8魔族

「なんで殺されないといけないのかなー?」


 アリアさんは剣を魔族に向けながら聞く。


「そんなことを知る必要はない。黙って死ね。」

「死ねって言われて、はいわかりましたって言うわけないでしょー。」

「まぁそうだろうな。お前ら人間は弱いくせに無駄に抵抗する生き物だからな。だから一思いに殺してやろう。」


 めっちゃ怖。やべーだろ。

 この場は倒すより逃げつつ他の冒険者に救援を求めた方がいいと思うんだが。


「アリアさん、どうします。」

「ここで倒す。ってのが一番最高の結果なんだけどねー。勝てるかわかんない!だから私が足止めするからおにーさん、ギルドに急いで行って救援を呼んで来て欲しい。」

「わかりました。ただ俺だけ逃がしてくれますかねあの魔族。」


 小さい声で話していると魔族がこちらに近づいてくる。


「作戦会議は終わったか?何をしても無駄だがな。ちなみに横の男もついでに殺すぞ?」


 こ、怖ぇぇ・・・ーーー

 

「私が絶対守るから、隙を見て走って!」

「やってみます」


 アリアさんの後ろに下がる。


万雷バンライ

 

 模擬戦の時よりもさらに強い雷がアリアさんを包む。


「ほう。それが雷魔法か。人間にしてはやるな。しかし私に通用するかな?」

「やってみないとわからないでしょ?行くよ。」


 一瞬でアリアさんが魔族の横に移動する。


「なかなか速いな人間。まぁそれだけだ。」


 簡単に避けられる。

 間髪入れずアリアさんが連続に攻撃を続ける。


「いいぞいいぞ。」


 全部避けてる。って見てる場合じゃない!

 今ならこの場から抜けられる。急いでギルドに行かなければ!


「お前も殺すと言っただろう?」

「え」


 背を向けた俺に炎の球が4つ飛んでくる。


「走って!」


 アリアさんの声が聞こえた。

 

「アリアさん!!」


 俺に迫っていた炎の球は全部当たる前に空中で爆発した。

 アリアさんが全部に剣を当てたようだ。


「早く行って!!」


 くそ!アリアさん、爆発のダメージ受けてる!俺のせいだ!


「絶対死なないでくださいね!?」

「どうかな〜約束はできないかも!」


 そう言い、また魔族に向かっていく。


「くそくそ!くそ!!」


 アリアさんと魔族の戦いが繰り広げられる中、その場を急いで脱出しながら何も出来ない出来ない自分に苛立った。




「なんで俺はなんも出来ないんだ!」


 走りながら叫ぶ。


「俺がもっと強ければ!一緒に戦えたのに!!なんでだよ!!」




「はぁはぁはぁ・・・」


 やっと森の外近くまできた。10分近くもかかってしまった。ここにくるまでにいくつかの爆発音が聞こえたし急がないと!


「おい、あんたどうした?」


不意に横から声がする。

4人の冒険者パーティだ!


「よ、よかった!救援をお願いしたい!」

「それはいいが何があった」

「魔族が出ました!」

「おいおい、マジか?何かの見間違いじゃないか?」

「本当です!今、アリアさんが足止めをしています!ギルドに知らせるように言われました!」

「アリアって言ったらSランク冒険者じゃねーか。そいつに任せても大丈夫じゃねーか?」


 確かにそうかもしれない。でも


「強い人が多い方が確実です!なんとか救援をお願いできませんか?!」

「しかしなぁ、俺らのパーティが魔族に通用するかわからん。しかもクエストを終えて帰るところだったから、みんな疲弊してるところなんだ」


 やっぱりギルドに急いだ方がいいか。


「ただ、俺らが急いでギルドに知らせよう。馬もいるし走っていくより早く知らせられるだろ?」

「ありがとうございます!!」

「本当に魔族が出たんなら冒険者がなんとかしなきゃならんからな!」


 ドォン!!


「また爆発音が!」


 くそ、アリアさんの雷魔法は自分へのバフしかないって言ってた!だからこの爆発もこれまで聞こえた爆発も魔族の魔法ってことだ!


