第46話 偽りの関係に終止符を
直樹は全てを告白した。
姫麗が処女である事。
ビッチの振りをしていた理由。
直樹が振られた経緯。
姫麗との出会いと恋人の振りをするに至ったわけ。
もちろん本当はヤリチンでない事もだ。
その間、三人はずっとバカみたいに大口を開けて聞き入っていた。
「……それじゃあ、なにもかも全部嘘って事じゃねぇか!?」
「ごめんみんな!? 本当にごめん!」
リンダの言葉に、姫麗はソファーの上で華麗なジャンピング土下座を決めた。
「みんなと出会った頃にはもうあ~しビッチって事にされてて! みんなの前で散々格好つけてるのに、嫌がらせされてるなんて恥ずかしくって言えなかったの……。本当にごめんなさい!」
「や、やめろよ花ちゃん!? オレ達そんなつもりじゃ――どわぁっ!?」
「よがっだああああああああ!?」
「うわあああああああああああん!」
困惑するリンダをはね飛ばして、美兎と小南が姫麗に抱きついた。
「やっぱり姫麗ちゃんはビッチじゃなかった! そうじゃないかと思ってたんだぁ!」
「よくわかんないけど姫麗は悪くないわよ! だから土下座なんかしちゃ駄目なんだから!」
「二人とも怒んないの? あ~し、みんなにずっと嘘ついてたんだよ!?」
「嘘ぐらい誰でもつくよっ! わたしだって90キロって言ってたけど本当は100キロ超えてるもんっ!」
「あたしも140センチあるって嘘ついてたわ!」
「じゃ、じゃあオレは今でもたまにおねしょするし!」
「「「「え」」」」
マジで? という四人の視線にリンダが真っ赤になる。
「だ、だって!? そういう流れだっただろ!? オバケが怖くて夜トイレに行けない事があるだけだし! いつもしてるわけじゃねぇし!?」
「ぁ、うん」
「あ、あるよねっ。そういう事」
「そ、そうだよな! 俺もたまにする事あるわ! 月一くらいで!」
「そうなの? みんな案外お子様ね! あたしはおねしょなんか小学校で卒業したわ――もがっ!?」
「小南ちゃん! 余計な事言わないの!」
「そーだし! 折角アッシーがフォローしてくれたのに台無しじゃん!」
「……いや、俺のせいでなんかすまん……」
「忘れろ!? てかお願いだから忘れて!? こんなんバレたら恥ずかしくって学校行けなくなっちまうよ!?」
「忘れるのは無理だけど、誰にも言ったりしないって! でしょ? みんな!」
「そうだよっ。わたし達親友でしょ?」
「おねしょの事はびっくりしたけど、リンダには良い所沢山あるんだから! そんな事全然気にする必要ないわよ! そんな奴がいたら、あたしがやっつけてやるんだから! シュッシュッシュ!」
口で言いながら小南が下手くそなシャドーを決める。
「みんなぁ……ぐすん」
美しい友情にリンダが涙ぐむ。
なんだか予想外の流れになってしまったが、これはこれで好都合だ。
「姫麗が処女だって話もその程度のもんだろ。なぁ、お前ら」
「おう! オレも処女だし!」
「わたしも処女だよっ!」
「え~!? じゃあ、経験あるのってあたしだけ!?」
「「「「はぁあああああ!?」」」」
仰天する四人に小南がペロッと舌を出す。
「な~んちゃって。もちろんあたしも処女よ! 男子とか全然好きじゃないし。当然でしょ? あ、でもヤリ村は優しいから好きよ! あと緑の妖精さんも!」
「マ~ジびっくりしたぁ……」
「危うくちょっとチビったぜ……」
「わたしもショックでちょっと痩せちゃった……」
「ツッコミが追いつかねぇよ……」
流石ギャル軍団、恐るべしである。
「ともあれ、姫麗の誤解も解けたし、俺も姫麗と別れるんだ。これで全部解決だろ?」
「「「「ぁ」」」」
思い出したように四人が呟く。
「やだよアッシー!? あ~しは別れたくないし!?」
