魔女密室虐殺刑

真瀬 庵

魔女の首切り密室

閉ざされていたドアの向こうは、想像よりも酷たらしく、それでいて単純だった。

 部屋の奥、備え付けの暖炉。炉を塞ぐ防護用の黒い柵に、かつて頭部があった部分をもたれかけて横たわる女性の体。その近くには彼女の頭部が転がっている。首を切断されたにしては、出血量が少なく、床に出来ている血溜まりはほんの僅かだ。

 安らかな表情のまま頭部が切断された死体は、この家の主である織木真理おりき まりで間違いない。


「どうしてっ……こんな!」


 私の後ろにいた岩田京子いわた きょうこが嗚咽を漏らし、どこかへ駆け出す。

 真理の娘である亜理紗ありさも、顔を伏せ、部屋を出て行った。

 部屋を見渡すが、凶器が見当たらないどころか、そもそも暖炉とベッド以外に物が無い。面格子付きの窓のクレセント錠はきちんと施錠されており、つい先ほどまでドアも内側からカンヌキが掛けられていた。つまり、部屋は密室であった。

  ふいにベッドから電子音が聞こえた。見ると、枕元にノートパソコンが開いた状態で置かれている。画面には、ゴシック体の大きな文字で「09:40」と点滅しており、その下には次のような文が示されていた。


『私、織木真理は魔女AIアルディナスの幇助によって死を遂げた。

 本日午前十時をもって、この家を焼き払い、私、ひいてはアルディナスを永遠の存在へと昇華させる。

 これを止めたければ、アルディナスが私を殺害した方法を答えよ。』


 さらに下には入力用のボックスがあり、カーソルが点滅している。


「先輩! 玄関扉が釘で固定されてて開かないです!」


 血相を変えた京子が部屋に飛び込んできた。

亜理紗も後に続き、蚊の鳴くような声で喋り出す。


「あの、私、てっきり雨が降ってるんだと思ってたんですけど、この臭いって、もしかして灯油なんじゃ……」


 左手にある窓を見ると、流れる透明な液体に虹色の模様が浮いている。

 今、私、勅使河原結依てしがわら ゆいと岩田京子、織木亜理紗の三人は、首切り死体の謎と共に、この魔女の家に閉じ込められてしまった。

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