第16話 名前
オークナイトを倒しながら進む。
次のゾーンでは骸骨が見え始めた。
「スケルトン。ああ見えて、攻撃力が凄く高いからとても危険な魔物だよ」
「分かった。大盾で防げなさそうなら、作戦を変えるけど、ひとまずこのままいこう」
「は~い」
スケルトンの前に立つと、オークガードの大盾に惹かれるようにふらふらと歩いてきた。
僕の持つ大盾を細い骨の拳で叩いてきた。
ガーンと強打する音が響く。
「問題ない! 水無瀬さん、やっちゃって~!」
「うん……!」
彼女の腰に下げられた刀が抜かれて、高速乱斬りでスケルトンが一瞬でその場で倒れた。
スケルトンの厄介な理由は、強さもあるけど、ゾーンに存在する魔物の数だ。ゴブリンみたいに群れているわけではないが、非常に大勢のスケルトンが佇んでいる。
一体ずつ倒したくても、近くのスケルトンを巻き込みかねない。
挑発のおかげで遠くからスケルトンを引っ張って来れるため、巻き込まれは少ないが、挑発がなければ相当苦労していたと思う。
スケルトンは一体ごとに経験値12を獲得できた。
◆
「いっぱい倒したね~」
「ああ。疲れてない?」
「大丈夫!」
ダンジョンから帰還して、ベンチに座って休憩を取る。
まだ授業が終わるまでに二十分も残されている。それまではダンジョンから離れられないので、ここで待つ。
「それにしても、誠也くんって運の数値が高いの?」
「あ、あはは……装備のおかげだよ!」
「…………レベル1だもんね~」
「そ、そう! あはは……」
「はいっ。今日の分。マジックパックがあるから、これからはリーダーが管理してね」
両手いっぱいのオークナイトの核とスケルトンの核を渡してくれた。
「う、うい……」
全てマジックパックに入れる。オークナイトの核は七個、スケルトンの核は十五個もあった。
「換金したらちゃんと分けるから」
「…………それなんだけどさ。お願いが……あるんだよね」
「お願い?」
「換金した額は分けなくていいから――――夕飯……ご馳走して欲しいな……なんて」
「夕飯? 別にそれはいつでも構わないけど?」
彼女は気が抜けた表情で僕を見る。
「どうかしたのか?」
「てっきり嫌がると思って」
「そもそも毎日夕飯は作ってるし、ちょっと量を増やせばいいし、姉さんがいないと一人で食べるからな。でも帰り時間は大丈夫なのか?」
「それは大丈夫」
彼女の実家がメイドを雇えるくらいのお金持ちで、両親が忙しいことは知っていても、その他は全く分からない。
ちらっと僕を見つめた彼女は視線を落として話した。
「実は両親と別々に暮らしてるの。メイドさんが朝働きに来てくれるから、朝と昼のご飯は作ってくださるんだけど、夕飯は外食になるから…………料理はあまり得意じゃなくて、昔からずっと勉強ばかりで……」
…………凄い親近感。まるで姉さんのようだ。
思わず笑みが零れてしまって、彼女の顔が疑問に満ちた表情で首を傾げる。
「ごめんごめん。何だかうちの姉さんに似てるなと思って。姉さんは性格もあるけど、いつも僕のために勉強を頑張ってくれたから、僕は料理を頑張っただけなんだよね。水無瀬さんが頑張る感覚、凄く分かる気がするよ」
「うん…………そ、それとね? えっと…………そろそろ……名前で呼んで欲しいな……なんて」
名前!?
そういや、今日の昼から僕を名前で呼んでいるよな。
「パーティーメンバーってお互いの命を預ける仲だから、少し近づけるなら私も嬉しいな……」
そういや、僕が持つ探索者雑誌でも『仲間を大切にすることこそが探索者として大成する方法である』と一ページ目に書かれていたっけ。
女子を名前で呼ぶなんて初めての経験で緊張する……。
一度小さく息を吸い込んで深く息を吐いて落ち着こう。
探索者は興奮や恐怖を感じた時こそ冷静にだ。
「さ、
名前を口にして恐る恐る彼女の顔を覗くと、そこには夕暮れに照らされて赤く輝いている満面の笑顔が咲いていた。
笑顔の紗月の瞳に飲み込まれそうになった。
「――――ごほん」
「「うわあっ!?」」
音がする方を見たら、清野先生が立っていた。
「誠也。出席は確認したから帰ってもいいぞ」
「は、はいぃ……ありがとうございます……」
丁度Aクラス担任の眼鏡をかけた女先生も出てきたので、紗月も挨拶をして一緒に帰路についた。
◆
家に帰る前に材料を買うために近所のスーパーにやってきた。
日本のスーパーは現在二種類のタイプがあり、一つは品質は普通だが安価なものを扱っている大衆向けのスーパーと、もう一つは最高品質だけを揃えてある代わりに高額な商品が並ぶ高級スーパーが存在する。
探索者はサラリーマンよりも稼ぎが良いらしく、高級スーパーは意外と人気だ。
僕はというと、姉さんから上級探索者として稼ぎが高いので、より社会に還元するために高級スーパーを利用してほしいと頼まれたのもあって、いつもの高級スーパーにやってきた。
野菜から肉、魚。値段が高い代わりに一つ一つが丁寧に扱われていて、どれも新鮮な上に味も素晴らしい。
姉さんのお零れだが、僕もいつかちゃんと自分で稼いだお金を社会に還元して、姉さんのような立派な探索者になりたい。
まだ始まったばかりだが、紗月という仲間もできた。
姉さんの背中を追いかけて明日からも頑張ろう。
その前に今日は栄養バランスを考えて夕飯を作ろう。
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