第6話 学校レベル成長限界一位の苦悩
入学して五日目。
今日も午前中が終わり、お昼時間。教室で一人で弁当を開いて食べる。
クラスメイト達はそれぞれメンバーの四人ずつで集まって食事を取っている。今月はずっとこのメンバーでダンジョンを攻略する。四人の団結力は上がるべくして上がる。
その時、通りかかった他のクラスの生徒が中を覗いては、僕を見てはクスクスと笑う。
中学の頃もそうだったが、正直僕は人との付き合いが苦手だ。
姉さんが最強探索者であることは、周りにバレないようにしている。一番の理由は、姉さんを利用するために近づかれては困るからだ。誰かと仲がよくなるということはそういうことだから。
いつか信頼できるメンバーができたら――――と思っているけど、もうその心配もないかもな。作れないという意味で。
食事が終わり、ダンジョンに向かう道中、とある生徒達が僕の前を塞いだ。
「おいおい~レベル1よ~」
大柄で威圧的な態度。僕よりも一回り大きな彼は顔を高く上げてわざと見下ろす。
「はい?」
「レベル1で今日もダンジョンとは大変だな~」
「そうでもありません」
「俺達が仲間になってやろうか?」
「いえ。結構です」
間髪入れずに答えると、男の表情が一気に変わる。
「おいおい……俺達が組んでやるっつうんだ。代わりに一日五千円。いいな?」
「お断りします」
「…………」
そもそも僕が持つ金は姉さんが死の隣りあわせで稼いだお金だ。そんなくだらない理由で渡したくはないし、僕は一人の方が性に合う。
そう思っていると、男の右手が僕の顔面に叩き込まれる。
「痛っ!」
「おいおい。わざと遅く振ったパンチすら見えねぇのかよーぎゃははは!」
男子生徒達が俺に向かって大声で笑う。
校内暴力って禁止のはずだが……こんなことが許されるのか? それとも探索者なら、自力で切り抜けろ……という訳はないか。
探索者の鉄則。弱者を踏み潰してはならないというものがあるはずだ。
僕は姉さんに散々聞かされてきた。姉さんに色んなことを教わって、他人よりも鍛えてきた。あとはレベルさえ上がれば…………。
だが、レベルが開花した人間同士はステータスが物を言う。僕は男のパンチに一瞬も反応できなかった。
それがまた悔しくて拳を握りしめる。
その時――――
「待ちなさい。それ以上、彼に手を出すなら私が相手します」
綺麗な声が男子生徒達の後ろから聞こえてきた。
「ああん?」
男子生徒達が振り向く。その隙間から美しい黒い髪をなびかせた女性が、凛とした表情で男子生徒達を睨んでいた。
「ふん。
「私の名前は水無瀬です。女王様なんかじゃありません」
「はいはい~初日にAクラス全員から
「っ……」
水無瀬さんと言えば、レベル成長限界値歴代三位の高さを記録したはずだ。なのに……断られたってどういうことだ?
「おい。
そう言い捨てた男生徒は仲間を連れて大声で笑いながら歩き去った。
毅然とした態度で彼らを見送った水無瀬さんは、一気に表情を明るくして僕のところにやってきた。
「大丈夫?」
手を伸ばしてくれる。
「う、うん。ありがとう。助かったよ」
ちょっと迷ったけど、彼女の手を握って起こされた。
男が女子に起こされるって……はあ……やっぱりレベルが上がるって羨ましいな。
「君って確か、木村くんだよね? レベルがその……」
「気を使わなくて大丈夫だよ。その通りでレベル成長限界値が1の
無能と言われて、その言葉が本当にしっくりくる。
「仮にレベルが1だとして、それは無能とは言わないわ。だから気にしないで。もし困ったことがあったら言ってね」
「ありがとう。今日助けてくれただけで十分だよ。それはそうと一つ聞いてもいい?」
「うん?」
ちょっと気になった事を聞いてみる。
「断られたって言ってたけど、本当?」
「っ……う、うん……」
彼女の顔は酷く辛そうだ。
ああ……あの日の自分もきっとこういう顔をしていたんだろうな。
「今からダンジョンに向かうんだけど、良かったらその間に聞かせてくれる? 力にはなれないかもだけど、話しくらいなら聞くよ」
「…………ふふっ。君って意外と大胆なんだね?」
「よく言われる。まあ、未来の天才様に近づいておきたいからかな~?」
「それは嘘ね。というか、君って女性の扱い慣れているわね? 姉妹でもいるの?」
「ああ。姉さんがいるよ。結構手のかかる姉だよ」
「ふふっ。何となく分かるかも? じゃあ、せっかくだからちょっと話ちゃおうかな~」
もっと厳格で人と距離を取りそうな人だと思ったら、姉さんに
いつも誰よりも前に立ち、毅然とした態度で突き進むが、実は誰よりも寂しがり屋であるところだ。
「実は……学校の歴史上、一番高かった先輩とパーティーを組んだ人達がね。ことごとく心が折れてしまって、Aクラスなのにも関わらず、何人も探索者を諦めてしまった事件があってね。それが噂になって誰も私と組みたがらなくて……」
「一番…………えっと、名前とか知ってる?」
「名前はよくわからないけど、確か……木村くんと同じく、キムラ先輩だったはずだよ?」
…………姉さん。帰ったら覚悟しとけよ。
ダンジョンに着いて、彼女は「何だか話したら少し良くなったかも。ありがとうね。木村くん」と笑顔で手を振って、一層の奥地に向かった。
彼女の後ろ姿を見ながら、小さく「頑張れ」と声をかけて、次は僕自身も奮い立たせた。
今日の出来事――――確かに僕はレベル1の無能だ。
でも、ダンジョンに入って、僕でも使える力を手に入れた。
僕自身は無能なのかも知れないけど、僕の装備達は強くなれる。ならば……僕が目指すべき場所はそこだ。僕は強くならなくてもいい。僕の装備が強くなってくれれば、探索者になれるかも知れない。
消えかかった希望の灯火が、また大きく燃え上がった。
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