「急いで知らせてください!」

「お、おう!あんたも急いで馬に乗ってくれ!」


 いや、俺は・・・


「俺は戻ります。」

「おいおい、あんた見た感じFランクの冒険者だろ!?足手纏いにしかならないぞ!?」


 確かにそうだ。邪魔にしかならないだろう。

 それでも、行くんだ。


「ギルドに急いでください!」


 元来た道を走り出す!


「あ、おい!くそ!これでも持っていけ!」


 振り返るとビンが入った袋を投げられる。


「体力と魔力を少しだが回復できるポーションだ!!無いよりマシだろ!」

「ありがとうございます!!」


 お礼を言って走り出す。


「急ぐぞ、お前ら!」


 冒険者パーティはギルド急ぐ。



 森の中を走る。さっきまで聞こえていた爆発音が聞こえてこない。魔族を倒したかもしくは・・・


「いやいやいや、変なことを考えるな!」


 きっとアリアさんなら大丈夫だ!


「はぁはぁ」


 魔族と遭遇したところ近くまで来た。ここからは慎重に行く。


「・・・・・誰もいないな。」


 息を殺しつつ周りを確認する。


「これは」


 血だ。


「くそ、アリアさんどこだ・・?」


 移動しようとすると、後ろから誰かが来た!


「なんで、戻ってきたの、おにーさん。」


 アリアさんだ!

 ただ全身切り傷などがあり、左腕は焼けたようにただれている。


「大丈夫ですか?!これポーションです!使ってください!」 

「静かに。魔族はまだ倒してないから。私をまだ探してるはず」

「す、すみません」

「それよりなんで戻ってきたの。救援は?」

「森の外ですぐ冒険者パーティに会って、その方達がギルドに行って救援を呼んでくれます!馬もいるようなので俺が走るより早いはずです」

「なるほどね。ただ、なんでおにーさんも一緒に行かなかったの。おにーさんだけ戻ってきた理由がわからないよ」


 俺もよくわからない。


「おにーさんがいても出来ることがないよ。言い方悪くなっちゃうけど足手纏いになる。今からでも遅くないから逃げて。絶対負けないから。救援が来るまでは持ち堪えてみせるよ!」


 その通りだ。でも。


「そんなボロボロの体で言っても説得力ないだろ。それにそんなぎこちない笑顔しないでくれよアリアさん。」


 あぁ、俺はこの人を守りたいんだな。


「確かに俺はFランクだしLvも低いし弱い!アリアさんに比べたらめちゃくちゃ弱い!」


 それでも、それでもそれでも


「それでも、少しくらい他人を頼ってもいいんだよ。盾役でもなんでもやってやるさ!」


「だからさ、一緒にあの魔族を倒そうぜ、アリア」


 傷ついたアリアの手を優しく握る。


「・・・かっこいいねおにーさん」


 やべ、めっちゃ恥ずい。


「と、とりあえずポーション使って傷直そう」

「そうだね」


 ポーションを飲むアリア。少しでも回復してくれればいいが。


「それで、おにーさん、何か作戦あるのかなー?」

「・・・・・ごめん」

「ふふ、何もないのに倒そうとか言ったのー?」


 さらに恥ずい!

 勢いに任せて言ってしまったからなぁ。何も考えてなかった!


「私に考えというか、おにーさんにやってみて欲しいことがあるんだ」

「なんなりと」

「私の雷魔法はさ、俊敏が格段に上がって魔族のスピードにもついていけるだけど、どうしても攻撃が通らないの」

「なるほど」

「だから、おにーさんの風魔法が必要なんだ。」

「え、でも俺魔法は・・・」


 俺はまだ魔法の使い方がわからない。


「そう。だから、今使えるようになって」

「え、無理やん」


 無理ですやん。


「魔法はいつ覚えるかわからない。今覚えるかもしれないでしょ?それに風属性は攻撃力と武器の切れ味を上昇させることができるんだ!私の攻撃じゃ、魔族を削れるけど決定打にはならない。だからおにーさんの力が必要なんだ!」


 力になりたい。そのためには魔法を使えるように、”今”ならなければならない。


「俺にできると思うか?」

「一緒に倒すんでしょ?おにーさんのかっこいいとこもっとみたいなぁ」

「やってみる。」


 ドンッ!ドンドンッ!!


