牛河家へ

「ふぁ……あぁ……」


 駅で待ち合わせをすることになったボクは、疲れが取れずに背伸びをした。ここ最近、ノンストップで動き回っているから、いまいち疲れが抜けてくれない。


「女の子と遊ぶって、……何するんだろう」


 ボクは今まで、友達と呼べる存在がいなかった。

 だから、遊ぶと言われても何をするのか、全然想像ができない。

 それどころか、疲れのせいでダルイなんて失礼な事を考えてるくらいだ。


「お待たせ」

「……スゥ……スゥ……」

「お待たせ」

「……あぁ……ダルい」

「む」


 目を閉じて、ボケーっとしていると、指に感触があった。


 ――がりっ。


「いって!」


 ビックリして顔を上げると、目の前には牛河さんがいた。

 声は聞こえていたし、無視したわけではないのだけど、どうしてもダルくて仕方なかったのだ。


「反応してくれないからだよ」

「ごめん」


 痛むところを擦ると、昨日ミサキさんに噛まれた場所と、同じ所を噛まれていた。


「じゃあ、行こ」

「行くってどこに?」

「え、わたしの家だけど」


 きょとん、とした様子で答えられた。

 女の子の家に行って、何をするのだろう。

 ますます、何をして過ごすのか分からなくなったボクは、「あぁ、そうなんだ」と、曖昧な返事をした。


 牛河さんとは同じ中学なので、同じ町の出身というのは、何となく察しがついていた。


 ボク達が向かったのは、ボクの家とは別方向。――海側だった。

 海の方には小学校があり、どうやら近辺に住んでいるらしい。


 始めは後ろを歩いていたボクだったが、牛河さんは嫌なようで、すぐに歩くペースを落として隣に並ぶ。


「ふふ。もう、遠慮しないから」


 手ではなく、手首を握られ、少し乱暴に引っ張られた。

 今まで、大人しい牛河さんの顔しか知らなかったから、らしくない行動を取られると、ビクッとしてしまう。


「そういえば、今日休み取れたんだね」

「ううん。休みじゃないよ。でも、夜に来てくれたらいいって」


 歩が止まり、牛河さんが驚いた様子で振り返る。


「休み取れなかったの?」

「まあ……」

「ブラックすぎるよ」


 ぎりぃっ。――手首に爪が刺さるほど強く握られる。


 痛かったけど、力では敵わず、振りほどけない。

 あまり刺激しないように、空いた手で指をカリカリとして、何とか離してもらおうとする。だが、牛河さんはムッとした表情で虚空を睨み、歩く速度が上がった。

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