段ボール

 ミサキさんとの時間は、とても静かなものだった。


 割り当てられた部屋は、長く使われていない空き部屋。

 ホコリが溜まっていたので、換気と掃除を行ったボクは、リビングの方に戻り、ソファに座る。


 その上にミサキさんが座ってきて、本を読み始めた。

 背中に圧し潰されるボクは、「むぐ」と、服に顔を埋める格好で耐えた。


「ん。誰だろ」


 そうして、何もない時間を過ごしていると、ポケットにしまったスマホが震えた。不安定な姿勢でスマホを取り出し、誰から連絡が来たのか確認しようとする。


 その矢先、ミサキさんが体重を寄せてきて、ボクからスマホを奪った。


「あぁ、やっぱりね」


 ボクの代わりに画面を確認したミサキさんは、勝手に通話を切り、何やら操作を始めた。


「……何してるんですか?」

「挑発」

「誰からです? っていうか、挑発って」

「オモチャよ」


 立ち上がったミサキさんは、「んー」と何やら考え始めた。

 読んでいた本に指を挟ませ、同じ場所をぐるぐると回る。


「空っぽの段ボール、あったわよね」

「はい。物置部屋に」


 二階の部屋。

 ボクが寝泊まりする部屋の隣なので、把握している。


「持ってきて」

「へ?」

「今は、……17時ね。あっという間だわ」


 気が付けば、ボクは一緒にダラダラとして、ミサキさんと何もない時間を過ごしていた。何もない、というと無駄であるかのように聞こえるが、そんなことはない。


 ゆっくりとした時間のおかげで疲れは抜けたし、気持ちが楽になった。


「段ボール持ってきたら、お風呂入ってきてね」

「はあ」


 言われた通り、ボクは物置部屋に向かった。

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