種馬国王の第一七王女、蛮族に嫁ぐ

アソビのココロ

第1話

 あたしの父ちゃんは女に見境がなかった。

 あちこちに子供を作りまくった。

 父ちゃん誰かって?

 我がサラエデ王国の国王だよ。


 で、生まれた子をどうしたかっていうと、正妃側妃の子以外は認知だけして王位継承権を与えないわけだ。

 考えてみりゃうまい方法だった。

 政略に使える駒がいくらでもあるのに、御家騒動の原因にならないんだから。

 父ちゃんバカじゃない。


 基本的に生まれた王子王女の養育は母親に任せっぱなしだ。

 あたしリブリーもその王位継承権のない王女の一人だけど、父ちゃん養育費すら出しゃしねえ。

 おかしいと思うでしょ?

 でも問題は起きないんだなあ。


 何故か?

 国王である父ちゃんと知り合う女なんて、当然それなりの身分だったり富裕層だったりするわけよ。

 普通に考えて子供が苦労するわけないじゃん。

 ましてや御落胤どころか正統な血筋と認知されてるわけだし、チヤホヤされまくり。

 若様姫様とおだてられて育つのだ、普通は。

 父ちゃん頭いい。


 あたしの場合は事情が違う。

 あたしの母ちゃんは教会のシスターだった。

 顔と頭と喋りと身分と女の扱いがいい(あれっ? いいところ多いな)父ちゃんに誑かされて、あたしを身ごもってしまった。

 でも出産後すぐに母ちゃんは亡くなったから、あたしは教会の孤児院で育てられた。


 王女として認知された御墨付きが孤児院で通用するかっていうと、そんな甘い世界じゃないわけで。

 ええ、食い物争奪戦に勝利できるくらいにはしっかり逞しく育ちました。


 さてそうやって誕生した量産型王子王女は、言うまでもなく政略結婚の駒として使われるわけだ。

 サラエデ王国は大国だから、主に外国に婿入り嫁入りさせられる例が多い。

 大国から弱小国に送られる王子王女なんか、たとえ量産型であっても重んじられるに決まってる。

 そこまで考えてるんだろうなあ。

 父ちゃんマジで頭いい。


 そうした外国の中には所謂未開の蛮族が治めてる国もあるのだ。

 そんな国に限って戦闘民族だったりするから無視もできなくて。

 量産型王子王女もまあまあの坊ちゃん嬢ちゃんなので、蛮族の暮らしなんかに馴染めようはずもなく。

 野蛮国バルバルに嫁ぐ役は生きのいいあたしに回ってくるのでした。


 父ちゃんはここまで考えてあたしをこさえたのかしらん?

 もしそうだったら、父ちゃんメッチャ頭いい。

 でもそんな頭にはハゲてしまう呪いをかけてやる。


 初めてバルバルに到着した時は、そりゃあビックリしたもんだ。

 抜き身の槍を持った半裸の男達がズラーッと整列していた。

 どこの蛮族かと思った。

 バルバルの蛮族だった。


『サラエデ王国今上王マチレスが一七女リブリーです。御丁寧なお出迎え、感謝しております』

『『『『『『『『ウラーウラー!』』』』』』』』


 歓迎の掛け声らしい。

 どこの蛮族だ。

 バルバルの蛮族だ(二回目)。


 赤銅色の肌をした精悍な男が進み出てきた。

 これがあたしの婚約者の王子か。

 鋭いのに優しさを感じる目が印象的だった。

 もっと印象的なのは、ペニスケースが一番大きかったことだ。

 身分の高い男ほど大きいのかと思ったら、バルバル王陛下より大きかったぞ?

 困ったな。


『ダイイチオウジ、グルガン、ダ』

『グルガン様』


 ぎこちない共通語にビビっときたね。

 これはいい男だ。

 うまくやっていける気がした。


 あたしが故国サラエデから持ってきたものといえば、植物の種と株だ。

 幸い教会の孤児院だったから、読み書きはしっかり叩き込まれ、本だけは充実している環境だった。

 バルバルの気候でも育ちそうな作物を調べて選ぶことができた。


 しかしバルバルの農業は想像以上にデタラメだった。

 何せ肥料をやることを知らない。

 作物を作っては畑を焼いて別のところで畑を作る。

 時に大火事になったりする。

 こんなんじゃ発展するわけがない。


 あたしはバルバル人達に農業を教えることから始めた。


『いいですか? 大地が仕事をして実りを我々にもたらしました。その時は……』


 大地は働いた分報酬を要求する。

 報酬として肥料分を与えなければ次から働きが悪くなるという考え方は、蛮族達にヒットした。

 戦いの後、腹を満たさないのはあり得ないからだそうだ。

 未熟ながら農業の初歩がスタートした。

 肥料分の考え方が行き渡ったら、連作障害と輪作を教え込もう。


 その他、私には共通語の教育を期待されていた。

 共通語はサラエデ王国をはじめとする中原諸国で用いられているが、バルバルでは話者が少ないのだ。

 流暢に話せる者は皆無と言っていい。

 こんなんでは進んだ中原諸国の文化を導入しづらい。

 任せろ、あたしが教えたる。


 あたしの困ったことはないかって?

 あるある、やっぱり故国サラエデとは風習が違うから。

 グルガンが得意げにウサギやシカの頭を持ってきて並べるのは何かと思った。

 まさか嫌がらせのわけはないし、ネコが飼い主に獲物を見せるあれ?


『クビイツツ、アイシテルノ、アイズ』


 おおう、愛してるの合図だった。

 えらく殺伐とした愛してるもあったもんだ。

 でも愛する者に獲物を捧げるという意味ならありなのかもな。


 今はどうかって?

 幸せだよ。

 あたしにはバルバルが合ってるみたい。

 バルバルでしか取れない香辛料をサラエデに輸出できるようになったんだ。

 どんどん国が進歩していく様子を楽しみに見ているよ。


 私生活?

 五人の子供に恵まれた。

 ちなみにあたしの父ちゃんはバルバルでかなり尊敬されている。

 子供の数が多い、すげえ、という感覚らしい。


 あたしの生んだ五人の子は、名前を上からアキザ、イルバン、シーナ、テッド、ルルナと言うんだ。

 子供の頭文字を順に読んでみ?

 今は合図が変わったけれども、 グルガンを愛する思いは変わらない。


 結果的に幸せな生活をプレゼントしてくれた種馬父ちゃんには、髪の毛が生えてくるといいねと願っといた。

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