八、これから
待ち合わせ場所は祠の前だった。タビの提案により花火大会に行くことになったのだ。あっちでは見られなかったから、と。
せっかくだから駐車場を使わせてもらった。管理人宅で料金を払うついでに、祠の土地は誰の所有地なのか尋ねた。神社の移転先に、無関係な一市民の私有地が指定されるはずがない。管理人の老人曰く「神隠し事件があった神社だから、子供がいつでも戻ってこられるように、うちの土地に祠を建ててもいいと申し出た」のだそうだ。となると、管理人のおかげでサキは戻ってこられたとも言える。感謝しなければならない。
「一時間」ではなく「一回」で百円という全く利益を得る気の無い謎の提示額に、三台分の料金を手渡した。
まずやって来たのはタビだった。車から降りたタビはコンビニの袋を持っていた。中身はもちろん、あれだろう。続いてユウも到着して、助手席からサキが降りてきた。
大人に戻ってきたとき、サキも二十五歳の姿だった。子供のときから整った顔立ちではあったけれど、まさかここまで美人に仕上がるとは。とはいえ、もう先約がいる。相手は無論、運転席の羆族の男だ。当時はそれらしい素振りも無く、仄めかされたことも無く、気配も全く無かったけれど(姉の嗅覚は察知していたかもしれない)、サキへの想いは十五年を越えて実を結んだようだ。鳴かぬ蛍が身を焦がす、というやつかもしれない。
羆族とヒト族のペア。当時だったら白い目で見られたかもしれないが、今なら多少の好奇の目はあっても二人で乗り越えていけるだろう。犬族の姉と、長いこと辛抱強く付き合い続けたヒト族の新郎のように。姉の押しが強かっただけかもしれないけれど。
タビが祠に油揚げを供え、みんなで手を合わせる。「行こうか、」と夕暮れの道を行く。
これからも、やよ励めよ。
けたたましい蝉の声に混じり、あの声が凛と響いた気がした。
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