ボクのご主人様

烏目 ヒツキ

六条家の令嬢

ボクは人形

 産まれた時から、ボクの人生は負け一択の出来レースだ。

 借金が一千万ほどあって、半分は父が亡くなった時に保険金で払い、さらに三百万円余りを母が亡くなった時に保険金で払った。


 ボクはバイトをしてコツコツと返した。

 残りは百万円くらい。

 世の中には、これ以上にすごい借金を抱えている人がいるけど、ボクからすれば相当な額だ。


 祖母と一緒に暮らし、年金が入れば少しだけ手伝ってもらって、質素な暮らしをしていた。


 だけど、大金を持つ人間は人の心まで失うらしい。

 こんな事言いたくないけど、お金に苦しめられている身としては、とても憎たらしかった。


 家と土地が担保になっているため、揺さぶりを掛けられると、ボクみたいのはすぐに潰れる。


 でも、相手は殺してくれるほど、生易しくない。


「はい。口開けて」


 色々あって、ボクは現在、とある外資系企業の社長令嬢宅にいる。

 キッチンとリビングは何畳半あるのか定かでない。

 とても広くて、モダン風の高級リビングだ。


 ボクのいるダイニングは、リビングと隣接した場所にある。

 長テーブルがあって、斜め向かいには黒い髪の冷たい女が座っている。

 感情のない瞳をボクに向け、フォークに刺した肉を口に運んでくる。


 焼き加減が微妙だった。

 血が滴ってるし、ミレニアどころじゃない。


「どうしたの? 優しくしてほしいんでしょ?」

「……や、その……」

「食べなさいよ。せっかく焼いてあげたのに。悪くなっちゃうじゃない」


 ボクがじっと固まっていると、手元にあったスイッチを取った。

 手の中に収まるくらいの小さなスイッチだ。

 真ん中にある緑のボタンを押せば、ボクの腕にハメているブレスレットにを出せる。


 ――バチッ。


「い、っった!」


 指示というか、電流が流れるのだ。


「食べなさいって」

「も、もうちょっと、焼いてくれると、……嬉しいです」


 乱暴にフォークを置き、無言でボクを睨んでくる。

 ボクは目を合わせられなくて、リビングから見える広い庭に目を移した。


 新しい地獄の幕開けだった。

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