バナナたちの夕暮れ

 ある日、電柱に三本のバナナが止まっているのを見かけた。

 鳥が止まっているのを見かけたことはあったが、バナナは初めてだったので、少しだけ観察することにした。


「お前たち、沖縄へ行きたいかー!」

「行きたいです!」

「行きたいでぇす!」

 大きめなバナナが呼びかけると、他二本のバナナも声を上げた。

 何やら、決起集会のような雰囲気である。


「イリオモテヤマネコに、会いたいかー!」

「会いたいです!」

「会いたいでぇす!」


「ヤンバルクイナに、会いたいかー!」

「会いたいです!」

「ヤンバルクイナって、何ですかぁ!?」


「ならば、あの沈む夕日に向かって飛べ! 行くぞ! 我々は、バナナだぁ!」

「おー!」

「ヤンバルクイナって、何ですかぁ!?」


 彼らは血気盛んに叫ぶと、皮を広げて飛び去ってしまった。

 なるほど、たしかにバナナといえば、暖かい地域の出身。沖縄を一目でいいから見てみたいと思うバナナがいても、自然なことだ。

 果たして、夕日の沈む方向に沖縄があるのか否か。

 沖縄に詳しくない私には、分からなかった。

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