第17話 手〇ン

「やっぽ~。きょ~もアッシーんち行ってい~?」


 放課後だった。


 直樹が帰り支度をしていると、入口から姫麗が顔を覗かせる。


 ハツラツとした笑みの下では、左手で作った指の輪の中を右手の中指がズコバコ出入りしていた。


 姫麗はスタイル抜群の金髪白ギャルである。


 制服はだらしなく着崩して、上はボタンが弾けそうな程パツンパツンに張り詰めている。


 スカートは屈めばパンツが見えそうな程詰められて、肉感的な白い生脚が眩しい程に露出している。


 旋毛からつま先までエロの化身といった雰囲気で、挑発的な仕草も合わせて、見た目だけなら学校一のヤリマンビッチを疑う者はいないだろう。


 それが自衛の為の演技だと分かっている直樹でも、胸がドキドキして恥ずかしい気持ちになった。


 今になって思い返せば、あの時色欲に負けて姫麗を抱かなかったのが不思議な程である。


 多分あの時は千春に手酷く裏切られて心が死んでいたのだろう。


 なんにせよ、姫麗のヤリマンビッチロールプレイは完璧でちゃんと効果も発揮していた。


 普通なら他のクラスの女子が男子に逢いに来るのは雰囲気的に難しい。後で変な噂になったり、見せびらかしてんじゃねぇよと妬まれたり、その場で冷やかされる事すらある。


 それがヤリマンビッチなら文字通りのフリーパスで、むしろクラスの連中のほうがアウェイなムードになっていた。


 小学校では足の速い奴がモテて偉い。


 中学校では面白い奴がモテて偉い。


 高校では見た目の良い奴がモテて偉い。


 そんな風に変化する気がする。


 きっと大人になるにつれて色気づくからだろう。


 つまり、セックスに興味が出てくるのだ。


 聞いて回った事はないが、高二で初体験を済ませた奴は多くない。


 直樹は中三の終わりの頃だからかなり早い方だ。


 千春に言われて暫く内緒にしていたが、非童貞というだけでなんとなく周りより一歩先を行っている気分になったのは確かである。


 実際、男子の中で経験者は羨望の的であり、偉業を成し遂げた英雄も同じ扱いである。


 たった一人でもそうなのだから、百人斬りセックスマスター(自称)が恐れられるのも頷ける話である。


 経験者の直樹ですら、正体を知る前の姫麗は自分とは全く違う未知のバケモノのように思えていた。


 すごく大人で、危なくて、関わってはいけない恐ろしい存在といった感じである。


 実際は楽しくて優しい、正義感溢れる良い奴だったが。


 皮肉な事に、それがバレるのは姫麗に取ってマイナスでしかないのだろう。


 正体がバレた途端、姫麗を守る防壁は崩れ去り、一転してイジメの対象にされるかもしれない。


 直樹自身たった一晩でスクールカーストを転落し、今まで話した事もないような連中にボコられた経験がある。


 姫麗の心配を杞憂だと笑う事など出来なかった。


 今や直樹は誰とでも寝る学校一のヤリチンであると同時に、学校一のヤリマンビッチの彼ピッピなのである。


 千春をぎゃふんと言わせる手伝いをして貰ったし、姫麗の脚を引っ張らない為にも、直樹もちゃんとロールプレイに徹する必要があった。


 その本性が優しいだけが取り柄の冴えないモブ男君だとしても。


「おう。お前ならいつでも大歓迎だ」


 下卑た笑みを浮かべると、直樹は右手の中指と薬指をクニクニした。


 手〇ンの構えである。


 ここでワンポイントアドバイス。


 人指し指と中指でやるのはモグリである。


 人差し指は小指と一緒に手の位置を固定する為にあけておいた方が安定するし楽である。


 指はぶっちゃけ一本でもいい。


 二本の方が男は楽だが、三本以上はオススメしない。


 余程の事がない限り相手が痛がる。


 挿入物が細くて困る事は稀だが、太すぎると痛くて気持ちが萎えるのである(By千春)。


 もっとも千春の場合は挿入感を重視するのである程度の太さを求めてもいたが。


 大事なのは適切な場所に適切なタイミングで刺激を与える事である。


 玄人っぽい直樹のムーブにクラスメイトの肩身が一層狭まる。


 お願いだから早くどっかいってくれ! と、そんな叫びが聞こえる気がした。


 これがヤリマンヤリチンの持つ畏怖の力なのだろう。


 別に直樹もデカい顔をしたいわけではないが、無実の罪でイジメられるよりはずっとマシである。


「な~に? あ~しというものがありながらま~だ他の女と寝てるわけ?」

「お互い様だろ?」

「それはそれ、これはこれじゃん? あはははは!」


 アドリブでハッタリを利かせると直樹は教室を出た。


 二人がいなくなると、クラスメイト達は嵐が去った後のようにホッと息をつく。


「……ビッチとヤリチンのカップルとかヤバすぎだろ……」


 誰かがぽつりと囁いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る