第4話 目標

「う……ううっ……そんなぁ…………」


 ソファーに座り、ポロポロと涙を流す姉さん。


 せっかくの綺麗な顔が台無しだ。


「ごめんね? 姉さん……僕なんかのせいで泣かせてしまって……」


「違っ……誠也は……悪くないもん……私が悪いのよ…………ううぅ……」


 事実は変わらないので、姉さんの頭を優しく撫でて、何とか機嫌を回復してもらう。


「あんまりだよ……成長限界が1って……神様だってずっと誠也が頑張ってきたの……見たはずなのに!」


 まあ、姉さんの期待に応えようと、それなりに頑張ったのは事実だ。


 探索者になるための勉強もそこそこやってたし、情報も手に入れてたし、体を鍛えていたのも。


 レベルで上がるステータスの数値で強さが決まるとはいえ、中でも【俊敏】に関しては体重と装着装備の重さの影響を受けるので、探索者は基本的に細身であるのが一番理想だ。


 制服靴のように身を軽くしてくれる装備品もあるけど、それは非常に高額なため、基本的に目指せ細マッチョだったりする。


 ダンジョンの中で魔物と戦っていれば、嫌でも運動になるので太る人はあまり見かけない。


「姉さん。僕は大丈夫だから。僕のために泣かないで? 美味しいご飯を作っておいたから一緒に食べよう?」


「誠也……」


「はいはい。さあ、おいで」


 姉さんをテーブルに着かせて、一緒に手を合わせて「いただきます」をする。


 頑張ってる姉さんを支えたくて練習し続けていた料理。自分でいうのもあれだが、気付けばそれなりに上手くなっている。


 何かを頑張れば常に上達する。それが人のことわりだ。


 けれど、レベルだけはどうにもならない。なぜなら、人ではなく神の理だからだ。


「…………うん。決意した」


「ん?」


「ううん。何でもない。ねえ? 誠也」


「うん?」


「学校生活は大丈夫そう?」


「う~ん。大丈夫だと思う。それに今日初めてダンジョンに行ったけど、意外と楽しかったよ」


「そっか……えっと、装備品は暫く持って行けないんだっけ?」


「そうだね。最初のうちは制服だけで足りるからね」


 全員平等。というわけにはいかない。


 僕が住んでいるマンションだって、普通の人は一生手が届かない。それくらい上位探索者の収入は凄まじいものだ。


 姉さんは探索者の中でも最上位の探索者。偉業まで達成するくらい素晴らしい探索者で、当然、その収入もとんでもない額だ。


 収入全てを僕に報告してくるので、全容も知っているし、中には投資の依頼をどうするか僕に聞いてきたりもしたくらいだ。


 そして、当然のように家の片隅に置かれているのは――――超高級装備ばかりだ。


「誠也? 使えるものがあったら、いつでも持って行ってね? あと必要なものがあったらすぐに言ってね。むしろ、あのカード使って買っていいから! 散財していいから!」


「散財はしないし必要なものしか買わないよ」


 僕のために無制限クレジットカードなんて作ってくれたからな……。


 いつもの過保護っぶりの姉のマシンガントークに答えながら、夕飯を食べて風呂に入って、それぞれの部屋に戻った。


 ボーっと天井を眺めていると、ノックの音が聞こえてきて、扉がゆっくり開いて大きな枕を持った姉さんが顔を覗かせた。


「誠也? 今日は一緒に寝ちゃダメかな?」


「姉さん……僕もう高校生だよ?」


「で、でも、姉弟一緒に寝てもなんらおかしくないだろ? ね~?」


「はあ……分かったよ」


「やった~!」


 日本最強探索者ともあろうお方が、乙女の顔で枕を持って僕の隣に置いた。


 真っ赤な髪と真っ赤な目。昔の姉さんは黒髪黒目だった。


 探索者として強い力に目覚めると、髪と目の色が変わる現象がある。特に、特化した力・・・・・を持つ人は、その力の色が濃く出る。


 姉さんの場合【炎】に関する力だ。


 最初から広めのベッドを買ってくれたから二人で並んでも狭くないベッド。


 久しぶりに姉さんの温かさを感じながら、眠りについた。


 ◆


 今日も午後からダンジョンの授業になった。当然のように一人になって、ブルースライムと戦う。


 昨日の経験があったので、ブルースライムの突撃を避けながら斬りつけるを繰り返すと、昨日と比べてあっという間に倒せるようになった。その上で、吹き飛ばされないので疲れもしない。


 何体ものブルースライムを倒し続ける。


 倒してもレベルが上がるわけではない。が、僕には試したいモノがあるから。


 レベルを上げるために必要な経験値は全部で100。


 残りを集めるために、その日から必死にブルースライムを倒し続けた。

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