町に少女あり、好奇心あり

ちろ

筋トレとケンタウロス

 ある日の下校途中、電柱の傍で筋トレをするケンタウロスに出会った。電柱のありとあらゆる部分を巧みに用いて、筋肉を育てているようだ。


 ケンタウロス。

 上半身が人間で、下半身が馬の、あの生き物。


 観察していると、上半身を重点的に鍛えているらしい。人間と馬のハーフ&ハーフは、やはりバランスが悪いのだろうか。


「ややっ、そこの少女よ」

 ボーッと見つめていると、彼は筋肉を見せびらかしながら私に近付いてきた。

「キミの背負っている、その赤いバックパックは何だね?」

「……ランドセルです」

「ランドセルとは、何だね?」

「教科書とかリコーダーとか、いろいろ入っています」

「ふむ……ぴったりサイズの重りだね。ちょうどいい負荷がかかりそうだ」

「重りではないです」

「よければ、私に譲ってくれないかね? もちろん、タダでとは言わない。コレと交換だ」

「これは?」

「登山用リュックだ。丈夫で、いろんなモノが入るぞ。教科書もリコーダーも、好きなだけ入れるといい」

 私は首を横に振った。

「私は、山には登らないので」

「そうか……残念だ。もしも気が変わったら、いつでも声をかけてくれたまえ」


 そう言うと、ケンタウロスさんは筋トレを再開した。よほど、鍛えることが好きらしい。

 家に帰った私は、彼を見習って筋トレをやってみることにした。

 腕立て伏せだ。

 ……そういえば、ケンタウロスはどうやって腕立て伏せをするのだろう。

 謎が深まる中、私の筋トレは三日坊主で終わった。

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