第35話 次回、浮気男死す!
「わぁ! なにあの子、すっごく可愛い。本物の御姫様みたい!」
「隣の彼氏さんも爽やかイケメンで勇者の恰好が決まってるね」
「こりゃ優勝はこのカップルで決まりかな」
王都エリアのイベントステージを見上げて観客達が見惚れている。
ステージ上にはファンタジーランドで貸し出している勇者と姫の衣装を纏った隆と千春が爽やかな笑みを浮かべて観客に手を振っていた。
「だってさ、千春ちゃん。君の見立て通りこの格好は観客受けが良いらしい。僕としても高い金を払って一日一組限定の衣装を借りた甲斐があったってものだよ」
小声で囁く隆の声には露骨な下衆っぽさと押しつけがましさが滲んでいた。
千春の本性を知って向こうも素を出して来たのだろう。
以前から人間としての下劣さはチラチラと漏れ出していたのだが、開き直ってからの隆は金にモノを言わせたご主人様気取りの変態クソ野郎以外のなにものでもなかった。
実際、こうしてステージの上に立っている今も千春の腹の中ではL字型をした高級トイズがヴ、ヴ、ヴ、と小刻みにビートを刻んでいる。
高いだけあって直樹の手技と張り合える程度には気持ちがいい。
こんなシチュエーションでなければ千春は喜んで喘ぎ散らかしていただろう。
(……本当に、こんなシチュエーションじゃなけりゃね!)
冷めきった気持ちで吐き捨てる。
千春は隆の事を金と顔と将来性だけが取り柄のおチンポ野郎と見下していた。
むしろこちらがセックスを餌にしてコントロールしているつもりだったのである。
そんな千春にとってこの状況は屈辱以外のなにものでもない。
身体が勝手に快感を感じる度、女の尊厳を弄ばれる悔しさと気持ち悪さで涙が出そうになる。
確かに千春は性欲が強い方だし奔放でもある。
テクニシャンの直樹と付き合い、その間ズコバコヤリまくっていたから、セックス慣れしているのだ。
だがそれはあくまでもノーマルなプレイの範囲であって、こんな変態プレイは望んでいない。
大体これは隆の歪んだ支配欲を満たす為だけの行為で、普段のお粗末オナニーセックスと本質的には何ら変わりがないのである。
隆にとって千春はオナホールの付いたペットみたいなものなのだろう。
(……一番ムカつくのはこんな奴でも今の所は利用しとかないと不味いって事だけど)
幾ら金持ちだってこんな変態野郎はごめんである。
こいつの歪んだ性的趣向に付き合っていたらいつかとんでもない目に会うに決まっている――というか、既に十分とんでもない事になっているわけだが。
とはいえ、今隆と別れるのは得策ではない。
直樹&ビッチに勝つ為には隆という駒は必要不可欠だ。
そうでなくともこれだけの苦痛と屈辱を与えられたのだ。
とりあえず結婚までこぎつけ、その間に集めた変態行為の証拠を武器に離婚裁判を起こして多額の慰謝料をぶんどらなければ腹の虫が治まらない。
(……それまではペットのふりをしといてあげるわよ)
そう思う事で千春は衆人環視の中バイブ攻めにあっている状況に耐えていた。
とにかく今は直樹達に勝たなければ。
「……千春ちゃん。ご主人様が話しかけてあげてるんだよ? 無視はよくないなぁ」
「――おほっ!? か、金城さんっ、それ、やめてってば!」
ムッとした隆がバイブの強さを上げる。
こみ上げるオホ声に千春は慌てて口元を押さえた。
「命令できる立場だっけ?」
「……ごめん、なさい……ぉ、おほ……やめて、下さい……」
「良い子だ」
ニッコリして隆がポケットの中のリモコンアプリを操作する。
(……殺してやる。絶対に! 訴訟起こして財産全部ぶんどって社会的に抹殺してやるんだから!)
