餌付け

これ、な~んだ

 温めたソーセージを牛河さんの口に付け、ミサキさんは「これ、な~んだ?」と、問いかける。


「んっ、……やめ」

「ほら。早く答えなさいよ」

「……ん~……」


 顔を背け、抵抗する牛河さん。

 ミサキさんはボクに「押さえて」と命令してくる。

 こんな事に何の意味があるのか分からないけど、言われるがままにボクは両腕を突っ込んで、左右から顔を押さえる。


「む、が、……ぁ」


 無理やり口に入れると、牛河さんが小さく喘いだ。


「好きな子の手で押さえられると、猫のように大人しくなるのね」

「……っ」

「別にいいのよ。あたしは、見てるだけで面白いから」


 ペットに餌を与える飼い主みたいだった。

 鼻歌を歌いながら、ソーセージを奥に突っ込んでいく。


「ん、もぉ、げほっ、……こほっ」

「あー、吐き出しちゃった」

「……はぁ、……はぁ。なに、するの」

「口に入れた物を当ててほしいの。今の、何だと思う?」

「……」


 ミサキさんが顔を上げて、「水野くん」と声を掛けられた。


「水野くんが代わりにしてくれる? あたしだと素っ気ないの」

「何をすれば」

「目隠しで、口に入れた物を当てるゲームよ。あたし、傍で見てるから」


 ミサキさんは、どうやら牛河さんの反応を見たいようだった。

 もしかしたら、誰かの反応を楽しむ趣向なのかもしれない。

 だいたい、何をすればいいのか分かったので、ボクは唾液で濡れたソーセージを受け取り、牛河さんの前に屈む。


「……じゃあ。はい」


 ボクがソーセージを咥えさせると、牛河さんは少し躊躇った後、素直に口を開いた。


「あぁ……む……」

「ごめんね」

「ん」


 口に含んだ物を当てるゲームのはずだが、牛河さんはなぜかモグモグとソーセージを齧り始める。


「え、と。これ、何だと思う?」

「……わかんない」


 ミサキさんがニヤニヤとして、蕩ける牛河さんの表情を眺める。

 少しの間、牛河さんを眺めて楽しんでいたミサキさんだったが、何やらボクの肩を叩いてきて、箱の中を指した。


「え?」


 また、箱の中を指す。

 入れ、ってことだろうか。


 でも、ボクが入ると、ギュウギュウ詰めになるから、色々と狭苦しいんじゃないだろうか。あと、色々当たってしまう。


 躊躇っていると、ミサキさんが後ろから抱きついてきて、グイグイと押してきた。


「わ、分かりましたから」


 足を踏まないように、慎重に段ボールの中に片足を突っ込んでいく。

 両足を入れると、肩を掴まれ、半ば強制的に、中腰になった。


「……え」


 牛河さんがビクつき、反応を示した。

 色々とマズい体勢だけど、肩を掴まれているため、立ち上がれない。

 ボクが中腰になっている間、ミサキさんは蓋を閉めてくる。


 歪な形で閉じた箱の蓋。

 お腹に当たった蓋の端はへし折れて、無理やり閉じている状態。

 尻には、牛河さんの膝が当たっていた。


「これ、……な~んだ」


 ミサキさんが楽しげに笑った。

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