「魔族が私を見つけられなくて魔法を連発してるみたいだね。このままじゃ、見つかるのも時間の問題かな」

「くそ、急がないと!」

「よし!少し回復もしたし、また足止めに行こうかな!」

「いや、傷も完全に回復してないし、まだ隠れてた方が!」

「大丈夫大丈夫!私にはおにーさんがいるからね。絶対助けてね!」


「絶対助ける。必ず。」


 音のする方に向かっていくアリア。

 時間がない、早く魔法を使えるようにならないと!



「くそ、全然ダメだ・・・!!」


 アリアと別れてまだ2〜3分しか経っていないが、爆発音が聞こえだしてから焦ってしまう。


「思い出せ、アリアがどう魔法を使っていたか・・!そして考えろ!」


 とりあえず魔法だから魔力を使ってる。だからまず自分の魔力を感知する必要があるはずだ。

 ゆっくり深呼吸する。焦るな。

 

「・・・・・」


 なんとなくわかったかもしれん。

 自分の体の内に感じるものがあり、それを手に移動させる。


「ゆっくり放出。」


 俺の前で風が吹いた。

 これだろ。


「ウィンド」


 不意に頭に浮かんだ言葉、いや魔法か。

 さっきよりも強い突風が吹く。


「使えた、使えたぞ!」


 よし!魔法は使える!


「次は、刀に魔力を流すイメージ・・・」


 刀を木に向け軽く振る。


「簡単に切れた。」


 できたのは喜ばしいことだが、こんなので魔族を斬るのは無理だ・・・

 アリアの攻撃ならもっと威力があるはずだ。その攻撃でも魔族の致命傷にならないなら、このくらいの攻撃じゃ無理だ。



 だからって諦められないだろ!!

 助けると決めたから。


「こっから、魔法を進化させる」


 5分だ。あと5分で俺の俺だけの魔法を造る!



「さっきから何を気にしている?」

「別にー?」


 おにーさんと別れてから3分くらいかな。この短時間で魔法を使えるかは賭けだ。それにもし覚えたとしてもおにーさんの魔法で倒せる可能性は極めて低い。

 それでも、おにーさんには期待してしまう。なんでかな。


「しぶといな人間。そろそろ飽きてきたぞ。先ほど急に隠れるようにいなくなったと思えば、何も策もなしに現れた。何がしたいんだ?」

「どうかなー?これも作戦かもよ?」

「まぁいいさっさと死ね」

「そう簡単には死ねないな!」


 また戦いが始まる。



 「風で出来ることで攻撃力を上げるには・・・」


 集中して考える。

 風の魔力を刀に流すだけじゃ威力が足りない。アリアの雷魔法を武器に纏わせることができれば威力と切れ味の両立ができる。


 雷か。できるかわからないが、時間がないし試してみるしかない


「空気に魔力を流し操るイメージ・・・そして集める。」


 転生前の記憶を思い出す。

 雷というか、プラズマの発生方法を。

 頭は良くなかったのであんまり覚えていないが、確か気体を圧縮し続けると熱が発生し、気体にエネルギーを加えると分子が原子になり、電離?だかが起こるとプラズマと言われる状態になる。なんかそんな感じだったはず。確か。


「イメージしろ・・・集中しろ・・・」


 目の前に集めた空気を凝縮するようにする。

 頼む・・・

 すると急に紫色に発光し、パチパチと音がする。さらに近くにいるだけで熱いくらいに熱が発生しているようだ。


「くっ・・・出来たのはいいがコントロールがむずい!」


 ゆっくりと、刀にプラズマを重ねる。


「エンチャントってところかな。」

 

 完成だ。

 薄紫色に発光しパチパチと雷を纏っているようだ。


「これが魔族に通じるかわからんけどやるしかないだろ」


 一度魔法を解く。

 今できたイメージを忘れないようにしないとな。

 俺の魔力量的に出来てあと1回だと思う、だから絶対決める。

 急いでアリアのとこに行かなければ!



続く

  

 


 



 



 


 


 

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