「いいねぇその目。ゾクゾクするよ。でもいいのかな? そんな顔してたら元彼君に負けちゃうかもよ?」
「……言われなくても、お、ぉぉ、分かって、ます……」
慌てて千春は作り笑いを浮かべる。
どこで誰が見ているか分からない。
というか、このコンテストは学校中の人間が見ている筈である。
学校掲示板に自演してそういう流れになるように千春が誘導したのだ。
(……直樹はともかく、意外にビッチを擁護する奴が多かったのは計算外だったけど)
多分ビッチの取り巻きが書き込んでいるのだろう。
あるいは、千春がそうしていたように直樹達も自演しているのかもしれない。
この学校掲示板にはIDがないので自演し放題なのだ。
ともかく、千春はこれ以上ズルズルと直樹達と小競り合いを続ける気はなかった。
千春が望むのは上位カーストという絶対的安寧である。
直樹達と争っている限り千春は悪い意味で注目の的となり、掲示板に書き込んでいるようなバカ共にコンテンツとして消費される側に立たされる。
みんな本当の事なんか興味ない。
ただ他人のいざこざに首を突っ込んで騒ぎたいだけなので。
そしてその場のノリで決まった悪者にみんなで石を投げて憂さを晴らしたいだけなのである。
歴史の授業で習った魔女狩りの時代から人間は一ミリも成長していない。
そんなんだから千春は人間が大嫌いなのだ。
もちろん千春も同じ人間だし、自分の中にそういった醜い欲望がある事は否定はしない。
シンプルな話、他人の不幸は美味しいが自分がオカズにされるのは嫌だという事である。
だから千春は決着をつける気だった。
隆に媚びを売って一日一組限定の高い衣装に身を包んだ。
掲示板では自演しまくり、直樹やビッチを擁護する連中を攻撃して、現地にいる人はみんなで協力して千春達を勝たせるよう流れを作った。
具体的には直樹達がステージに上がって馴れ初めを語り始めたらビッチコールや浮気男コールをして正体を暴いてやろうと誘導したのだ。
あの二人は不良ぶった格好で来ているから他の観客も納得するだろう。
普通に戦っても勝てるとは思うが、仕掛けるからにはどんな小さな負けの可能性でも潰しておくのが臆病な千春のやり方である。
つまり、この時点で勝負は既に決まっているのである。
(バカな直樹。優しいあんたが喧嘩であたしに勝てるわけがないじゃない……)
勝ちが決まっていても不思議と千春は嬉しく思えなかった。
むしろ虚しく、哀しく、直樹の事が可哀想にすら思えた。
千春だって直樹が悪くない事くらい分かっている。
というか悪いのは明らかに自分だ。
我が身可愛さに浮気して裏切ってデマを流した。
でも仕方ない。
自分はそういう女で、隆が言ったように悪い女なのだ。
直樹に落ち度があるとすれば、こんな女を彼女にしてしまった事だろう。
それに千春は今でも直樹を愛していた。
久々に直樹と面と向かって話してその事を確信した。
捨てたはずの相手なのに、久々に直樹の顔を見て話したら物凄くホッとして嬉しかった。
まるで実家のような安心感である。
まぁ、千春は再婚前に住んでいた貧乏マンションにこれっぽっちの未練もないが。
ともかく、千春にとって直樹は今も特別な存在なのだ。
だからと言ってよりを戻したいとは思わないが(少なくとも、直樹が金持ちにならない限りは)、悪戯に傷つけたいわけではない。
直樹が歯向かわなければ、千春だってこんなひどい事はせずに済んだのだ。
全てはビッチのせいである。
ビッチが手を貸さなければ直樹はあそこで折れていた。
だから二人はここで潰す。
そう決意して千春はステージに上がったのだが。
「以上が出場者になります! いやぁ、今回も素敵なカップルが集まってくれましたねぇ~!」
「……はぁ?」
司会の言葉に思わず素の声が出る。
妨害工作を行う為に集まっていた学校の連中もざわついていた。
直樹とビッチはコンテストに出ていなかった。
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