「そ、そうだよ芦村! そういう事情ならオレ達も文句は言わねぇし!? だよな!?」
「ぅ、ぅん! むしろ芦村君みたいにちゃんとした人が恋人のふりしれくれてた方がわたし達としても安心できるもん!」
「芦村、やっぱり姫麗の事嫌いになっちゃったの? それってあたし達が意地悪したせい? だったら謝るから……そんな事言っちゃやだああああああ!?」
小南が泣き出す。
つられて姫麗も泣きそうだ。
「そう言われてもな。約束したからにはちゃんと守らないとだろ。それにだ姫麗。やっぱ恋人の振りってのは良くないぜ。この通り、周りも心配させちまったし。俺としてもいつまでも曖昧な関係を続けるのは不誠実だと思う。だからさ、この辺で潮時にしようや」
「……なんで、なんでそんな事言うの? あ~しら上手くやってたじゃん!? あ~し、なんかアッシーの気に触ることした? ダメな所あったら直すから!? お願いだから、そんな事言わないでよ……」
号泣の姫麗が直樹に縋りつく。
「ごめん芦村!? いや、芦村様!? 今回の件は全部オレが悪くて勝手にやった事なんだ!? 姫麗はこれっぽっちも関係ねぇ! もうお前には近づかないし姫麗の友達もやめるから姫麗の事振らないでやってくれ!?」
リンダがべたついたカラオケのルームの床に土下座した。
「リンダ!? やめなよ!? そんな事!?」
「ごめん花ちゃん! そんな事情だなんて知らなくて勝手な事して、彼氏さん怒らせちまった! オレのせいで花ちゃんが不幸になるなんて絶対ヤダ! だから芦村様、この通りだ!」
「わたしからもお願いします! もう二人には金輪際近づきません! 気分を害したなら慰謝料だって払いますっ! だからお願い……考え直して……」
「芦村……嘘だよね? 姫麗を捨てたりなんかしないわよね?」
リンダの隣で美兎も土下座し、小南が泣きそうな顔で直樹の足に縋りつく。
「待て待て待て!? 頼むからみんな一旦落ち着いてくれ! どう考えてもそんな流れじゃなかっただろ!?」
直樹は必死に説明するが。
「だってアッシーが別れようって言うから!」
「なんなんだよお前!? はっきりしろよ!」
「ふざけてると潰しますよっ!?」
「芦村、はっきりして!」
「わかってるって! だから、つまり、なんだ……。俺にも覚悟する時間ってのが必要なわけで……。俺達はまだ嘘のカップルなんだ! 一回別れない事にはちゃんと付き合えないだろ!?」
「へ?」
「あぁ?」
「きゃっ!」
「それもそうね!」
ギャルズがそれぞれの反応を見せる。
直樹は気合を入れて姫麗を見つめた。
「花房姫麗さん。俺、本気で君を好きになりました。だから、もう恋人ごっこじゃ嫌なんだ! いまは冴えない俺なんかだけど、いつか必ず君に相応しい立派な男になってみせるから……だから! 嘘でも演技でもなく、ちゃんとした恋人になってくれませんか!」
直樹の差し出した右手を姫麗は地球外の生命体でも見るみたいにポカンと見下ろした。
「……リンダ。あ~しのほっぺ抓ってくんない」
「お、おう」
リンダがギュッと姫麗の頬を抓る。
「……痛くない。やっぱ夢か。だよね。こんな都合の良い話あるわけないし……」
白けた顔で溜息を吐く。
「いや、現実だって! もしもし~! 花ちゃん!?」
「ショックで痛覚が麻痺してるんだよ! もっと思いっきりやらないと!」
「任せて! ええい!」
「ぎゃあああああああ!? なにするし!?」
お尻にカンチョウを喰らい、姫麗は悲鳴を上げて小南の頭をはたいた。
「……え! 夢じゃない!? マ!?」
「そうだって!」
「早く答えてあげないとだよっ!」
「芦村、緊張で死んじゃうわよ!?」
実際直樹は死にかけていた。
答えはYESかNOか。
どっちなのか!
