第22話 暴力男の結末

 校舎の裏。


 閑散とした場所なのもあり、不良の溜まり場としては最高の場所だ。


 そんな場所で小柄な生徒を大柄な三人が囲む。


「おいおい、栗山くんよ~金は持ってきたんだろうな?」


 威圧的な態度を取る恐田に栗山は震えていた。


 僕が渡した腕輪はちゃんと装着しているのが分かるが、まだ真価・・を経験していないから、信用できないのも納得だ。


 最悪、今度は割り込みに入ろうと思うけど、できれば彼自身の力で打ち勝ってほしい。


「もうない……よ……」


「ちっ、使えねぇ雑魚だな!」


 そもそも五千円というのは、高校生にとっては非常に大きな額だ。


 探索者がこれだけ普及して、中位層からは普通の働きよりもずっと稼げるとはいえ、初心者の頃はそう稼げない。


 一番の理由はドロップ率に関わる【運】のステータスがレベル上昇してもあまり上がらない。


 中には【運】を上げる装備品もあるが、それらは通常ステータス上昇品よりも高い・・


 軌道に乗るまでは、普通にバイトをした方がいいくらいだ。


 恐田が栗山くんの顔面を叩き、吹き飛ばした。


 栗山くんの体が宙を舞って、地面に叩き込まれる。


 どうにか彼に勇気を出してもらいたいが、厳しいか……?


 と思った時、校舎裏に声が響いた。


「や、やめろおおおおお!」


「あん?」


 声がした方には三人の男子生徒が立っていた。


 バッジは遠くて見えないのでクラスは分からない。


「なんだ。雑魚トリオじゃねぇか」


 強そうには見えない三人の男子生徒は、震える体で恐田に向かっていた。


「や、やめろ……栗山くんをこれ以上、傷つけないでくれ!」


「ほぉ……じゃあ、お前が払うか?」


「そ、それは……」


 恐田……どこまでも腐った奴だなと改めて思う。


 隣で一緒に見守る紗月も、怒りの表情を露にしていた。


「雑魚どもが!」


 恐田達が三人の男子生徒に襲い掛かって、みんな簡単に吹き飛ばされた。


 ダンジョンで手に入れた力をこんなくだらないことに使うなんて……本当に許せない。


 そろそろ我慢の限界――――そう思った時、栗山くんが立ち上がった。


 その目から溢れる大粒の涙は悔しさが滲み出る。


 両手を握りしめて、現状に抗う彼を、僕は心の中で応援する。


「ふ、ふざけるなああああ!」


「あん?」


「お、お前達なんて怖くもなんともない! ――――仲間を傷つける奴は許さない!」


 踏まれていた男子生徒が涙ながらに栗山くんを見上げる。


「雑魚の分際で吠えてんじゃねぇ!!」


 恐田が殴りかかる。


 そのままでは栗山くんは殴り飛ばされるだろう。


 ――――だが、現実は違った。


 恐田が振り下ろしたパンチをすれすれに避け・・・・・・・、腹部にパンチを叩き込む。


「がはっ!?」


 殴られた恐田の表情が一変し、口から大量の唾を吐き出しながら苦しそうに地面に倒れ込んだ。


 驚いた仲間二人も栗山くんに殴りかかるが、一人目を背負い投げ飛ばして、二人目は姿勢を下げて足をひっかけて倒して顔面にパンチを叩き込む。


 鮮やかな対応に思わず拍手を送りたくなる。


「僕のことはいくら傷つけても構わない。でも仲間を傷つける奴は絶対に許さない!」


 苦しそうにしながら見上げる恐田に、かかと落としで顔面を叩き込んで戦いは決着を迎えた。


「みんな!」


「「「栗山くん!」」」


「ごめんな……僕がもっとしっかりしていれば……」


「ううん……むしろ僕達こそ、見て見ぬふりをしてしまってごめんよ……パーティーメンバーだったのに……本当にごめんよ……」


「気にしてないよ。それにみんな僕を助けに来てくれたじゃないか。本当に嬉しかった……ありがとう」


 それからはやってきた先生に恐田達の悪行を伝えた。


 この一件はわりと大きな問題となり、二度と探索者の力で人を傷つけないように防止に力を入れてくれることとなった。


 恐田達はというと、非常に重い罰になった。


 本来なら未成年者として法律が適応されるはずだが、こと探索者になると未成年者を越えた法が適応される。


 ただのイジメとかなら転校されるくらいで済んだかもしれないが、探索者法により未成年者でも有罪判決・・・・となり、執行猶予なしの実刑になった。


 国がここまで厳しく探索者法を適応するには理由がある。


 恐田達のように探索者としての力を一般人に振るえば、それは普通の人よりもずっと強く、凶器になるからだ。


 特に高校生となり、羽目を外す者も現れるため、【探索者養成計画】の一環でもある未成年者にも探索者法が適応されることを強く見せているのだ。


 恐田達は実名公開までされ、全国ニュースとなった。


 当然、学校にはしばらくクレームの電話で頭を悩ませたらしいが、生徒自身が解決せざるを得なかった現状を思えば、学校にも落ち度はあると思う。




 事件から翌日の校舎裏。


「木村くん。腕輪本当にありがとう」


 栗山くんが腕輪を返してくれた。


「栗山くんの頑張り、凄かったよ」


「この腕輪がなかったら、僕は勇気を出せなかったと思う」


「そんなことはないよ。全部きっかけに過ぎないんだ。君自身には力が眠っているからね」


 僕は彼の校章に付けられたバッジを指差した。


 Cクラス。それだけで探索者としての才能があるということだ。


「僕なりに頑張っていくよ……! それに夢もできたから、頑張りたいんだ」


「ああ。応援してる。頑張ってね」


「ありがとう……!」


 そう言った彼は、待っている仲間のところに向かった。


 仲間達も全員僕に感謝を伝えてくれる。


 離れる彼らは全員が笑みを浮かべていて、僕まで幸せになるようだ。


「せ~いやくん~」


「うわっ!? 紗月?」


「えへへ~お疲れ様~」


 いたずらっぽく笑みを浮かべた紗月が僕を見上げる。


 あれだけ怒っていた紗月もすっきりしたようで、何よりだ。




 しかし、この時はまだ知らなかった。


 その日の夜に波乱が待ち受けていたことを。



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 【名匠の鉄のブレスレットLv.10】

 カテゴリー:装飾品

 レアリティ:Fランク

 腕力+30、俊敏+30、魔力+30

 耐性+30、運+10、身体能力+5

 攻撃力+50、防御力+100

 Lv1:腕力+27、俊敏+27

 Lv3:魔力+27、耐性+27

 Lv5:防御力+99

 Lv7:攻撃力+50

 Lv9:運+10

 Lv10:身体能力+5

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