。やっぱりそれあれなのかな。先生たちがスカートの中見たいからってことなのかな…。でも、そんなことないか。短くて怒られることあったしな~。先生たちのこと一瞬でも変態みたいに扱ってごめんなさい。じゃあ、まず短くて怒られることが校則に書いてなかったってこと?なんか校則ってテキトーだね。
「まさかそれが理由で?」
「それ知ってからひたすらスカート長くしようって。しかも長くしても誰からも怒られない。これってすごいバグじゃないっていう」
確かに、スカート長くても加奈は怒られてなかったね。なるほど、確かにそれすごい発見だわ。そっか、昔のスケバンが流行ったときとかに校則できてるから、長いスカートがダメとしか決まってないんだ。なんかそう考えると、あの校則って古いね。それに先生たちも全然読んでないんだってわかるね。
「そんな理由だったんだ」
「言っていい…?」
華さ、何言うの?
「しょうもな」
「しょうもないね」
愛も一緒に言うんだ。でも、わかる。めちゃくちゃしょうもない。そんなことで長いスカートって、さすがにかわいいを犠牲にしすぎでしょ。ここにきて、かわいいってなんだかんだ私も大事にしてるんだって気づかされる。華、散々文句言って、まあ言ってはないけど、心の中でディスってごめんね。
「もうそんな校則もなくなったから明日からは普通にしよ」
これはメルちゃんの功績でかい。加奈が明日からスカート短くできるんだもん。
「もう長くする癖ついちゃって直せなかった。それに短くするとなんか恥ずかしい」
加奈の恥じらいって、もうみんなずいぶん前に乗り越えたやつだよ。加奈は本当に女子やってた?最近まで男の子だったんじゃないの?
「それ直した方が良いし、なんなら私服あげるよ」
えっ、華の私服もらえるの?
「そうなの?やった~」
それちょっとうらやましい、というか普通にスカート長くすると華の私服もらえるイベント発生するの?それなら私もスカート全然長くしたんだけど。ちょっと悔しいな。
「でもさ、正直服よりもあの校則がなくなったのが一番良かったよね」
祥子、とうとう言っちゃうのか。一番気になってた。
「わかる、下着の色でしょ」
そんなのもあったね。いくら女の先生だからって、毎朝スカートたくし上げないといけなかったの、すごい嫌だった。そもそも白って嫌なんだけど。女性らしく白を身に着けるという意味だけは一生わかんないわ。わかる人いたら、ノーベル賞あげていいよ。
「私今日白だわ」
メルちゃんの下着が白っていう告白は流された。そもそもここまでの間に何回も見えてるから全員わかってる。それに全員、意外にメルちゃんってルールちゃんと守ろうとする人なんだって、パンツの色で気づいてる。
「今結構奇跡だなって思ってる」
奇跡とまで言うほどのことでもないと私は思うけど、祥子がそう言いたくなるのもわかる。私たちはこれまで校則で何よりも苦しかったのはこれで、今この時点で全員がちゃんと破ってる。
「わかった!」
愛はわかったらしい。でも、華も加奈もメルちゃんもピンと来てないらしい。
「あのさ、普通に話せてるのすごくない?」
一瞬、静まり返る。
「そうだよね、いやそうですわね、祥子さん」
私が口火を切る。
そう、この学校の校則の一番のブラックな部分は第8条にあった。「本学の生徒は、女性らしく慎ましい言動、行動を心がけること」。これだけ読めば、よくありそうな校則だなと思うけど、この校則を厳しく取り締まっていたのがこの学校。取り締まりが強いせいで、学校の中では、あいさつは必ずごきげんよう、そして普段もなるべく小声でしか話せない。話すとしても、言葉遣いも気を付ける。トイレはもちろん、お手洗いという言い方も許されない。お花を摘みにいかないといけない。この言葉遣いの厳しさが去年世間で取り上げられ、一通り炎上し、今年は定員割れ、学校の存続が危うくなった。そこで、メルちゃんが満を持して、ホワイト校則に変えるために動き出してくれた。
「ごきげんよ~」
メルちゃんは言葉こそちゃんとしているけど、明らかにふざけてる。
「この言葉遣いしなくて良くなっただけで、もうストレスがない」
意外だな。祥子は全然ストレスなんてなかったのかなと思ってたけど。
「愛とか、無口だと思ってた」
加奈の気持ちもわかる。ただ、逆に普通の話し方になってから、あんまり加奈話してなくない?
「私あの話し方無理ですわよ」
愛の変な話し方にみんなで笑う。校則通りにしようとしても、本当にできないのが愛で、いつも少し変なんだよね。まあ私だって愛の次には下手な自信があるんだけど。
「本当女子中だからって、そんな話し方に縛りがあるっておかしいよね」
私は思ったことを言った。ここらで話しとかないと、話さない人みたいになっちゃうし。
「この2年半よくあんな話し方で過ごせてたよね」
メルちゃんさ、そう言うけど、メルちゃんがまるで先導してるのかってくらいのレベルであの話し方で話してたけどね。
「もうメルの功績すごいよ~」
愛から褒められて、ちょっとメルちゃんはうれしそうにしてる。
「まあブラック校則ってくそだよね」
とうとう「くそ」って言葉まで使い出してる。それは生徒会長としてどうなの?女子としてそれでいいの?
「メルさん、くそっていうお言葉遣い失礼ですわよ」
すかさず、私がツッコむ。
「もう、あかり~、そんな時代終わったよ」
愛、絡んでくる。
「今日私の誕生日ですわよ」
せっかくだから、この流れでアピールしといた。
「それ普通に言い方変えても、主張激しい人に変わらないから」
流れで行っただけなのに、祥子にそう言われると傷つく。
「みんな覚えてるよ!」
メルちゃん、ありがとう。
「誕生日おめでとう」
華、ありがとう。加奈が突然かばんをごそごそしだす。もしかしてプレゼント的な。うれしいな~。加奈は最初から覚えてくれてるって言ってたしな~。ドキドキしていると、突然何かかけられた。「今日の主役」と書かれたたすきだった。
「何これ?」
「今日はこれで一日過ごそう」
えっ、嘘でしょ。これは何?誕生日をずっとアピールしてた罰ってこと?嫌なんだけど。
「恥ずかし、これ校則違反でしょ。生徒会長没収してよ」
「もうそんな校則ないよ」
メルちゃんはさらっと言う。
「校則ないって迷惑だね…」
「全然似合ってるから大丈夫、誕生日おめでとう」
全員笑う。周りを見渡すと、私たちだけじゃなく、クラスのみんなが私の方を見て、笑いながら、おめでとうと言ってくる。何これ。めちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃん。
そうしているうちに、先生が入ってきた。
「皆さん、校則が変わったからって少しおかしいんじゃありませんか。特に末永あかりさん、あなた今日の主役って何の真似かしら?誕生日だからってそれはいけないわ。廊下に立ってなさい」
さすがに校則が変わってもこれはダメらしい。みんなから笑われながら、今日の主役を外し、廊下に行くことにした。
ホワイト校則 サクライアキラ @Sakurai_Akira
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