未来への足跡《サイドストーリー》

アカリン@とあるカップルの家族誕生小説

願いの果てに 前編

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 体調の変化に気づかぬまま旅行へと旅立った二人は、多忙な中やっとのことでオフを合わせ旅行へと向かう。

しかし折角の旅行にも関わらずどこか思い切り楽しめない里美。

二人のトラベルストーリー。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「おい、そんな格好でフラフラするなよ。」


ここは自宅なのだからどんな格好で過ごそうが本人の自由なはずなのだが、修二が今まで口にしてこなかったはずのことを言うようになったのには理由がある。


「あのね私、妊娠してた。」


仕事前に話があると言われ、待ち合わせ場所へ行くと既に書類やらを手に持ち勤務に入る準備万端の里美。

そんな彼女から予想外の告白を受けたのは三日前の出来事。

職場で倒れ、ようやく発覚した妊娠の事実はすでにそれなりの週数を迎えており、現状は本人と修二、一番近しい親友の利佳子のみが知っている事実だった。

そして妊娠の事実と一緒に栄養失調とまで診断されたことは、今の時代どんな食生活を送っていたのかと疑うものがあった。

しかしそれも、今思えば妊娠によるやや重めの悪阻によるものだったのだ。


「桃瀬な、体調が悪くてしばらく俺もここに泊まって世話をすることになった。」

「お姉ちゃんの世話?」


修二がそう告げて桃瀬家での短期生活が始まったのが昨日のこと。

お互いに世話をする、してもらうような年齢でもないのだが、妊娠となると自身がお腹の子の父親であることもあり、合わせて悪阻が重いとなると少々話が異なる。

今はお互い独身の身だが妊娠が分かった現状、近いうちに入籍する運びにはなるだろう。

二人は学生時代、過去に同棲していたこともあるが、里美はその頃と少しも変わらない、自宅での自由な生活ぶりに修二は呆気に取られていた。


「本当に歩美ちゃん、大学生の女の子と一緒に暮らしてるんだよな?妹だしまだ女子同士だから良いと思うが、この汚い部屋は大人としてどうなんだよ。」

「家族なんだからいいんじゃないの?」


自宅に持ち帰った仕事の書類は置きっぱなし、食事をしながらテーブルに広げることもあり、汚したらどうなるものか見ていて気が気でなかった。

リビングは妹の歩美がそれなりに片付けてはいるが、自室はひどい有様だ。

どうして、この機密度の高い資料を自宅に持ち帰っているのか、表紙には持出厳禁の記載にもかかわらず。


終わりの見えない重い悪阻の症状に、同居する妹は「飲み過ぎ!」などと苦言を呈していたがお腹に子を宿している身、さすがの里美も飲酒は止めている。

というよりも、一切飲む気にはなれなかった。

サポートに来ている修二に至っては禁煙の意思はないようだが、里美の前での喫煙はしなくなった。



とある休日、今日は珍しく全員が家にいる。


「お姉ちゃん、まだ寝てるの?大丈夫?生きてる?」

「桃瀬、具合悪いんだよ。俺が見てくる。」


陽も高く登り、そろそろ正午を過ぎる。

歩美は健康体の里美がここ連日具合悪いだなんて珍しいこともあるのだと、目を丸くした。

部屋へ入ると修二は里美を気遣うように優しく話しかける。


「起きられそうか?昼メシはどうする?」

「いらない…」

「腹、減ってないか?何なら食べられそう?」

「すごく冷たいプリン…」

「そうか、じゃあ可愛い奥さんと赤ちゃんのために買ってくるかな。」

「まだ奥さんじゃないもん。」

「そのうちそうなるだろ。ちょっと待ってろ、買ってくるからな。」


里美の頭をくしゃくしゃと撫でるとその場を立ち上がり部屋を出た。


「桃瀬な、昼メシ今は食べられないそうだ。食べやすそうなもの買ってくるから、歩美ちゃんは先に食事していて良いぞ。」

「お願いします。」


流石にピンポイントでプリンは冷蔵庫には入っていなかったため、修二はコンビニまで買い物に出かける。

途中、ここ数週間ほどのことを振り替えながら目的地を目指した。



数週間前

修二と里美は南国三泊四日旅行へ旅立った。

現地へは飛行機で約三時間。

長い三時間も、かつて勤務していたドイツと日本の往復に比べれば短いものだ。

今回、この旅行にお互い仕事は持ち込まないという約束をした。

空港でも機内でも、まるでどこにでもいるカップルの二人ではあるが、イチャイチャしたりするようなお互いそんなタイプではなかった。

現地に到着し、修二の運転でホテルまで向かう。


「昼メシどこ行くか決まったか?」

「んー、やっぱりステーキ?この、ハンバーガーも美味しそうじゃない?」


移動途中、空港でもらった観光ガイドを見ながら大通り沿いにある飲食店をメインに迷う。

赤信号で止まるとボリュームたっぷりのハンバーガーどドリンク、オニオンリングのセットの写真を見せた。


「これもいいんじゃない?」

「桃瀬は相変わらず、こういうの好きだな。じゃ、行ってみるか。場所は?」


路肩に停車し、ナビに情報を打ち込むと最寄りの店舗はここから三十分ほどかかるようだ。

しかしその目的地はホテルまでの通り道、そのままその飲食店へ向かうことに決定した。

それから暫く車を走らせると、何やら里美の口数が少ない。


「桃瀬どうした?眠かったら寝てもいいんだぞ、今朝は早かったからな。」

「ちょっと、酔ったかも。」

「大丈夫か?だったら寝てていぞ、着いたら起こすから。子どもじゃないんだからさ。ずっと下向いて見てるからだろうに。」


修二は窓を開けて車内の風通しをよくすると、里美の様子を伺いながらも目的地を目指す。

しばらくするとスースーと聞こえてくる寝息に、里美も色々と疲れていたのかと思う。

それから今回の旅行もあちこち行くより、予定を変えてホテルでのんびりするのも良いと考え始めていた。

目的地に到着して車を停めると、周囲は賑やかに観光客なのか地元民なのか人で賑やかだった。


「桃瀬?着いたぞ。」

「ん…」


里美の肩を叩いて起こすと、まだ目がトロンとしている。


「着いたぞ。昼メシいくんだろ?大丈夫か、車酔いは?」

「外出て歩けば治ると思う。」


まだ寝ぼけているのであろう里美は少しよろけ、二人は荷物を持ち外に出ると自然と手を繋ぎ歩き出した。

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