凶竜姫の珍道中

フォウ

第1話 大型自動車?

 ドラグネア帝国の中心である帝都ドラグネア。

 その北門を出て、馬車で半日程度揺られた先に、俺とフィアーナにリッテを加えた3人組はやってきた。

 目的は、この建物から帝国各地へ出立する大型運搬機械に乗ること。

 それは30両の客室車を引き連れて、レールの上を進む自動車だと言う。

 見た目は完全に汽車ないし電車だろう?

 そう思って、訊ねてみたのだが返ってきた答えは否。

 開発に関わったロッティ曰く、


「シリンダ内に魔石を入れて、圧砕。

 そのエネルギーでギアを回す仕組みっすから、自動車ってのが一番近いっす!」


 とのこと。

 確かに蒸気を使っていないし、電気でモーターを動かすわけでもないが……。

 と違和感を覚えたのは、俺だけのようで大衆には、この巨大自動車。

 正式名称として、グランドモービルはそのまま受け入れられた。


 ちなみに、エンジンの設計図提供はロッティ。

 鉄道網計画発案はユーリカ。

 資金提供は俺の3人が中心となる大型輸送機関なため、このグランドモービル運営はイソヤ公爵家から分家独立したトレイン伯爵家が担っている。

 ……つまり、ジーンハルト同様にマナの孫、俺の曾孫と言うわけだ。

 故に、

 

「お待ちしておりました。

 ミフィア様、フィアーナ様にリースリッテ様。

 お三方の搭乗されますドラグネア発アガーム経由ラロル行きは、本日の15時発車となりますので、今しばらく、こちらの貴賓室でおくつろぎください」


 当たり前のようにトレイン伯爵家当主兼グランドモービル社社長の歓迎を受けて、王族、貴族用の豪華な待合室へ通される。

 そこは、


「貸し切り状態ですけどね……」

「……まあ、ドラグネアではユーリス公爵の葬儀が終わって、夜会の真っ最中だろうしな」


 俺達を除くと誰もいない状態。

 リッテの言うように貸し切り状態の待合室であった。

 しかし、


「人の葬式に来て、そのまま夜会でどんちゃん騒ぎとか、あっちの感覚だと違和感が強いものだがな……」

「不謹慎の塊のような母が言うことじゃない。

 自分の葬式を途中で放棄して、長期旅行とか発想がおかしい」


 この世界の人間達の不謹慎を説いたら、娘からお前が言うなと反論される。


「いや、自分の葬式に参加する必要こそ無いだろ?」

「主役が欠席」


 ああ言えばこう言う娘である。


「まあ、大姉様の言うことも一理あると言えばあるかもしれませんけど……。

 こちらの世界では遠方の親戚が顔を合わせる機会となると冠婚葬祭。

 特に結婚と葬儀がメインとなるんですよ。

 その内、結婚については主役がいますけど、葬儀に関しては主役が故人ですので……」

「結果、せっかくだから社交界をやるってわけか?」


 確かに、日本でも昭和の時代に親族が集まるのは、そんな感じだったと聞いたことがあるな。


「加えて、影響力の大きかった故人を喪えば、各人の力関係にも変化がありますしね……」

「と言うことは、今頃ドラグネア城はマウント合戦の真っ最中か?」


 言われてみれば当然の話だが、大貴族の当主とかが死んだ場合、家から出た故人の娘等は、新しい当主の兄弟でしかなくなる。

 本家からの庇護が弱まる可能性を懸念するのが自然だ。


「母の場合は関係ない。

 それ以上に、どちらかと言うと歴史上の偉人がなくなった感覚だと思う。

 ……中々イケる」

「なるほど。

 ……それで、フィアーナは何を食べているんだ?」


 口を動かしながら、俺の立ち位置を説明してくれる娘。

 その内容には納得できるが、それ以上にフィアーナが口に入れているモノが気になった。


「駅に駅弁は付き物。

 来る途中で見掛けた店から買ってきた」

「……それはモービルから降りた人間が、移動中に食べる類いのはずですけど?」


 フィアーナの答えにリッテが戸惑う。

 そういえば、この組み合わせは初めてかもしれないし、飲まず食わずでも数年生き永らえる真竜が、これほど食に執着するのは不思議でもしょうがないか。


「逆にモービル待ちで食べてはならない決まりもない」

「そうですけど、モービル内には食堂車もあるのですよ?」

「そっちも楽しみだが、それは今駅弁を食べない理由にはならない」

「大姉様?」


 どちらも喰らうと断言するフィアーナに、困惑の表情のリッテだが、


「まあフィアーナはこういうやつだから……」

「はあ……」


 俺としても、その程度のフォローしか出来ない。

 だってフィアーナだし……。

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