「もちろんYESだよ! 決まってんじゃん! あ~しも好き! 好き好き大好き超愛してる!」
本作史上最高の笑顔を浮かべると、姫麗は直樹の胸に飛び込んだ。
「……嘘だろ。夢でも見てるのか?」
「ええい!」
即座に小南のカンチョウが炸裂するが。
「……痛くない。やっぱ夢か……」
「アッシー!? そのくだりあ~しがもうやったから!?」
「これならどうだ!」
「オゴッ!?」
リンダに玉を蹴り上げられ、直樹はその場に崩れ落ちた。
「アッシー!? ちょっとリンダやり過ぎ!? まだあ~し使ってないんだよ!?」
「ごめん花ちゃん!? 男子にはこれが一番効くと思って……」
「マジで死ぬほど痛ぇ……。はははは、うははは! 夢じゃねぇ! 夢みたいだ! マジで俺、花房さんと付き合えるんだ! ぐぇ!?」
ドシンと美兎に尻で潰され、直樹がエグめの悲鳴を上げる。
「美兎おおおおお!? なにやってんのおおおお!?」
「だ、だってまだ寝ぼけた事言ってるから……」
「夢みたいは流石に比喩だろ!?」
「えぇ!? わたしったらうっかりして! ごめんね芦村君!? しっかりして!?」
「うわあああああん! 美兎が芦村殺したああああああ!」
「なんとか生きてる……。辛うじてな……」
がくがくしながら直樹が起き上がる。
これにて一件落着。
折角なので五人はそのままカラオケを楽しんだ。
「なんだよ! 芦村お前歌うめぇじゃんか!」
「オタクだからな。カラオケは得意なんだ」
「ねぇねぇ姫麗ちゃん。ここだけの話、芦村君とはどこまでいったの?」
「……え、えへへ。じ、実は手繋いじゃった。ギャー! 超恥ずいいいい!?」
「え? 手だけ? あんだけベタベタしててキスもまだ? 嘘でしょっ?」
「だ、だってぇ!? あ~しらそん時はまだ付き合った振りだったし!? 恋人でもない男の子とキスとかしたら変じゃんか!?」
「ビッチじゃないとは思ってたけど、まさかここまでピュアピュアとは……。姫麗ちゃん可愛すぎだよぉっ!」
「芦村~! プリキュア歌って~!」
「お安い御用だ」
「待てよ小南! 次はオレの番だぞ! 仮面ライダー歌って貰うんだ!」
「わかったから喧嘩すんなよ。順番に歌ってやるから」
「わ~い!」
「変身ッ! とぁ! どうだ? 決まってんだろ!」
「ちょっとリンちゃん! 飛び跳ねないで! パンツ見えてるよっ!」
「問題ない。俺は姫麗一筋だ。他の女のパンツなんかミリも興味ない」
「つまり、花ちゃんのパンツには興味あると?」
「当然だろ。俺は男だぞ」
「だってよ、花ちゃん?」
ニヤニヤしながらリンダが姫麗に視線を向ける。
「もう、リンダ! からかうなし!」
赤くなって恥じらうと、姫麗はピラッとスカートの端を捲って見せた。
「ぐふっ」
眩い純白の輝きに目を焼かれ、直樹がその場に崩れ落ちる。
「あ~んもう! あ~しの彼氏可愛すぎぃ!?」
「だめだよ姫麗ちゃん! それじゃあ本物のビッチになっちゃうよ!」
「なに? 芦村パンツが弱点なの? えいえ~い! まいったか~!」
「やめろっての!? 花ちゃんが変な事するから小南が覚えちまっただろ!?」
「小南。頼むから二度としないでくれ。人に見られたら俺が逮捕されかねない」
「え~。どうしようかしら~? プリパラ歌ってくれたら考えてあげてもいいけど?」
「プリキュアでもプリパラでもプリリズでもなんでもこいだ」
†
「……はぁ? なんでノリノリで盛り上がってんのよ!? おかしいでしょ!? 友達の彼氏がヤリチン野郎なのよ!? なんで平気でいられるのよ!? これだから股の緩いギャル共は!?」
隣の部屋では、千春が一人楽しそうな音漏れに歯軋りを奏でていた。
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