第6話 説得
翌朝、私は廊下を掃除していると、扉の向こうから人の話し声が聞こえるのに気付いた。
「そろそろフェロウ国への進軍をすすめようと思うのだが……」
「父上、無謀です。おやめください。今は新しい領地を治めるのが先かと思います」
「偉くなったものだな、ウォルター。父上の言うことに意見するとは!」
「兄上、戦ばかりでは国は疲弊してしまいます」
どうやら、声がしてきたのは会議室だったようだ。
私が聞き耳を立てていると、メイドのブレンダが声をかけてきた。
「あら? 何をしているの? 仕事をさぼっていいと思ってるの?」
ブレンダはそう言うと、私の持っていたモップを蹴り飛ばした。モップがドアにあたった。
「誰だ!?」
ドアが開き、テリー王子が現れた。
「申し訳ありません、新しく入ったメイドが粗相をしました」
ブレンダが頭を下げてテリー王子に言った。
「……失礼いたしました」
私も頭を下げた。
「掃除くらいまともにできないのか? この出来損ないめ!」
テリー王子はそれだけ言うと扉をバタンと閉めた。
「あんたのせいで私まで怒られたじゃないか! このグズ!」
ブレンダは声を低くして私を罵倒すると、足早に去っていった。
「……進軍……」
私は進軍を止めようとしていたウォルター王子の声を思い出していた。
「ウォルターの言うことも一理あるかもしれん。……しばらくは治世に注力するか……」
扉の奥からビルト王の声が聞こえた。私は話を立ち聞きしていたことがバレないように、急いで廊下の掃除を終えてメイド室に戻ることにした。
メイド室ではブレンダとカミラが話をしていた。
「また、戦争をするつもりみたいだよ」
ブレンダがカミラに言った。
「本当に、ビルト王は人殺しが好きだね」
「お妃さまがなくなってから、戦争続きで嫌になる」
「でも、祝杯の残りのご馳走をたべられるからいいじゃないか」
私は二人の会話を邪魔しないように掃除道具を片付けた。
「リネ、ちゃんと仕事してるかい?」
カミラが私に声をかけた。
「……はい」
私はそれだけ言うと、洗濯をするために洗面所に向かった。
一人で洗濯をしながら、ウォルター王子の言葉を思い出す。
「……新しい領地と言うのは……きっとぺアデ国のことね……」
ぼろぼろに壊された故郷を思うと涙が出そうになったが、私は深呼吸をして、それをこらえた。
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