第2話 フォルツァ国 王宮

「王が戻られた!」

「我が国の勝利だ!」

「フォルツァ国、万歳!」

 フォルツァ国に入ると、ファルツァ国王ビルトは民衆の歓迎を受けた。

 しかしフォルツァ国のすべての人々がビルト王を慕っているわけではなかった。


「……また、戦で人を殺したのか……」

「……今度は同盟を結んでいたペアデ国を裏切ったのか? 信じられない……」

「……ビルト王の周りには沢山の血の跡が残されるな……」

 物陰でひそひそと話す民の声が兵士の耳に届いた。

「貴様ら! 王を愚弄するのか!?」

 兵士は民に剣を向けた。人々は顔を隠し、一目散に逃げて行った。


「つまらぬことを言う者は、処罰しろ」

 ビルト王は無感情に兵につげた。

「は! 王の命じるままに!」

 その様子を見ていたウォルター王子はため息をついた。

「……」

「浮かない顔をしているな? ウォルター。父上の活躍が気に入らないのか?」

「いえ、そんなことはありません。兄上」

 テリー王子はウォルター王子に向かってからかうような口調で尋ねた。

「お前はメイドを連れ帰ったそうじゃないか。そんなに美人だったのか?」

「……兄上、城に着きますよ」

 ウォルターは兄のテリーの問いかけには答えず、前に進んだ。


 城に着くとペアデ国から持ち帰った財宝が王宮に運び込まれた。

「ウォルター、お前が欲しがったメイドはどうする?」

「私の専属メイドにしてくださいませんか?」

「そんなに気にいったのか? お前が戦利品を欲しがるとは本当に珍しい。まあ、好きにするがいい。」

 ビルト王は笑って承諾した。

「……ありがとうございます、父上」


「そんなに美人なら、俺も見てみたいな。そのメイドとやらを連れてこい」

 テリー王子が言った。

「かしこまりました」

 兵士が私をビルド王とテリー第一王子、ウォルター第二王子の前に連れてきた。

「顔を上げろ」

 テリー王子の言葉を受け、私は顔を上げた。

「……そんなに美人ではないな。どことなくリネット王女に似ているような気もするが……」


 私は息をのんだ。背中に冷や汗が流れていくのを感じる。

「似てないでしょう。それにリネット王女は死んでいます。王と王妃と共に。殺したのは兄上でしょう?」

 ウォルター王子の言葉に納得した様子で、テリー王子は私の顔から眼をそらした。

「まあ、そうだな。こんなみすぼらしい女が好みなのか? ウォルターは」

「……ええ。では、このメイドは私の部屋の隣の空き部屋に住まわせても良いでしょうか、父上?」


 ウォルター王子は私には目をくれず、ビルド王を見つめていた。

「好きにしろ。物好きな奴だ」

「……ありがとうございます」

 ウォルター王子の顔から、少しだけ緊張がとけたように見えた。

「それでは皆、持ち場に戻れ。テリー、ウォルター、お前たちも部屋に戻れ」

「はい、父上」

「お疲れさまでした、父上」


 私は一人ぽつんと立ち尽くしていると、ウォルター王子が声をかけた。

「お前は私の部屋に来い」

「……はい」


 両手をぎゅっと握りしめ、私はウォルター王子の後について歩いた。

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