鏡よ鏡

玉川 駈

鏡よ鏡


 クラスで人工AIのチャットに馬鹿げた質問をするのが流行った。


"今後の人生に平方根を使うタイミングありますか?"


"__平方根は数学的な概念であり、一般的な日常生活では使用しません"


「ほら、やっぱり!私この前の数学、赤点だったけど、平気じゃんね」


 カナは笑いながら言った。数学は私も苦手だから、この回答に一安心した。

 どういうシステムになっているのか詳細はわからないが、人工AIはどんな質問にも答えてくれる。


"女性らしいとは?"

"今年のチョコは何が流行り?"


 くだらない質問をして放課後の曖昧な時間を過ごしていた。そんな中、ミチが核心的な質問をして、取り囲んでいた女子は一気に色めきたった。


"大輔先輩はどんな女性が好きですか?"


「すごい!こんなこともわかるの?」


 恋に焦がれる乙女達が固唾を飲んで見守っていると、AIは意味ありげにしばらくカーソルを点滅させた後に以下のように回答した。


"__性格は優しくて、活発、外見はロングヘアーの女性が好みです。"


 黒髪、茶髪問わず、その場にいたロングヘアーの女生徒は大きくガッツポーズをした。

 落胆を隠せないボブヘアーのマリコが「そんな周りくどいことしなくてもさ……」とため息混じりに言いながら新たな質問を打ち込んだ。


"大輔先輩は誰が好きですか?"


AIは公然と回答した。


"__3年B組の八代めぐみさんです。"


 瞬時に空気が凍りついた。みんなの黒目がキュッと小さくなって怖かったので、私はわざとおどけて言った。


「いやいや、まさか。鏡よ鏡~って白雪姫じゃあるまいし、こんなの、AIにわかるわけないじゃんね……」


 言い終わる前にみんなクラスを出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡よ鏡 玉川 駈 @asakawa_p

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